中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

LGBTへの取り組み~社員全員にとって働きやすい職場作りのために~

はじめに

最近、「LGBT」という言葉をよく耳にするようになったと思いませんか。

「LGBT」は、レズビアンの「L」、ゲイの「G」、バイセクシャルの「B」、トランスジェンダーの「T」から成る、性的マイノリティー(性的少数者)を表す総称で、ここ数年で日本でもメディア等で取り上げられるようになりました。

そして今、企業には、そうしたLGBTへの理解と具体的な取り組みが求められています。

LGBTへの取り組み~社員全員にとって働きやすい職場作りのために~

LGBTは特別な存在ではありません

ある調査によれば、日本の総人口の7.6%強はLGBTだと言われています(電通総研、2015年)。したがって、およそ13人に1人がLGBTの当事者ということになります。

こうした統計を踏まえ、私たちは、まず、LGBTが決して特別な存在ではないという事実をきちんと認識しなければいけません。

社員にも、お客様にも、LGBTの当事者がいます

そして、企業は、社員の中にもLGBTの当事者がいる可能性が高いという事実を認識する必要があります。企業としては、LGBTであるか否かに関わらず、優秀な人材を採用したいと考えているでしょうし、LGBTの社員が誰にも相談できずに悩み、体調を崩して休んでしまったり、退職してしまうといった事態は避けたいでしょう。そういった意味ではLGBTが自分らしく働ける環境を作ることが優秀な人材の確保に不可欠と言えます。

また、LGBTは大事なお客様でもあります。そして、そのことにいち早く気付いた企業は、LGBTを意識した取り組みを始めています。具体的には、消費者としてのLGBTに着目し、新たなマーケットとしてLGBTのニーズに応えようとしています。例えば、Gap(ギャップジャパン株式会社)はLGBTのイベント期間中、虹色の看板を掲げたところ、その期間中の来店客が増えたそうです。また、平成26年6月に、京都のホテル(ホテルグランヴィア京都)が仏式の同性結婚式ができる旅行プランを企画したところ、海外でも大きな話題となり、欧米からの外国人観光客のうちLGBTの比率が1割を占めるまで拡大したと言います。

一方で、LGBTに対する理解があるか否か(=LGBTフレンドリーであるか否か)は企業イメージにも大きく影響します。数年前から、LGBTフレンドリーであることを前面に出して、リベラルな企業イメージを訴える企業も出てきましたし、逆に、LGBTに対する理解が不十分な企業はメディア等で批判を受ける時代になりつつあります。

今後は、大小問わず、全ての企業においてLGBTに対する理解と取り組みが求められることでしょう。

LGBTに対する企業の取り組み

では、企業としては、実際にどのような取り組みをしたらよいのでしょうか。

「LGBTフレンドリーになれと言われてもどうしたらいいのか分からない」という方も多いと思われます。

そこで、以下、具体的な取り組み例についてご紹介したいと思います。各企業におかれては、それぞれの実情を考慮しながら、段階を設けて取り組まれることをお薦めします。

  1. 研修の実施
    まずは、LGBTに対する理解が不可欠です。そこで社員向けのLGBTに関する研修を実施することが必要となります。
    例えば、ゴールドマンサックス証券は、全社員向けダイバーシティ研修の中でLGBTを取り上げている他、新入社員向けのLGBT研修も実施しています。また、同社は、学生向けリクルーティングイベントでもLGBTを扱っているようです。LGBTの当事者は、就職活動の段階で希望する会社がLGBTを受容してくれるかどうか不安に思うことも多いと言いますから、学生向けのイベントは当事者にとって大きな安心材料でしょうし、企業にとっては優秀な人材の採用にもつながり得ます。
    なお、LGBTの研修については、各種団体(特定非営利活動法人「虹色ダイバーシティ」等)が講師派遣を行っている例もあるようです。まずはこうした団体に講師派遣を依頼してみるのも一つの方法かもしれません。
  2. 社内規定の整備
    社内規定の中で「性的指向」や「性同一性」に対する理解を促したり、「性的指向」を理由とする差別を禁止する差別禁止規定や各種マニュアルを設ける等の方策が考えられます。
    例えば、大阪ガス株式会社では、セクハラ防止マニュアル・採用面接マニュアルの中で、LGBTに関する配慮事項や具体的対応について解説しているようです。
  3. 社内ネットワークの構築
    LGBTの当事者は一人で悩んでいることが多いため、当事者や、非当事者でありながらLGBTの当事者を支援する人(=アライ)たちの社内ネットワークを作ることも大きな意味があります。例えば、野村證券株式会社にはLGBTをテーマにした社内ネットワークがあり、アライが中心になって活動しているそうです。
    なお、社内に相談窓口を設けることも有意義な方策ですが、LGBT当事者のカミングアウトのハードルの高さに配慮する必要がありますし、当然ながら相談窓口の担当者がLGBTについて十分に理解していることが必須です。
  4. 福利厚生
    同性パートナーへの福利厚生の適用も当事者にとっては大変重要な関心事です。
    例えば、コスメブランドを手掛ける株式会社ラッシュジャパンでは、男女が結婚した時に支給する結婚祝い金や結婚休暇等の福利厚生を同性間のパートナーにも与えるといった人事制度の改定を行っています。また、結婚支援事業を行う株式会社ダイバースでは、平成26年に社内規定を改定し、事実婚や同性パートナーとの同居を届け出る「パートナー届け」制度を作り、法律婚の夫婦と同じく結婚、育児、介護等の特別休暇や慶弔見舞金の対象にしています。
  5. LGBTイベントへの協賛
    LGBTイベントへの協賛も当事者は強く望んでいます。たとえ社内でカミングアウトできなくても、自分の会社がLGBTイベントに協賛してくれているということだけで励まされたり、自分の会社を誇りに思う当事者も多いと言います。

最後に

今後、企業にはLGBTに対する理解にとどまらず、そうした理解を前提とした具体的な取り組みが求められます。

新たな取組みとなると及び腰になる面もあるかもしれませんが、「LGBTが働きやすい職場作りは、非当事者を含む全員にとって働きやすい職場作りにつながる」という意識を持って、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

H28.4掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。