中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

株主の帳簿閲覧権について

はじめに

今日は、会社経営者の皆さんにとっては少し怖い話、他方、社長のワンマン経営がおかしいと思っていても、持ち株数が少ないためあきらめている方には、武器になるお話をしましょう。

株主の帳簿閲覧権について

株主の会計帳簿閲覧権

Q.会社経営者にとって、知られたくないことは?

会社あるいは会社経営者にとって、知られたくないことのひとつに経理内容があります。これは、会社の財務内容の良し悪しに関係がありません。

Q.中小企業では、経理関係の資料は、社長と経理担当の社員しか見ることができず、有力な幹部でも知らないことがよくありますね。

そのとおりです。

Q.まさか、経理内容を知る方法があるのですか?

実はあるのです。株主の会計帳簿閲覧権(会社法433条)といわれるものです。

閲覧できる会計帳簿とは

Q.どのような資料が閲覧できるのですか?

「会計帳簿又はこれに関する資料」です。

Q.具体的には?

仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳や手形小切手元帳などの各種補助簿が、「会計帳簿」の代表的なものです。「これに関する資料」としては、伝票、受取証、契約書、信書などです。

Q.かなり広いですね。法人税の確定申告書の控えなどはいかがですか?

これを否定した判例があります(東京地裁平成元年6月22日決定)が、これを肯定すべきだとする有力な見解もあり、確定している状況ではありません。

誰が行使できるのか

Q.会計帳簿の閲覧権を行使できるのは誰ですか?

総株主の議決権の100分の3以上、又は発行済み株式の100分の3以上を有する株主です。

Q.なぜ、こうした株主は閲覧できるとされているのですか?

株主は会社の実質的所有者だからです。

Q.それでは、1個の株しかもっていなくても、行使できるのではないですか?

理論的にはそうですね。ただ、濫用の防止のために単独ではできず、100分の3以上の株式を有していなければならないとされているのです。以前は10分の1以上の株をもっていなければならないとされていましたので、かなり緩和されました。

Q.一人では100分の3未満だが、ほかの株主に声をかけて、合算すると100分の3以上になるときは、どうですか

要件を充たすこととなり、閲覧請求が可能です。

権利行使の方法

Q.閲覧を請求する場合、決まりがありますか?

閲覧を請求する者は、請求理由を明らかにしなければなりません。請求理由は、閲覧を求める理由、閲覧させるべき会計帳簿・資料の範囲について会社がわかるように具体的に記載しないといけません。

したがって、理由を明らかにしない請求は効力がありません。

Q.資料を特定して請求しないといけませんか?

いいえ。株主は会社内部の記帳の状況を知り得ないのが通常です。したがって、閲覧対象の会計帳簿や資料を特定して請求する必要はないと考えられます。むしろ、会社の方が閲覧目的等からして不要な会計帳簿や資料の範囲を立証して閲覧の対象からはずしていくということが実際的です。

Q.閲覧だけではなく、謄写もできますか?

謄写も請求できます。なお、閲覧や謄写の費用は請求する株主が負担する必要があります。

どのような場合に、武器となるか

Q.請求理由には、どのようなものがありますか?

まさに、ここが武器たるゆえんとなるところですが、株主には、取締役の違法行為差止め請求権があります。また、損害賠償請求権があります。そこで、取締役の違法行為差止め請求権、責任追及の訴えの提起等監督是正権の行使の検討のため請求する、ということが考えられます。

また、株の買取価額が問題となったとき、その鑑定資料の獲得のために、この会計帳簿閲覧権を行使することが考えられます。

閲覧を拒否されたとき

Q.正当な理由がないのに閲覧を拒否されたとき、どうすればいいですか?

会社が、閲覧請求を不当に拒否することは十分考えられます。こうした場合、裁判所に仮処分という手続きをとることができます。この仮処分は、比較的短期間に裁判所が判断してくれますので、極めて有効、強力な武器となります。

会社が請求を拒絶できる場合

Q.会社はいかなる場合も株主に閲覧させなければならないのですか?

いいえ。拒否できる場合があります。よからぬたくらみをもって閲覧請求をしてくる場合が考えられます。また閲覧させたとき、かえって会社の業務が円滑にいかなくなる場合もありますし、営業秘密が漏れる危険もあります。こうした濫用や弊害は防ぐ必要があります。

Q.いかなる場合に拒否できるのですか?

法は5つの事由を挙げています。

一つは、株主が権利の確保あるいは調査目的以外で請求を行なっているとき

二つは、会社の業務を妨げ、株主の共同の利益を害する目的があるとき

三つは、会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき

四つは、知りえた事実を、利益を得て第三者に通報するために請求したとき

五つは、過去2年以内において閲覧請求で知りえた事実を利益を得て第三者に通報したことがあるときです。

Q.こうした事由は、どちらが立証する必要がありますか?

会社側がこうした事由のあることを立証する必要があります。

Q.会社は、これらの事由以外の事情を根拠に閲覧を拒否することができますか?

いいえ。これら事由に限定されます。拡張して解釈することはできません。

Q.拒否することにつき正当な事由があるか否かについて、争いが生じたときはどうすればいいのですか

最終的には、裁判で決着をつけることとなります。急ぐ必要があるときは、先ほど説明した「仮処分」の制度を利用することとなります。

おわりに

この会計帳簿閲覧権は、楽天がTBSに対し、行使したことで世間の耳目を集めました。裁判所は、楽天は将来においてTBSと「競争関係」に立つ可能性があることを理由にして、楽天側の閲覧請求を認めませんでした(東京地裁平成19年9月20日)。楽天側はこれを不服として控訴しましたが、最終的には控訴は取り下げられました。しかし、この制度は、本来中小の会社において利用される例が多いものです。経営者は遵法精神をもって会社を運営しないと、思わぬところで躓くおそれがありますので、十分注意してください。

H20.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。