中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

取締役会を開催しましょう

日本の企業においては、取締役会の形骸化が著しいと言われています 

新会社法は、取締役会を設置しない機関設計を株式会社の基本的形態としていますが、やはり従来どおり取締役会を設置している株式会社が多いと思われます。しかし、多くの中小企業では、法定の手続に従った取締役会が開催されていないのではないでしょうか。

取締役会が形骸化していると、取締役が予想外の責任を問われる危険があります。また、取引先企業が取締役会を開催していないような場合には、契約自体が無効となる可能性も否定できません。ここでは、取締役会の基本についておさらいしたいと思います。

取締役会を開催しましょう

取締役会の開催は最低3ヶ月に1回

取締役会は、業務執行取締役の業務執行を監督しなくてはなりません。そこで、取締役会が業務執行取締役の業務執行を十分監督できるように、会社法は、代表取締役等の業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上職務執行の状況を取締役会に報告しなくてはならないと定めました(363条2項)。つまり、少なくとも、この報告のために、3ヶ月に1回以上取締役会を開催する必要があるのです。

取締役会の招集通知は1週間前

取締役会は、常設の機関ではありません。個々の取締役が必要に応じて召集することができます。もっとも、代表取締役が取締役会を招集する旨定款で定めている会社が多いようです。

この召集通知は、書面でも口頭でもよいのですが、取締役会の1週間前に各取締役及び監査役に対して発しなくてはなりません(定款で短縮可)。なお、取締役と監査役全員の同意があれば召集手続なしに開催できますので、予め全員の同意で定例日を定めておくとよいでしょう。

取締役会における決議

取締役会の決議は、取締役の過半数が出席し、その出席した取締役の過半数によって行われます(定款で要件加重は可)。

取締役会決議について特別の利害関係のある取締役がいる場合、当該取締役は決議に参加できません。したがって、取締役の競業取引や利益相反取引の承認を行う議題の場合は、当該取締役は決議に参加することができません。また、代表取締役を解任する場合の当該代表取締役も議決権を行使できません。

書面やメールでの決議も可能

商法では、取締役会の書面決議や持ち回り決議が禁止され、テレビ会議等の場合を除けば、取締役が実際に集まることが必要とされていました。しかし、取締役が海外に赴任していたり、社外取締役が就任しているような場合には、取締役会の開催が困難になるという不都合が生じていました。

そこで、会社法は、次の条件を全部満たす場合に限り、取締役会の書面または電磁的方法(電子メール等)による決議を認めました(370条)。

  1. 書面または電磁的方法により取締役会決議をすることができる定款の定めがあること
  2. 取締役会の決議の目的である事項(決議内容)につき全員の取締役が同意すること
  3. (業務監査権を有する監査役が設置されている場合)監査役が異議を述べないこと

という3つの条件です。

もっとも、このような条件を満たした場合であっても、前述した業務執行取締役による業務執行状況報告は書面をもってすることはできません。したがって、最低でも3ヶ月に1回は実際に取締役会を開催しなくてはなりませんので注意が必要です。

なお、取締役会の書面決議が容認されると、取締役が決議内容をよく検討せずに同意してしまいがちになります。しかし、十分な検討をしないままに同意すれば、株主から任務懈怠責任を追及される可能性があります。そのような場合に備え、取締役の判断が合理的な根拠に基づいて適正に行われた経緯を、資料として残しておくとよいでしょう。また、取締役会決議に参加した取締役が議事録に異議をとどめない場合は、その決議に賛成したものと推定されます。重要な案件については、安易に書面決議に同意するのではなく、取締役会の開催を要求し、決議に反対した旨を議事録に記載しておくことが重要です。

重要な業務執行等に関する意思決定

取締役会では、定款変更や減資、解散、吸収合併、事業譲渡、取締役や監査役の報酬決定等については決議できず、株主総会の決議事項となっています。他方、例えば、重要な財産処分・譲受、多額の借財、支配人等の選任・解任、支店の設置・廃止その他の重要な業務執行などは、取締役会の決議事項とされており、定款によっても代表取締役に決定権をゆだねることはできません。

もちろん、上述のような法定決議事項以外の事項についても取締役で決定することができ、その決定は代表取締役を拘束することになりますが、日常的事項についての決定は代表取締役に委譲されているのが一般でしょう。

では、法定の決議事項であるにもかかわらず、代表取締役が、取締役会の決議に基づかずに業務執行してしまった場合、その行為は有効でしょうか。この点は、決議を経ていないことを知らないで取引した相手方(第三者)の利益と、会社の利益とがぶつかり合う場面であり、大変難しい問題を含んでいます。事例ごとに考えるしかありませんが、取締役会決議がないことを取引の相手方が知りまたは知りうべきときは契約を無効とするという判例もありますので、取引先企業に多額の金銭を貸し付けたり保証人になってもらうようなときなどは、取締役会議事録のコピーを徴求する等して、決議を経ているか必ず確認するようにしましょう。

取締役会議事録の作成

取締役会の議事については、議事録を作成し、出席した取締役・監査役が署名または記名押印します。なお、前述したとおり、決議に反対した取締役は、議事録に異議をとどめておかないと決議に賛成したものと推定され、不利益を受けるおそれがありますので注意して下さい。

取締役会を開催しましょう

最近、欠陥製品で事故を起こした企業において、取締役会が機能していなかったことが報道されています。取締役会が、取締役の業務執行内容を十分に監督できていなければ、万一事故が起こった場合に素早い対処をすることができません。馴れ合い経営のそしりを受けないためにも、法律に従い、意義のある取締役会を開催しましょう。

H18.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。