中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
民法の保証制度が改正されました
【1】はじめに
中小企業が銀行から融資を受ける場合、銀行は会社の代表者やその他の個人に個人保証を求めます。その理由は、会社と個人資産とは別であり、中小企業においては会社資産が十分でないことがしばしばあること、及び、会社経営者に経営責任を担わせる必要があるからです。
会社経営者に経営責任を担わせる必要があるからです。 さて、バブル経済が崩壊して十年以上たちますが、依然として経済状況は厳しいものがあり、とりわけ中小企業は困難な状況が続いています。このような中で、会社が破綻し、そのため、会社の保証人が予想を超える過大な保証責任の追及を受ける事例が多発しました。こうしたことから、法務大臣が昨年2月保証制度の見直しを指示し、このたび保証制度が改正されたのです。施行日は本年4月1日です。
保証制度の改正は実務上大きな影響を与えるものですので、是非その概要を知っておいて欲しいと思います。
【2】書面によらない保証契約は無効に
契約書を作成しなくても契約が成立するというのが、我が国での大原則です。しかし、このたび保証契約については、書面によらないものは無効とされました(改正民法446条2項、3項)。
ただ注意しなければならないのは、無効となるのは平成17年4月1日以後の保証契約についてであり、同日より前に成立した保証契約は無効となりません。なぜなら、それまで有効とされた契約が事後的に無効となるのは、取引の安全が害されるからです。
【3】根保証について
1 根保証とは
まず、根保証の意味をおさらいしておきます。根保証とは、継続的な取引から生じる不特定の債務(保証の対象となる債務で、「主債務」といいます)を保証するものです。例えば、ある会社が、お金が必要となるたびに銀行から融資を受けるというよくあるケースで考えますと、普通の保証であれば、会社が融資を受けるたびにその都度保証人は保証契約を締結しなければなりません。この場合、保証契約書が作成されるのが銀行実務ですので、融資の都度保証人は署名捺印をしなければならないのですが、手続きが煩雑でスムーズでタイムリーな融資ができません。そこで、一定の継続的な取引から生じる不特定の債務について包括的に保証する、という契約形態があらわれたのです。これが根保証といわれるものです。
2 根保証の問題点(その1)と改正法
しかし、根保証には大きな問題点がありました。その第1は、保証する金額に限度がない場合、根保証人に過大過酷な債務を負わせることとなる、という点です。
つまり、保証する限度額(これを極度額といいます)に定めがあれば、根保証人となる者は、最大限の負担額について予測がつきますが、こうした極度額の定めのない根保証があらわれたのです。極度額の定めのない根保証の効力について、当然に無効、という法理論をたてることは困難で、裁判所はケースに応じてその効力を否定したり、減縮したりするという形で救済してきましたが、こうした司法的救済には限界がありました。
このような問題点がつとに指摘されていたところ、不況のため倒産が相次ぐ中、根保証人が巨額の保証債務の責任を追及されるという事態が相次いだのです。会社は個人では考えられないような大きな経済活動を行なうもので、負債額は多額になる危険性が高いものです。また、会社代表者であればともかく、会社とは何ら関係のない者が頼まれて保証人になるケースがしばしばあり、その場合に全部の債務を負担させるというのは、酷なことです。
そこで、改正法は、極度額の定めのない根保証契約を無効としました(同465条の2第2項)。
3 根保証の問題点(その2)と改正法
改正法はこの点にも規制を加え、5年を越える定めは無効とし、そうした場合や期間の定めがない場合は、3年としました。その結果、根保証人はこの期間の終了時の主債務額のみを負担すればよく、その後の借金については保証責任を負わないでよい、ということとなりました。
もう少し正確に言うと、契約締結日から5年後の日よりも後の日を元本確定期日とする定めは無効とされ(同465条の3第1項)、その定めがない場合には契約締結日から3年後の日を元本確定日としました(同2項)。また、債権者が主債務者や保証人の財産の差押をした場合等が元本確定事由とされました(同465条4)。
4 要件
ただ、以上のように規制の対象となる根保証は、(1)主債務の範囲に「貸金債務」が含まれていること、(2)個人を保証人とするものであること、が必要です。
したがって、主債務が、例えば、売掛金ばかりであるという場合の根保証には適用がありません(主債務は売買代金であり、貸金ではないからです)し、法人が保証人の場合には適用がありません。
(また、(3)損害担保契約についても適用はありません。その理由は、損害担保契約については、規制する必要性が高くないと判断されたためです)。
H17.07掲載