中小企業の法律相談

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同族会社のオーナー株主が死亡したときの株式の遺産分割について

はじめに

同族会社のオーナーが死亡したとき、株式はどうなるのでしょうか。引退間近で用意周到なオーナーならば、税金対策と並んで、将来の会社の体制を整えることが最重要課題ですので、事業承継者を見据えて、遺言を作成し、その中で株式を相続する者の指定がなされている場合も多いと思います。しかし、遺言がない、という事態も当然あります。飛翔 平成25年5月号(弁護士古賀純子執筆)に続いてさらにお話しをしたいと思います。

同族会社のオーナー株主が死亡したときの株式の遺産分割について

ケース

A社は発行済株式総数1万2000株の同族会社。もちろん株式については、定款で株式移転の場合に会社の承認を必要とするいわゆる譲渡制限が定められています。創業者甲は会長、その長男乙は社長、長男の子Xは、入社5年目です。甲会長はA社の株式を9000株、乙社長は3000株を所有していました。孫の入社により会社は安泰かと思いきや、乙社長が突然の事故で急死。甲会長は、将来孫のXが社長となるまでの繋ぎの含みで、亡き乙社長の妻丁に社長になってもらいましたが、その後今度は甲が病に倒れ、遺言も作成されないまま死亡してしまいました。甲の法定相続人は、乙の代襲相続人Xのほか乙の長女Y、次女Zの3人です。YZはA社の株式の相続を狙っています。他方、X(と丁)は、安定的な会社経営のためには甲所有の全株式を取得したいと考えています。

株式は相続分に応じて当然分割されるか。相続による取得に会社の承認が必要か

Q. XYZは、甲名義の株式を当然に3分の1ずつ、つまり各人3000株ずつを相続する、その場合株式名義が変わるのだから会社の承認が必要である、ということですよね。

A. いえいえ、違います。先の古賀弁護士の説明をおさらいすると、

  1. 「譲渡制限株式」であっても、相続人が株式を相続する場合、会社の承認は不要である、
  2. 株式は各相続人に当然に分割されるものではなく、相続人全員が全体の株式をいわば共有する状態となる(正確には「準共有」と呼んでいます)
  3. 準共有状態の場合、相続人の間で権利行使者を一人選ぶ必要があり、意見が整わないときは、相続人間で、持分に応じた多数決で権利行使者を決めることとなる
  4. 株式の準共有状態を解消するためには、相続人全員の協議によって株式を誰がどれだけ取得するかを決める必要があり、協議が整わない場合は遺産分割の調停を申し立てて決める必要がある

でしたね。したがって、遺産分割がなされるまでは、9000株の全体がXYZの3人の準共有となる、3人の準共有者とする旨の名義変更に会社の承諾はいらない、9000株の株式の権利行使者として1名をXYZの3人で決めることとなるが、これは共有持分の多数決で決めることとなる、というのが正解です。

YZが組めば、Xは支配権を失う

Q. えっ。そうすると、YZがタッグを組めば、YZ併せて持分は2/3となり持分の過半数となるから、9000株について、YあるいはZを権利行使者と指定することができますね。その結果、YZは株主権の行使について思うがままとなりますね。

A. そうです。Xは、亡き乙の所有していた3000株を相続するのみで、甲の株式9000株はYZの思うがままとなります。つまり、X:YZ=3000株:9000株で、YZが発行済株式総数の過半数を占めるので、その結果XはYZに負けてしまいます。

Q. であれば、Xとしては、一刻も早く準共有状態を解消させるため、被相続人を甲とする遺産分割を行い、甲の所有していた9000株の株式を、できれば全部、少なくとも自己所有分の3000株式と併せて過半数(6001株)となるよう、3001株取得することが必要ですね。

A. そういうことです。

Q. でも、そんなことができるのかな。遺産分割の協議では、Xが9000株を相続することをYZが認めるはずはなく、遺産分割の調停を起こしても、YZの意向は変わらないだろうから、結局家庭裁判所が審判することとなる。家庭裁判所は3人を均等に扱わざるを得ず、XYZがそれぞれ3000株ずつ相続により取得する、という審判をするのでは。

A. そのような結論がまずは考えられますね。現に、ケースと似た事案で千葉家裁松戸支部は、同族会社の株式を法定相続人各人が均等に相続する、という判断を下しました(千葉家裁松戸支部平成26年1月15日審判)。

Q. そうすると、本件では、Xの所有株式は3000株+3000株=6000株、YZの所有株式は、3000株+3000株=6000株で、同数となり、何事も決められなくなってしまいます。Xは支配権を失い、安定的な会社経営はできません。

Xの対抗策~遺産分割でXは遺産の株式を全部取得できないか

Xは裁判所に、Xが甲の株式全てを相続することを認めるべきである、という主張を説得的に論じ、そのような判断をしてもらうしかないですね。

Q. そのような理屈がありますか。

A. そこが弁護士としての腕の見せ所となります。民法906条は、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれを決する」と規定し、「一切の事情を考慮する」としていること、法は、同族会社においては株主の分散を避けることが望ましいと考えている、ということ(例えば、会社法174条、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条1項1号、8条1項、9条1項)が重要です。

Q. なるほど。先の千葉家裁松戸支部の審判はその後どうなったのですか。

A. 東京高裁は松戸支部の判断をひっくり返しました。東京高裁は、前記法の態度に加え、次期社長就任予定者である相続人に代償金(精算金)を支払う資力があること、その他の相続人はこれまで会社経営に関与していなかったこと、等を踏まえて、全部の株式を次期社長就任予定の相続人が取得することを認め、他の相続人に代償金を支払うことを命じました(東京高裁平成26年3月20日決定)。これに従えば、Xは経営権を確保することが可能となります。

H28.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。