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事業用借地権の上限期間が50年まで延長されました

【1】定期借地権

定期借地権とは、平成3年に制定された借地借家法で認められた借地権のことで、一般的には更新されない借地権といわれているようです。

この法律が制定されるまでは、借地権は、一旦契約してしまうと法律上かなりの長期間にわたる存続期間となる上、存続期間が満了した際も地主側から「更新をしない」という処理をするには「正当な理由」(法律(借地法)では、「正当な事由」と表現されていました)が必要でした。一般には契約の当事者が期間を定めていれば、その期間を更新するという合意をしない以上は、期間が満了すれば、契約が終了するのが当然です。

事業用借地権の上限期間が50年まで延長されました

しかし、土地を借りる側は地主に比較すると社会的弱者であることが多く、借地権を保護する必要が強くあることから、借地法では、借地契約は借主が希望する限り、更新されることがむしろ原則であり、それでも地主があえて更新を拒絶するには、上記の「正当な理由」が必要ですという構造にしたのです。

この正当な理由とは、地主自身がその土地を使用しなければならない事態になった場合やあるいはそれに匹敵するくらいの理由が要求されており、新しい建物を建てたりするなどして土地の有効利用を図りたいなどという理由では足りず、立退料を高額に積んでも「正当な理由」になるわけでもなく、要するに地主にとっては、更新を拒絶することはかなりの高いハードルとなっていたのです。

それゆえ、まだ賃借をしていない土地を所有する地主としては、「一旦貸してしまうと、一生返してもらえなくなる」という意識となり、結果として遊休土地がありながらこれを貸し渋るというような現象が生じていました。他方、借りる側としても、そこまで長期間にわたり借りたいのではなく、「別に更新されなくても構わないので、一定の契約期間だけ借りたい」と考えている場合も多くありました。そこで、借地借家法では、それまでの「普通借地権」に加えて、更新されない形態の「定期借地権」というものを、新たな制度して取り入れたのです。

定期借地権には3種類あり、50年以上の期間を定める「一般定期借地権」、借地権設定後30年以上経過した日に借地上の建物を地主が買い取ることにより借地権を消滅させる約束をする「建物譲渡付借地権」と今回のテーマである事業用借地権があります。

【2】事業用借地権とは

事業用借地権が成立するには、まずその言葉にも表れているとおり、もっぱら事業の用に供する建物の所有を目的とするものでなくてはいけません。事業の用に供するというと、賃貸マンションなども含まれそうですが、居住用の建物は除かれることになっています(改正前の借地借家法第24条1項)。

また、期間もその範囲が定められていて、平成3年制定の借地借家法では、借地権の存続期間を「10年以上20年以下」の一定期間でなければならないとされていました(改正前の借地借家法第24条1項)。

そして、この事業用借地権の設定契約は、「公正証書」によってしなくてはならないとされていました(改正前の借地借家法第24条2項)。

以上の借地目的、期間、契約方法が全て具備した借地契約をしたときに生ずる借地権が事業用借地権ということになります。

【3】事業用借地の存続期間の延長

上記の通り、事業用借地権の存続期間は10年以上20年以下の一定期間に限定されていたのですが、これは平成3年制定の借地借家法により「普通借地権」の存続期間が30年以上となり、それより短い期間での「定期借地権」の創設が求められ、また平成3年当時は事業用に土地を借りる側のニーズがその範囲内に集中していたためのようです。全く新しい制度であったため、量販店や飲食店などの店舗経営を想定していたようです。

しかし、初期投資のコストを抑制したり、地価が下落するリスクを回避するなどの理由で、企業が土地の保有や取得を控えるようになり、事業用借地が業務施設のために利用されるようになってきました。例えば、大規模な商業施設や工場等のように、制度が発足した時点ではあまり予想していなかった利用方法が増えてきたようです。

そして、このように利用する業態の変化に伴い、従前の10年以上20年以下という期間の設定が実態に合わないようになってきました。そのため、存続期間が経過後に再契約をするなどして対応することが多かったようですが、この場合再契約も10年以上としなくてはならないため、やはり融通性には欠けていたようです。また、国土交通省が実施したアンケートでは、事業用借地権の存続期間が上限である20年とするケースが過半数を占めていたり、存続期間が地上建物の税法上の償却期間を下回っているケースが約8割に達している状況が明らかになり、存続期間の上限を延長や事業用借地上の建物の償却期間についての変更を求める意見も多く寄せられたようです。

そこで、この事業用借地権の存続期間を、「10年以上20年以下」から「10年以上50年未満」に変更する借地借家法の改正法が平成19年12月21日に公布され、平成20年1月1日から施行されるに至ったのです。

なお、事業用借地権の設定は、公正証書によってしなくてはならない点は、従前と変わりありません。

【4】今後の事業用借地権

このように、事業用借地権の存続期間の範囲が「10年以上50年未満」と広がったことから、税法上の建物償却期間との整合が取りやすくなり、RC造等のいわゆる堅固な建物や中層の建物を借地上に建てることも可能となり、比較的長期の事業展開も借地上でできることになりますし、制度発足当初からの狙いであった土地の豊富な供給と有効利用がますます図れることとなるでしょう。

H20.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。