中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

株主総会不開催のリスク

はじめに

皆さんの中に株主総会を全く開いていない会社はありませんか。中小企業ではありがちなことですが、ひとたび紛争となりますと、弁解のしようがありません。今回は教訓とすべき判例をご紹介しましょう。

はじめに

事案

本件は、雇われ社長であったAが20数年間一度も株主総会を開催せずこの間取締役の報酬以外に約2900万円の賞与を得ていたことから、代表取締役退任後、会社からこの2900万円を損害賠償として返還せよ、と請求されたという事案です。

もう少し詳しく説明しましょう。大学の先輩に誘われて、Aは、先輩がオーナーである損害保険代理店の会社に入りました。会社は設立されたばかりで、Aは顧客の開拓など熱心に仕事に励みました。Aは入社して20年後に、退任した先輩の後を受け社長となりました。先輩はAが社長に就任して5年後に死亡してしまいました。会社の株は先輩の娘さんであるBが相続しました。さて、Aはその後も15年間ほど社長の地位にとどまり、通算20数年間社長として会社を切り盛りし、報酬として総額2億4000万円を取得し、また賞与として合計2900万円を会社からもらっていました。しかし、この間全く株主総会を開催していなかったのです。先輩が社長時代一度も株主総会を開いていなかったので、それを踏襲したのでした。A退任後Bが社長に就任し、間もなく本提訴となったというわけです。

何が問題か

取締役の報酬は、定款に算定方法等の規定がなければ、株主総会の承認決議がなければ支払うことができません。その理由は、本来、報酬を幾らにするかは業務執行の一環として取締役会で決定すれば足りることと思えますが、そうすると、取締役たちは自分たちの都合のいいような額を決定してしまうでしょう。それでは会社の利益、ひいては株主の利益に反します。そこで、こうしたお手盛りを防止するために、定款で定めのない場合を除き、取締役の報酬は株主総会で決定しなければならない、としたのです。

賞与についても、利益処分として株主総会の決議事項ですので、総会の決議なしに支給することはできないものです。

ところが、Aは一度も株主総会を開いていなかったというのですから、同人には報酬や賞与を取得する根拠がないこととなります。

したがって、Aは報酬及び賞与について返還をしなくてはならない、ということになるのは必然です。

そこで、Bは本訴を提起したというわけです。

もっとも、本事案では取締役の報酬については賠償を求めていません。本来賠償を求めることはできたのでしょうが、様々な事情が背景にあったのでしょう、その請求は行なわれず、賞与についてのみ賠償を請求したという事案となっています。

裁判所の判断

裁判所は、Aの商法違反を認めました。ただ、10年以上前の分については、消滅時効が成立しているとし、会社が現実にAに請求可能な金額は1337万円余だとしました。

その上で、唯一の株主であるBは、Aが株主総会を開催しないで会社を運営していたことに何ら異議を述べず、黙認してきたという事実などに鑑み、Aには半額の668万円余の賠償責任があるとしました(東京地裁判決・平成12年6月22日:金融商事判例1126号55頁)。

教訓

本判決に対しては、唯一の株主であるBが株主総会が開催されていないということを知っていた以上、賞与の支給につき全株主の承認があったすなわち総会の承認があったと認めるべきだという意見もあり得ます。

しかし、株主総会が現に開かれていない事実を無視することはできないと思います。本件は高裁で和解がなされたようですが、会社経営者としては、商法の規定を遵守することが何よりも大切だということを肝に銘じる必要があります。

H15.03掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。