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追加変更工事の請負代金をめぐる紛争予防の実務

争いになりやすい追加変更工事の代金

請負代金も売買代金等と同様に契約により定まるものです。当初の予定通りの工事が行われ、工事が完成したときには、予め契約で決められていた請負代金が支払われるというのは当然のことです。したがって、建築物等の完成物に不具合がある場合や予定工期から遅延した場合、あるいは発注者の支払能力に問題が生じた場合などは別として、通常は代金の支払いで揉めることはあまりありません。

しかし、追加変更工事の請負代金については、当初契約に定められていないことに対する報酬をどうするかという問題なので、発注者、請負人の思惑がいろいろ絡み、紛争化することが多いようです。

追加変更工事の請負代金をめぐる紛争予防の実務

紛争化する原因

追加変更工事であっても、その都度変更契約書を作成しているのであれば、紛争化することはないでしょう。しかし、現実には、追加変更工事についての契約書が作成されていないことが少なくありません。

このように追加変更工事は、契約書(発注書を含む)が作成されていないために、工事が完成して請負代金の支払いになった段階で、

  1. そのような注文をした覚えがない
  2. 当初の工事に含まれるものと思っていた
  3. 当初工事の手直しだと思っていた
  4. サービス工事だと思っていた
  5. 設計監理者が勝手に注文した

などの主張が発注側から出てきて、スムーズな支払いに至らずに紛争化してしまうということがあるのです。

請負業者は何を証明しなくてはならないか

不幸にして追加請負代金をめぐり紛争化してしまった場合は、請求する側である請負業者が追加変更工事代金を請求できる根拠を示していかなくてはなりません。

その根拠とは、「当該工事が、当初契約には含まれていない工事であり、注文者との間で、追加の請負代金が発生する工事とすることについての合意」があったということです。つまり、請負業者はこの「合意」を証明しなくてはならないのです。

なお、追加変更工事であること自体は認めつつも、請負業者が請求する金額は高すぎるという主張がされることもあり、そうすると具体的な追加工事代金についての合意があったことも証明しなくてはならないともいえます。しかし、裁判実務では、代金そのものについては、具体的かつ明確な合意までは必要はなく、客観的に相当な金額とすることの黙示的な合意でも足りるとしていると思われますので、そのレベルの合意の証明ができれば、あとは「客観的に相当な金額であることの証明」を加えることで足りるのではないかと思います。

紛争の予防(合意の証明のために備えておきたい資料)

このことからすると、追加変更工事代金をめぐる紛争を予防するためには、前記の合意を証明することができる資料を備えておくことが必要となります。そこで、実際に紛争となった例で、どのような資料が証明に役立ったかを踏まえて、紹介したいと思います。

  1. 契約書(発注書)の作成
    前述のように、契約書がないために紛争化してしまうのですから、究極の紛争予防は契約書の作成となります。しかし、工事が現に進行している状態での工程会議などで、バタバタと追加変更の工事内容が定められていき、予定された工期に間に合わせなくてはならないということもあって、変更契約書などをいちいち作成している時間的ゆとりがないがないということが多いかもしれません。
  2. 見積書の作成、交付
    契約書の作成ができていない場合でも、追加変更工事についての見積書が作成され、それが発注者に示されているということであれば、かなりの有力な資料となるでしょう。
  3. 当初契約での図面や工事代金内訳書の充実
    追加変更工事とは、当初の契約に含まれない工事のことですから、当初契約の工事内容が明確に確定できるのであれば、それに含まれないのは追加変更工事にほかならないというロジックが使えることがあります。
     その意味で、当初契約における詳細な図面や工事代金内訳書は役に立ちます。他方、図面が概略的なものであったり、工事代金内訳書の工事科目が「○○工事一式」などという記載に留まっていると、どこからが追加や変更になるのかがわからず、あまり役に立たないということになってしまいます。当初契約での添付図面や工事代金内訳書等の完成度の高さが紛争予防の観点で重要になるということです。
  4. 議事録等の打ち合わせ記録の充実、保存
    着工後も定期的あるいは不定期に発注者と打ち合わせをするのが一般的ですが、追加や変更についてはその打ち合わせで協議されることが多いようです。
    その打ち合わせ記録が証明のカギとなることもあります。
     とりわけ議事録は通常は前回の会議の内容を請負業者側がまとめて、発注者や設計監理者に内容を確認してもらい、サインをしてもらうという形式になっていることが多いと思いますが、発注者側のサインがあるということは証拠価値が高いものとなります。したがって、追加や変更についての協議がされた打ち合わせの議事録は、その内容をきちんと作成しておくことが肝要となります。
     発注者のサインがないという点では、その証拠価値がやや低いものの、毎回の打ち合わせ時に作成される「打ち合わせメモ」も証拠となることがありますので、そのメモの作成あるいはその保存は万全を期しておくべきだと思います。これらのメモに証拠価値が生じるのは、日常的業務として作成されているもので、紛争が起きてから作成されたものではないからです。したがって、問題となる打ち合わせのときだけではなく、毎回の打ち合わせ記録の作成、そしてその保存を徹底させておくべきです。
     また、設計監理者が勝手に追加変更したという主張をされることもあるので、打ち合わせ記録には出席者についても漏らさず記載をして、誰がどのような発言をしているかも記載しておくといいでしょう。設計監理者が頻繁に出席し、意見を述べていることが証明できれば、設計監理者は発注者の代理人であるとの認定もできるでしょうから、「設計監理者に勝手に追加変更された」という主張の防御となるからです。

H27.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。