中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
動産を活用した資金調達方法
一 不動産担保主義からの脱却
従来企業の資金調達方法は、不動産担保あるいは個人保証に極度に依存していたといえます。担保に提供できる不動産、あるいはこれに替わる極めて有力な保証人がなければ、資金調達もままならず、せっかくの事業チャンスを活かすことができないなどということもあったのではないでしょうか。
とはいえ、資金調達をするには、担保提供が必要なのも、今のところは受け入れるほかないでしょう。
そこで、不動産以外で、担保となりうる資産がないであろうかと、貸借対照表の資産の欄を眺めると、不動産のような固定資産こそなくても、商品、売掛金といった「流動資産」があることに気づきます。どんな企業でも、これらの動産、債権は資産として持っているはずです。
これらも交換価値があるのですから、担保にならないはずはありません。そこで、これらを資金調達に活用する手法が注目されるようになったのです。
二 動産譲渡担保とその問題点
1 譲渡担保
機械設備や商品のような動産を担保として提供する手法は、譲渡担保という形にするのが通常です。担保のために動産の所有権を金融機関等の債権者に移転するという方法です。
もっとも、所有権を移転するといっても、あくまでも担保ですし、機械設備や商品を債権者が持っていってしまっては営業もできませんから、通常は、物理的には融資を受ける企業の手元にあるままの状態として、信用不安等が生じ担保を実行するという事態になるまでは、その動産の利用が認められています。
2 集合動産の譲渡担保
上記のように動産の譲渡担保では、設定者である企業(債務者)に動産の利用が認められているのですが、処分ということが考えにくい機械設備などはいいとしても、商品のように当然に売却(処分)される運命にあるものはどうなるのでしょうか。
商品の場合は、債務者が信用不安等の事態になるまでは、通常の営業の範囲内での売却は認められ、但し新たに仕入れた商品についても譲渡担保の対象となるというのが理想です。
そこで、例えば「○○倉庫にある○○等の一切の在庫商品」といった具合に譲渡担保の対象を定め、現在あるものだけではなく、将来の仕入による在庫商品まで担保の対象とする方法があります。要するに、新陳代謝することを当然の前提として、○○倉庫で保管される在庫商品を担保とするのです。このような内容物が一定しない流動的な動産を「集合動産」と呼んでおり、「集合動産譲渡担保」は、極めて有効な動産担保の形式といえます。
3 対抗要件
ところで、不動産の担保は、抵当権や根抵当権の登記をしますが、これは「対抗要件」といって、第三者に対し担保としていることを主張できるためのものです。
動産担保の場合も同様に、第三者に対し担保としていることを主張できるためには、「対抗要件」が必要ですが、これまで動産の場合は登記制度がないため、「引渡し」が対抗要件でした。
前述のように、動産担保の場合は、その占有を債務者に留めておくのが通常ですから、この場合は、「占有改定」といって、物理的な占有形態は変わりませんが、今後は債権者のために債務者が当該動産を占有する約束をして、「引渡し」があることとしていたのです。
しかし、このような占有改定は、当事者間の約束で行われるだけであり、外形上の変化はありませんから、第三者からはその有無が通常は分りません。したがって、すでに譲渡担保に差し入れられているにも関わらず、別の債権者にも譲渡担保に差し入れるなどということも起こり得るわけで、融資をする金融機関等の側からすると、やはり動産担保はリスクがあるもので、そのようなことが積極的に取り組めない一因となっていたのです。
三 動産譲渡登記制度の創設
1 法改正
上記のように動産担保については、対抗要件の面で、不十分な点があったことから、企業の資金調達の円滑化を図るため、平成一六年一一月、法改正がされ、動産譲渡にも第三者が対抗要件の具備を容易に認識できる登記制度が認められることとなりました。同年一二月一日から一年内に施行されることになっています。
2 登記の対象
登記の対象は、「法人」がする動産譲渡に限定しています。法改正の狙いが、企業の資金調達の円滑化にあるために、「法人」に限定したのです。
また、前述した「集合動産」も登記の対象とすることができます。
3 登記の効力
登記することにより、動産の「引渡し」があったものとみなされます。要するに、対抗要件を取得できるということです。
4 登記の存続期間
データベースが巨大化する可能性もあるので、登記の存続期間は原則として10年を超えることができないとされています。この点では、不動産の登記とは大きく異なります。
5 取り扱い法務局
動産譲渡の登記を取り扱う法務局は、法文上は「指定法務局等」となっていますが、東京法務局のみが予定されているようです。
6 登記方法
登記申請をするときの動産の特定方法については、省令で定められることとなっていますが、動産の名称・種類、数量に加え、型式、製造番号、製造年月日等の動産の特質で特定する方法と、保管場所の所在地・名称で特定する方法が予定されています。
7 登記事項の開示
動産の登記事項の「概要」は何人に対しても開示されますが、どのような動産が譲渡されているかといった情報を含むすべての登記事項は、動産譲渡の当事者、利害関係人、譲渡人の使用人にしか開示されません。
東京法務局で登記されると、登記事項の概要については、譲渡人の本店所在地の登記所に、譲渡人ごとに編成する動産譲渡登記事項概要ファイルが備えられます。そして、誰でもこのファイルに記録された事項を証明した書面の交付を請求することができます。
今般の法改正で、債権譲渡の登記制度についても改正がなされることとなったのですが、従来は債権譲渡を登記したときは、譲渡人の商業登記簿にその概要が記録されていました。しかし、それは譲渡担保を設定した企業の信用不安を招いたり、そうでなくても利用者の心理的抵抗があるとの指摘が根強くされていました。そのことから、動産譲渡の登記については、その概要を商業登記簿には記録しないこととし、その代わり、前記のファイルを譲渡人の本店所在地の登記所に備えおくとしたのです。
H17.06掲載