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障害者差別解消法が施行されました
障害者差別解消法とは
平成28年4月1日、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」又は「本法」といいます)が施行されました。
障害者差別解消法はその名のとおり、障害を理由とする差別の解消に関する基本的な事項や、行政機関等(国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体など)及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会の実現に資することを目的としています(法第1条)。
本法は、行政機関等及び民間事業者をその対象としていますが、本稿では、主に民間事業者に対する規律について確認したいと思います。
対象となる障害者
前提として、本法において対象となる障害者は、身体障害(視覚障害、聴覚障害、肢体不自由等)、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者で、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものとされています。また、ここにいう社会的障壁とは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で、障壁となるような社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備など)、制度(利用しにくい制度など)、慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)、観念(障害のある方への偏見など)その他一切のものをいいます。
不当な差別的取り扱いの禁止(法第8条1項)
まず、本法は、民間事業者がその事業を行うに当たり、正当な理由なく、障害者を障害者でないものより不利に扱うこと、たとえば、障害を理由として、正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりする行為を禁止しています。障害を理由として、窓口対応を拒否又は対応の順序を後回しにしたり、書面の交付・資料の送付・パンフレットの提供等を拒んだり、特に必要がないにもかかわらず付き添い者の同行を求めるなどの条件をつけたり、本人を無視して介助者・支援者や付き添い者のみに話しかけたりすることなどは、正当な理由がない場合には、不当な差別的取扱いに当たり得ます。
正当な理由の有無は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて、総合的客観的に判断されることになります。
合理的配慮の提供(法第8条2項)
次に、本法は、民間事業者が事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明があった場合、その実施に伴う負担が加重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の程度に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行うように努めなければならないと規定しています。
たとえば、車いす利用者のために段差に携帯スロープを渡したり、高いところに陳列された商品を取って渡すこと(物理的環境への配慮)、筆談・読み上げ・手話などによるコミュニケーションをとったり、わかりやすい表現を使って説明をしたりすること(意思疎通の配慮)、事務手続きの際など、その場に居合わせた事業関係者が書類の代読・代筆を行うこと(ルール・慣行の柔軟な変更)などが合理的配慮の例として挙げられます。
この合理的配慮は、行政機関等については法的義務として課されていますが、民間事業者については努力義務にとどまっています。もっとも、民間事業者についても、本法に基づき作成された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」や、各分野の「対応指針」によって自主的な取り組みが期待されています。また、民間事業者により繰り返し障害を理由とする差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、主務大臣から、当該民間事業者に対し、報告を求め、または、助言、指導もしくは勧告を行うことができるようになっており、その際に報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には罰則(20万円以下の過料)が科される場合もありますので、民間事業者においても積極的に取り組んでいくことが必要でしょう。
また、この合理的配慮は、その実施に伴う民間事業者の負担が加重であると判断されるときにまで求められるものではありませんが、加重な負担がどうかについては、民間事業者において安易に判断するのではなく、個別の事案ごとに、事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的、技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事業規模、財務状況などを考慮し、総合的客観的に判断することが必要であり、加重な負担に当たると判断した場合でも、障害者にその理由を説明し、理解を得るように努めることが望ましいと考えられています。
障害者に配慮し、柔軟に対応を
「不当な差別的取り扱い」や、民間事業者に求められる「合理的配慮」の具体的内容は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いもので、結局、ケースバイケースとなり、民間事業者としても対応が悩ましい場面に遭遇することも多いと思われますが、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」や、各分野の「対応指針」を参考に、障害者の視点にも十分に配慮したうえで、可能な限り柔軟に対応していくことが重要だろうと思われます。内閣府のHPでは、障害の種別や、生活の場面に対応して、合理的配慮の具体例等を記載した「合理的配慮サーチ」が公開されており、具体的な事例で検索をかけることもできるようになっていますので、これも一つの参考になるでしょう。本法の施行による、今後の具体的な事例の蓄積も待たれます。
なお、本法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となりますが、雇用の分野における障害者の差別に関しては、本法の対象外であり、障害者雇用促進法に定めるところによります(法第13条)。障害者雇用促進法も、同じく平成28年4月に改正されていますので、あわせて、確認が必要です。
H28.05掲載