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敷地内の放置車両を撤去するには

店舗駐車場などの敷地に数カ月にわたって車両が放置されている場合、どのような手続きをとれば当該車両を撤去できるでしょうか。

民事上は、放置車両の所有者に対して、当該車両の撤去を請求することが可能ですし、土地を使用できなかったことによる損害賠償を請求することも可能です。また、刑事上も、建造物侵入(刑法130条)や威力業務妨害罪(刑法234条)等の罪に問える可能性があります。

だからといって、たとえば放置車両の所有者に無断で、当該車両をレッカー移動して処分してもよいでしょうか。

敷地内の放置車両を撤去するには

自力救済の禁止の原則

自力救済とは、裁判その他の公的な権力によって私人の権利を実現するのではなく、私人の実力の行使によって私人の権利を実現することをいい、放置車両の所有者に無断で、当該車両をレッカー移動して処分するといった行為は、これに該当します。

民法には、自力救済を禁止する規定も許容する規定もありませんが、自力救済の禁止は、条文にはない原則の一つと解されており、最高裁も、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続きによったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で例外的に許される」(最判昭和40年12月7日、民集19巻9号2101頁)と述べ、自力救済の禁止が原則であり、例外は厳しい要件の下でのみ許容されるとしています。

仮に自力救済が違法となった場合には、民事上は、自力救済行為をした者が、自力救済前の元の状態に戻す(原状回復)義務や、相手方の被った損害を賠償する義務を負うこととなり、場合によっては、刑事上の罪に問われる可能性もありますので、たとえ自己の権利を守るためであっても、安易に自力救済行為を行うのは禁物です。

記録化をする

公的な権力によって放置車両を撤去するには、当該車両の客観的な状態を第三者に説明できるだけの資料を作成する必要があります。そのためにまず、次のような作業を行うことが必要になります。

  1. 写真を撮る(車体の前後左右、ナンバープレート、車検ステッカー、タイヤ・車体の汚れや損傷の状態、室内の状態、放置場所などが確認できる写真等)。
  2. 現地再現性のある現場見取り図を作成し、車両が放置されている場所を明確にする。
  3. 放置されている期間を明確にするため、日誌などをつけ、定期的に放置の状態を確認して記録化する(動かされているのか、全く動かされていないのか、いつから全く動かされなくなったか等)。

記録化の過程で、時々車両が動かされていることが確認できた場合は、張り紙をして警告するなどして、再度駐車されないようにします。

また、資料が作成できたら、念のため最寄りの警察にも相談してみてください。もし当該車両が盗難車であるなど事件性がある場合は、早期に解決することがあります。

所有者を確認する

記録化をした後は、請求の相手方となる放置車両の所有者を確認します。

当該車両が普通乗用自動車の場合は、「登録事項等証明書」で所有者の氏名・住所等を確認します。最寄りの運輸支局で、前述の記録化した資料を添付して請求することで、当該車両の「登録事項等証明書」の交付を受けることができます。

当該車両が軽自動車の場合は、普通乗用自動車とは異なって登録制度がないため、弁護士法第23条の2に基づく照会(弁護士会照会)により、軽自動車検査協会から軽自動車検査記録簿の写しの送付を受けるなどして、所有者の氏名・住所等を確認します。

なお、放置車両にナンバープレートが付いていない場合は、上記の方法により所有者の氏名・住所等を確認することができませんので、別途、個別に対応を検討することが必要になります。

所有者に通知をする

所有者の確認がとれたら、その所有者に対して内容証明郵便を送付し、車両の撤去と損害賠償を請求します。

所有者から応答があり、協力が得られる場合は、当該車両の任意撤去が可能になります。この場合は、迅速かつ安価に、当該車両を撤去することが可能になります。

なお、所有者が自動車販売会社や信販会社になっている場合には、これら会社に対して直接、車両の撤去を請求できるケースもあります(最判平成21年3月10日民集第63巻3号385頁)。

しかし、所有者と連絡が取れない場合や所有者の協力が得られない場合には、当該車両の撤去・土地明渡と損害賠償を求めて、訴訟を提起して判決を取得することが必要になります。

訴訟を提起して判決を取得する

内容証明郵便には応答しなくても、裁判所から送達される訴状を受領した後に応答してくる相手方もいますので、訴訟提起後に任意撤去が実現するケースもあります。

訴訟提起をしても相手方が応答しない場合には、判決を取得します。

なお、相手方が訴状を受領しない場合や所在不明の場合などには、別途、住居調査を要するなど、判決を取得するまでに時間がかかるケースもあります。

強制執行による車両の撤去

判決を取得した後は、別途、裁判所に強制執行の申立をすることで、ようやく公的な権力によって権利が実現することとなります。

具体的には、当該車両が明らかに無価値と判断できる場合は、土地明渡の強制執行の申立をします。詳細の説明は省略しますが、執行官も当該車両を無価値と判断した場合は、執行官の指示に従い、当該車両を廃棄処分することになります。この場合も、勝手に無価値と判断して処分をしてはいけませんので注意が必要です。

土地明渡の強制執行を申立てた後に、当該車両に価値があることが判明した場合、登録のある普通乗用自動車については、執行官が当該自動車に対して強制競売の申立てを行うことが考えられます(民事執行規則86条以下)。その強制競売手続において、当該車両が当該土地から移動して保管されれば、その時点で当該土地からの車両の撤去が完了することになります。また、軽自動車について価値があることが判明した場合には、執行官が売却手続を実施することが考えられます(民事執行規則154条の2第2項前段)。この場合は、申立人が自己競落をしたり、中古車販売業者に依頼をして競落をしてもらったりすることで、当該車両の処分をすることが可能になります。

申立時に放置車両に価値があることが判明している場合には、登録のある普通乗用自動車については、自動車競売の申立をし、軽自動車については、動産執行の申立をするという方法もあります。

いずれにしても、強制執行の申立をするには、裁判所に予納金を納付する必要があり、相応の費用を要しますので、強制執行に至る前に任意撤去を実現できるか否かが重要なポイントとなります。

車両を放置させないための予防策

ひとたび敷地に車両を放置されたら、それを撤去するのがいかに面倒で大変かをご理解いただけたのではないでしょうか。

敷地に車両を放置させにくくするための予防策として、囲いをつける、ゲートなどをつける、防犯カメラを設置する、警告文を掲示する、ゴミや放置車両などをそのままにしないといった対策が考えられますので、車両を放置される前に予防策を講じておきましょう。

H27.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。