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改正景品表示法~課徴金制度導入と自主返金による減免

景品表示法の改正

ホテル・レストランにおけるメニュー偽装・食材偽装事件を始めとする食品不当表示問題を受け、2014年6月に続いて、同年11月にも、景品表示法が改正されました。

この改正では、不当表示を事前抑止するために、不当表示を行った事業者に課徴金を課す制度を初めて導入し、また、消費者へ自主的に返金を実施した事業者に対する課徴金額の減免制度を盛り込みました。

改正法は公布の日(2014年11月27日)から起算して1年半以内の日から施行されることとなっており、現時点では未施行です。しかし、新たに導入された課徴金制度は事業者に大きな影響を及ぼすと考えられ、今から対応を始めても早すぎるということはありません。

改正景品表示法~課徴金制度導入と自主返金による減免

課徴金とは

課徴金とは、行政目的達成のために行政庁が違反事業者等に対して課す金銭的不利益のことをいいます。刑罰とは異なり、行政庁は、裁判所の手続を経ることなく、自ら行政処分として課徴金納付命令を発することができます。

課徴金とは

この課徴金制度は、既に、独占禁止法や金融商品取引法において導入されてきました。例えば、独占禁止法では、入札談合やカルテル等の一定の独占禁止法違反行為を行った事業者に対して、公正取引委員会が課徴金を国庫に納付するよう命じることができます。

課徴金とは

課徴金は、刑罰ではなく、あくまで行政処分なのですが、違法行為を行った企業に対するペナルティとして事実上機能するという点では共通の性質を有しています。

課徴金制度導入によるインパクト

これまで、景品表示法には、課徴金制度はなかったものの、罰則がないわけではありませんでした。消費者庁による措置命令が出された場合、違反行為の差し止め、再発防止措置、これらの公表などが違反事業者に要求されます。この措置命令に従わない場合は2年以下の懲役または300万円以下(法人には3億円以下)の罰金が科せられます。

しかし、措置命令に従わないケースは滅多になく、罰則が適用されることはまずありません。このため「ばれてから正せばよい」といったやり得を許す制度だとの批判がありました。

今回の課徴金制度の導入により、不当表示行為そのものに対して課徴金の負担が課され、利益がはく奪されることになったのです。

最初から消費者を騙すつもりで、利益追求のために故意に偽装表示するような悪質業者には、課徴金による事前抑止が大変有効と思われます。

ところが、不当表示は、決して悪質な業者だけの問題ではありません。法令の知識不足が原因で表示を誤ったケースや、現場・技術部門と広報部門の情報共有が不十分だったために誤解を招く広告となっていたケースもあります。

今回の景品表示法改正では、故意だけでなく、過失による不当表示についても課徴金の対象となることになりました。小売業者がメーカーの説明を信じて広告をしたら説明が虚偽であったような例外的な場合以外は、かなりの不当表示に過失が認められるおそれがあります。

偽装の意思のない普通の真面目な事業者でも、表示のミスによって課徴金を課されるリスクがあることを肝に銘じておかなければなりません。

課徴金の対象となる表示

課徴金が課せられる対象行為は、優良誤認表示及び有利誤認表示です。課徴金の額は、違反商品・サービスの売上の3%とされています。

優良誤認表示とは、商品やサービスの品質・規格などの内容について事実に相違して、競争事業者のものより著しく優良であると誤認される表示です。単なる温水の風呂なのに温泉と広告したり、吊下げ式虫よけ剤について虫よけ効果のある範囲を誤解させる表示をした場合などがこれにあたります。

有利誤認表示とは、価格などの取引条件が実際よりも著しく有利(安価)であると一般消費者に誤認させる表示のことです。典型例としては、セール価格の安さを強調するために通常価格を併記して比較広告しているが、実際には相当期間にわたって通常価格では販売していなかった、いわゆる不当な二重価格があります。必ず別途費用が発生するのに、その点を隠して安価でサービスできるように見せかけるのも有利誤認表示です。

不実証広告も課徴金の対象に

客観的合理的な根拠がない効果や性能の表示も、不実証広告として、優良誤認表示の一類型に該当し、課徴金の対象となります。

ダイエット食品・健康食品の痩身効果や、除菌グッズのウイルス除去効果など、根拠があいまいな広告表示をしている場合に、消費者庁から客観的合理的な根拠資料の提出を求められたにもかかわらず、一定期間内に裏付け資料を提出できなかったような場合は、優良誤認表示と推定され、課徴金が課されることがあります。

自主申告・自主返金による課徴金の減免

違反行為を自主申告した事業者に対しては、課徴金額の2分の1が減額されます。さらに、事業者が課徴金納付命令を下されるまでの期間内に、被害者に対し課徴金相当額以上の自主返金をした場合は、課徴金が免除されます。返金額が課徴金額に満たない場合でも減額となります。

措置命令に加えて、多額の課徴金が課されたとなれば、企業イメージが失墜するばかりか、取締役の経営責任まで問われる事態となりかねません。不当表示が判明した場合には、自主申告・自主返金含め、速やかな対応が求められます。

表示・広告の点検を!

インターネット販売や通信販売が発達し、消費者が商品そのものを手に取らないままに購入することが増えています。それだけ表示・広告の重要性が増しているということです。

消費者のニーズも多様化し、商品やサービスの背景にある付加価値に重点が置かれる傾向にあります。食品で言えば、食材のブランド、産地、食品の機能など、単に空腹を満たすだけでない特別な魅力を重視して選択することが増えました。不当表示に厳しい処分が加えられるのも当然の時代の流れといえるでしょう。

1年間に2度も景品表示法が改正されるという異例の事態を、ぜひとも良いきっかけとして、いま一度、表示・広告を点検していただきたいと思います。また各部門の情報共有体制を見直し、不当表示を未然防止することも重要です。

H27.6掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。