中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
インターネットによる契約の法律問題
1.インターネットによる契約の問題点
近時、多くの商取引がインターネットなどの電子的方法にて行われています。そのような電子商取引の主な特徴としては、非対面性・匿名性、距離的・時間的制約の解消、ペーパーレス化、機械(非対人)取引などがあげられます。
民法・商法等の現行法の多くが制定された時点では、そのような技術の登場は予測されていなかったため、必ずしも法律が技術の進歩に追いついていないのが実情です。そのため、平成12年、書面の交付・書面による手続を義務づけた50本の法律について電磁的方法による契約を容認する改正をした「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(IT書面一括法)が制定されたり、平成13年、電子消費者契約や電子承諾通知について民法の特例を定めた「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(電子契約法)が制定されたりするなど、立法的な手当もなされてきています。
しかし、依然、現行法の解釈が問題となる場面が多々あるため、平成20年8月、経済産業省から「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(準則)が公表されました。準則では、個別具体的な事例を豊富に用いて、各事例において現行法がどのように適用されるかが詳細に解説されています。
以下、準則を参考に、いくつかの具体例をみていきたいと思います。
2.電子承諾通知を発信した場合の契約の成立時期
- 契約の承諾通知を電子メールで行った場合、契約は、当該電子メールを発信した時点で成立するのでしょうか、それとも、当該電子メールが相手方に到達した時点で成立するのでしょうか。
- 民法は、隔地者間の契約の成立時期について、承諾の通知を発信したときに成立すると定めています(民法526条)。これは、承諾の通知の到達に数日を要していた立法当時の郵便事情を勘案したものです。
しかし、電子メール等の電子的な方法による通知は、極めて短時間で相手方に到達するため、電子契約法は、電子承諾通知を発した場合には、民法526条の適用をしないという特例を定めています。
よって、契約の承諾通知を電子メールで行った場合には、当該電子メールが相手方に到達した時点で契約が成立することになります。
3.ウェブサイトの利用規約の有効性
- インターネット通販などのインターネット取引を行うウェブサイトには、利用規約などの取引条件が掲載されるのが一般的ですが、そのような利用規約は、サイト利用者に対して法的な拘束力を有するのでしょうか。
- 利用者が当該利用規約に同意をしたうえで取引を申し込んだのであれば、原則として、当該利用規約の内容は、利用者に対して法的な拘束力を有します。
しかし、利用規約が明瞭に表示されていなかったり、利用規約への同意クリックが要求されていなかったりした場合には、たとえ利用規約を定めていたとしても、利用者に対して法的な拘束力を有しないと解される可能性がありますので注意が必要です。
また、利用規約にも消費者契約法などの消費者を保護するための法律が適用されますので、利用規約に強行法規(当事者間の合意如何にかかわらず強制的に適用される法規)や公序良俗(公の秩序又は善良な風俗)に反する条項がある場合、当該条項は無効となります。たとえば、利用規約に、事業者の消費者に対する債務不履行責任、瑕疵担保責任などの損害賠償責任を全面的に免除する条項を定めたとしても、当該条項は無効となるため(消費者契約法8条)、利用者を法的に拘束することはありません。
4.「なりすまし」による意思表示がなされた場合の本人への効果帰属
- インターネット通販において、第三者が本人になりすまして商品を購入した場合、なりすまされた本人に売買契約の効果が帰属し、本人はその商品の代金を支払う義務を負うのでしょうか。
- 本人確認の方式について事前合意がない1回限りの取引の場合、当該売買契約の効果は本人には帰属せず、本人は商品代金の支払義務を負わないのが原則です。
- ただし、民法上の表見代理(民法109条、110条、112条)の要件を満たす場合などには、例外的に本人への効果帰属が認められることがありえます。
- これに対し、本人確認の方式について事前合意がある継続的な取引の場合、事前に合意していたIDやパスワードが使用されたときには、原則として、当該売買契約の効果は本人に帰属し、本人は商品代金の支払義務を負うこととなります。
ただし、売主側が提供するシステムのセキュリティのレベルが通常期待されるレベルよりも相当程度低い場合などには、事前合意の効力が認められないこともありえます。
5.消費者が操作ミスによって契約を締結した場合
- 電子契約において、消費者が操作ミスによって契約を締結した場合、当該契約は有効となるでしょうか。
- これについては、電子契約法が民法の特例を定めており、
- 消費者が申込を行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を事業者が講じた場合、
- 消費者が自ら確認措置が不要である旨の意思表明をした場合を除き、操作ミスによる消費者の申込の意思表示は無効となります(電子契約法3条)。これによって、消費者は、操作ミスによって意図しない契約をした場合にも救済されることとなります。
これに対し、事業者が上記aの確認措置を講じていれば、消費者に重大な過失があった場合には、事業者は、契約の成立を主張することができます。そこで、事業者としては、消費者が最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示して訂正する機会を与える画面を設定するといった措置を講ずることが重要となります。
6.最後に
以上をはじめ、準則は、参考になる解釈の指針を多数示していますので、インターネットによる契約について法解釈の問題が生じた場合には、参照されるとよいでしょう。
H21.09掲載