中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
手形の盗難による危険をどう防ぐ
手形や小切手が、事務所荒らしや車上狙いなどにより盗難に遭ったり、電話ボックスやタクシーに置き忘れたりして紛失してしまうという場合があります。このような、手形・小切手の盗難、紛失という問題は、実務上しばしばあり、飛翔においてもかつてこのテーマが取り上げられています。
新しい読者のために、おさらいをしましょう。難しいことはありません。便宜上約束手形を例にとって説明します。
まずは、
(1)銀行に連絡をする
ことです。そこでは、所定の手続きを行なうこととなります。つまり、あなたが約束手形の裏書人であれば、振出人に連絡し、その協力を得て銀行に事故届を行なうこととなります。未使用の手形用紙が盗難等に遭った場合は喪失届を出すこととなります。
印鑑も盗まれたのであれば、改印手続きをする必要もあります。
次は、
(2)警察に被害届を出すこと
もちろん、(1)、(2)に先立ち、
(3)盗難、喪失した経緯を十分聴き取り調査すること
が必要です。そして、
(4)弁護士にその後の対処につき指導
を仰いでください。
顧問弁護士がいれば、真っ先に弁護士に相談してもいいでしょう。
弁護士には法的手続きを依頼することとなります。それは
(5)公示催告手続きの申し立て
と言われるものです。これは、申立人と手形の内容を示し、その手形を所持する者は公示催告期日までに裁判所に届け出て手形を提出すること、もし、届出及び提出がないと手形を無効と宣言する、という内容で、手形の支払地の簡易裁判所に申し立てることとなります。
この申し立てには、振出人から約束手形振出証明書、裏書人から裏書証明書、盗難届受理証明書、手形盗難の経緯を記した陳述書が必要です。その他委任状や、資格証明書といった書類も必要となります。弁護士の指示に従ってください。
さて、この公示催告は裁判所の掲示板に掲示されます。また、官報にも記載されます。
しかし、通常は掲示板や官報をチェックなどしていませんので、裁判所に届け出る者はいません。したがいまして、公示催告後、除権判決が出ることとなります。
申し立てから除権判決までは通常7ヶ月から8ヶ月かかるのが現実です。官報記載日と公示催告期日との間には6ヶ月の期間を置く必要があるからこの程度の期間がかかってしまうのです。東京ではもっと時間がかかるようです。
除権判決の結果、当該手形は無効と宣言されます。そして、手形を所持しない申立人があたかも手形を所持していることと同様の権利を持つことが認められ、その結果振出人に手形金の請求をすることができることとなります。
しかし、ことは単純でありません。
それは、公示催告手続き中、手形が流通し、いわゆる善意取得者が現れてしますという問題です。善意取得者と除権判決を得た者とどちらが勝つでしょうか。
まず、善意取得者とは何かを確認しておきましょう。重要な点は、
- 裏書の連続のあること
- 期限前の裏書であること
- 譲受人の善意無重過失
です。特に2には注意してください。先に述べたように除権判決まで8ヶ月程度かかることから、除権判決までにほとんどの場合支払日が到来しています。支払日到来後たとえ善意無重過失で手形を取得しても善意取得者とはならないのです。
そこで、冒頭の問題です。どちらが勝つか。
近時これに関する最高裁の判決が出ました。
平成13年1月25日の最高裁判決は、善意取得者が勝つ、と判断しました。その理由は3つほどありますが、ここではひとつだけ紹介しておきますと、それは、先に説明した公示催告手続きをしても、善意取得者が除権判決の言渡しまでの間に裁判所に対して権利の届出、手形の提出をすることは実際上困難であるということです。手形の流通性を保護する必要がある、というわけです。
しかし、実務経験の豊富な弁護士は、「手形は転々流通などしない。裏書人のたくさんいる手形は信用性が低いというのが常識だ。ブローカーが善意取得者を作出するために意図的に間に多くの裏書人を入れるのさ」とこぼすでしょう。
こうした見解を踏まえてか、裁判所も善意取得を安易には認めない傾向にあるとされています。例えば、手形の取得経緯を詳しく述べさせ、取得対価として幾ら支払ったのか等を調べて、重過失を認定する例が増えているのです。
しかし、根本的解決を図るにはどうしたらよいか。それは、事前予防策に尽きます。
る弁護士は、手形に裏書禁止と記載せよ、とアドバイスしています(Credit&Law 138号 2001年3月号 11~12頁 阪本清弁護士)。これは裏書禁止手形と呼ばれるもので、法が認めているものです。具体的には、統一手形用紙表面支払約束文句中の「またはあなたの指図人」の文字を抹消し、訂正印を押した上、「裏書禁止」と表面右上部余白などに記すということとなります。振出人の訂正印を貰いづらければ、受取人の印で代用してもよいと阪本弁護士は言われています。もっとも、自身が被裏書人であることはこの方法は使えません。なぜなら、「それでは自身への裏書が否定されるから」です。
このように、裏書禁止手形による方法も考えてもいいかもしれませんね。
H13.05掲載