中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
不正競争防止法における営業秘密の保護
はじめに
先日、東芝の営業秘密にあたる研究データを韓国企業に流出したとして、東芝の提携先企業の元技術者が、不正競争防止法違反(営業秘密開示)で逮捕、起訴されました。また、東芝は、情報流出により1000億円以上の利益を損なったとして、韓国企業を相手取り、損害賠償を求める訴えを提起しています。
企業の営業秘密の情報流出に対する危機感が高まっているところですが、今回は、営業秘密が、不正競争防止法上、どのように保護されているのかを概観してみたいと思います。
2 営業秘密とは
そもそも、営業秘密とはどのようなものをいうのでしょうか。不正競争防止法において、「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(法2条6項)と定義されています。
- 秘密管理性
- 有用性
- 非公知性
という3要件が全て満たされていることが必要で、企業秘密とされている情報であってもこの3要件が満たされていなければ不正競争防止法は営業秘密として保護されないことになります。
- 秘密管理性(秘密として管理されていること)
秘密管理性が認められるためには、主観的に秘密として管理しているだけではなく、客観的にみて秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要とされています。裁判例では、- 情報にアクセスできる者が制限されていること(例えば、社員以外の者はアクセスできないような措置がとられているなど)、
- その情報にアクセスした者にそれが営業秘密であることを認識できるようにしていること(例えば、書類に「部外秘」と記載されているなど)が必要とされているようです。
- 有用性(有用な営業上又は技術上の情報であること)
有用性が認められるためには、当該情報自体が客観的に事業活動に活用されていたり、利用されたりすることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであることが必要となります。例えば、製造技術や実験データ、顧客リストなどは有用性が認められる情報といえるでしょう。もっとも、犯罪の手口など反社会的な情報については、秘密として法的保護の対象とはならず有用性は認められません。 - 非公知性(公然と知られていないこと)
非公知性が認められるためには、その情報が保有者の管理下以外では、一般に入手できないことが必要です。例えば、刊行物や特許公報に記載されていたり、学会発表等で公開されたりしている情報については、非公知性は認められません。
3 営業秘密に係る不正行為の類型(不正取得・不正使用・不正開示)
営業秘密に係る不正行為としては、以下に挙げるものが規定されています。
- 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正取得行為)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(法2条1項4号)
- その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(同5号)
- その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為(同6号)
- 営業秘密を保有する事業者(保有者)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為(同7号)
- その営業秘密について不正開示行為であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(同8号)
- その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為(同9号)
4 営業秘密に係る不正行為に対する民事上の措置
営業秘密の不正取得・使用・開示行為に対しては、以下のような民事上の措置をとることができます。
- 差止請求(法3条)
営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、営業秘密の侵害の停止、予防、侵害行為を組成した物の破棄、侵害行為に供した設備の除却、その他侵害の停止または予防に必要な行為を請求することができます(営業秘密を用いた製品の破棄等)。 - 損害賠償請求(法4条)
故意又は過失により営業秘密の不正取得・使用・開示行為が行われ、営業上の利益を侵害された場合には、損害賠償請求ができます。 - 信用回復措置請求(法14条)
故意又は過失により営業上の信用が害された場合には、営業上の信用を回復するのに必要な措置を請求することができます。
5 刑事罰
不正の利益を得る目的又は営業秘密の保有者に損害を与える目的で行った営業秘密の不正取得・使用・開示行為のうち一定の行為については、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(または両方)の刑事罰が科さ れます(法21条1項1号~7号)。
なお、捜査機関が立件するには被害企業の告訴が必要な親告罪となっています(同3項)。
6 おわりに
このように、不正競争防止法上、営業秘密は保護されてはいますが、営業秘密として保護されるためには3要件を満たす必要があり、また、情報流出が疑われる場合に不正取得・使用・開示行為を立証することも容易ではありません。
不正競争防止法を改正し、罰金額を引き上げたり、企業の告訴がなくても捜査機関の立件が可能な非親告罪としたりすることが今後議論されていくようですが、やはり、営業秘密の流出により企業が被る損害は大きく、企業にとっては致命的にもなりかねませんので、企業自身が事前にできるだけの防御策を講じておく必要があります。
企業におかれては、今一度、営業秘密の管理がされているか、管理状況が適切かを確認されてはいかがでしょうか。経済産業省の営業秘密管理指針(経済産業省HP参照。チェックシートや契約書参考例等も載っています)が大変参考になりますので、確認をされるとよいと思います。
H26.7掲載