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労働者派遣法改正(平成27年)のお話し

はじめに

平成27年9月30日より、いわゆる労働者派遣法の改正法が施行されました。改正の主要な点は、

  1. すべての労働者派遣事業が届出制から許可制となったこと
  2. 派遣期間制限のルールの見直し
  3. 雇用安定措置
  4. 派遣労働者の処遇改善
  5. 派遣労働者のキャリアアップ

です。本稿では、2.と5.についてお話ししましょう。

労働者派遣法改正(平成27年)のお話し

派遣期間制限のルールの見直しについて

  • 従来のルール
    従来のルールには変遷があります。まず当初は、派遣労働者の従事する業務の内容によって、期間について異なる取扱いをしていました。すなわち、労働者派遣についての経済界の要請と、雇用の安定・雇用主の責任主体の明確化・搾取防止という労働者側の要請のバランスをとる形で、いわゆる専門28業務(旧26業務。
    1. 専門的な知識、技術または経験を必要とする業務、もしくは
    2. 特別の雇用管理を必要とする業務。例:情報処理システム開発・機械設計・秘書・広告デザイン・駐車場管理、等)とそれ以外の業務(「自由化業務」と言われるものです)
    とに分け、後者については正社員の代替化を防ぐ観点から派遣期間を1年とするテンポラリー・ワーク型派遣として許容し、前者の多くについてはこれを許容するが、3年間をこえる期間の定めはできないもの(ただし更新は可)としていました。
    その後、働き方の多様化を求める声が強くなるなど、さらなる規制緩和が求められ、専門業務についての期間制限は撤廃されました。
  • 従来のルールの問題点
    しかし、このような2分類は派遣労働者、派遣元、派遣先にとってわかりづらく、業務の内容によって取扱いが大きく異なることに疑問が出てきました。また、契約上は専門業務と称しつつ、実態は派遣労働者を専門業務にあたらない業務に従事させているケースが生じました。
  • 改正の内容
    そこで、今回の改正で、いわゆる専門業務と自由化業務の取扱いの差異を撤廃し、一部の場合を除き、業務内容にかかわらず、一律に事業所単位及び個人単位での派遣期間に関する制限を設けることとしたのです。
    すなわち、まず、派遣先の一つの事業所が派遣を受け入れることのできる期間は原則として3年を限度としました。事業所単位での期間制限といわれるものです。延長する場合は、派遣先事業所の過半数組織労働組合または過半数代表者の意見を聴かなければなりません。もっとも、組合等との間で合意に達しなければならない、というわけではありません。ただ、意見聴取の際反対意見が出た場合は、一定の方式に従い、延長の理由・延長の期間等、について説明をしなければなりませんし、その概要をその事業所の労働者に周知させなければなりません。
    次に、労働者個人についても、派遣先の事業所における同一の組織単位(「課」や「グループ」のことです)に派遣できる期間を3年を限度としました。個人単位の期間制限と言われるものです。個人単位の期間制限を超える場合も前記組合等からの意見聴取手続きが必要です。
    事業所単位の期間制限と労働者単位の期間制限のいずれか早く到来する時期が派遣契約の終期となります。
    なお、
    1. 派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者
    2. 60歳以上の派遣労働者、終期が明確な有期プロジェクト業務に従事する派遣労働者
    3. 1カ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以内の労働者
    4. 産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に従事する派遣労働者の派遣
    については、いずれの期間制限も適用されません。
  • 注意点
    先に述べた労働組合等からの意見聴取手続きをしないまま雇用延長をしますと、「労働契約申込みなし制度」の適用をうけてしまうことに、十分注意ください。「労働契約申込みなし制度」とは、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点で派遣先が派遣労働者に対し派遣労働者の派遣元における労働者と同一の労働契約の申込をしたものとみなされる制度、をいいます。組合等からの意見聴取手続きをしないまま期間延長をした場合、法律違反をしたことになりますので、違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れたこととなるのです。派遣元事業者の雇用条件の方が有利であれば、当然、派遣労働者はその方を選択するでしょう。派遣先の担当者が失念したり、人事異動で交代した新担当者の知識不足のため、法定の手続きをとらなかったという事態が考えられますので、会社としては厳格な管理態勢をとることが求められます。
  • 改正法施行前に派遣契約が締結された派遣労働者
    改正法は、冒頭にお話ししたように、平成27年9月30日から施行されましたが、施行日以前に締結されている派遣契約については、その契約が終了するまでは改正前の法律が適用されます。

派遣労働者のキャリアアップ

派遣労働者のキャリアアップについては、平成24年改正法で定められましたが、今回の改正法でさらに強化されました。主なものは次のとおりです。

  1. 派遣労働者のキャリアアップを念頭においた段階的・体系的教育訓練の実施計画の策定計画の内容は、
    1. 全ての派遣労働者を対象とし、
    2. 有給かつ無償で行われるものでなければならず、
    3. 派遣労働者を雇用するにあたり実施する教育訓練が含まれ、
    4. 無期雇用派遣労働者については長期的なキャリアアップを念頭に置いたものである必要があります。
  2. 相談窓口の設置
    相談窓口にはキャリア・コンサルティングの知見を有する者が配置され、2.全ての派遣労働者が利用でき、3.希望するすべての派遣労働者がコンサルティングを受けられるようにすることが必要です。
  3. 事務手引等
    キャリアアップを念頭においた派遣先の提供を行うための事務手引、マニュアル等の整備が求められます。
  4. 教育訓練
    1. 派遣労働者全員について入職時に訓練を行うことは必須で、
    2. 一定の期間ごとにキャリアパスに応じた研修が用意され、
    3. フルタイムで1年以上雇用見込みの派遣労働者については毎年概ね8時間以上の教育訓練の機会を提供し、
    4. 派遣元事業主は、教育訓練が受講できるよう就業時間等に配慮しなければならない、
    とされています。

派遣労働者を受け入れる側は十分な準備が必要です。

H27.12掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。