中小企業の法律相談

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物品購入時には検査・通知義務にご用心

商人間売買における買主の検査・通知義務

商人と商人の間で締結される物品売買契約(商人間売買)においては、それ以外の民事売買にはない特別な買主の義務が商法上定められています。

民事売買では、目的物に瑕疵や数量不足がある場合、善意の買主は、その事実を知ったときから1年以内に、契約を解除したり、代金減額・損害賠償を請求したりすることができます。

ところが、商人間売買においては、買主は、目的物の受領後、遅滞なく物品を検査し、瑕疵を通知する義務が課され、これを怠ると、買主は救済を受ける権利を喪失することとされています(商法526条)。

すなわち、商人間売買の買主は、目的物を受領したら遅滞なく検査し、瑕疵や数量不足を発見して、直ちに売主に対して通知しなければ、売主が悪意の場合を除き、当該瑕疵や数量不足を理由に、契約解除、代金減額や損害賠償を請求することができないのです。もし、目的物に「直ちに発見できない瑕疵」があった場合、6ヶ月以内にこれを発見すれば、買主は、売主に直ちに通知を発することにより損害賠償などを請求できます。万一、6ヶ月以内に瑕疵を発見できなかった場合には、買主の過失の有無を問わず、もはや売主に対して権利行使できなくなってしまいます。買主にとって大変厳しい規定です。

物品購入時には検査・通知義務にご用心

このような規定が置かれた理由は、商取引の迅速性の要請と、買主が商人であれば、専門的知識を有するため、このような義務を課しても負担とならないという考え方に基づきます。もっとも、実際は、買主が商人であるからと言って、購入するすべての物品について専門的知識を有するわけではありません。例えば、鮮魚店は、仕入れる魚については専門的知識を持っているでしょうが、レジや電話機、冷蔵庫、製氷機、水槽についてまで専門的知識を有しているとは限りません。しかし、そのような、買主が専門的知識を有するはずのない物品の売買についても、商人間売買の特則は適用されますので、物品購入の際には、これを念頭に置く必要があります。

検査の時期と検査方法

検査の時期について、商法は「遅滞なく」行うとしか定めていません。どの時期なら「遅滞なく」検査したといえるかは、目的物を受け取った場所、目的物の性質・種類等を考慮して判断されることになります。人手不足など買主の個人的な事情は考慮されません。

検査方法についても、商法上は具体的な定めはなく、相当の方法によって行うとされていますが、できれば、売買契約時に、買主が実施すべき検査方法を定めることが望ましいでしょう。買主としては、検査をしないで瑕疵を発見した場合でも、直ちに通知することによって権利を保全できるため、検査方法を定める意味が乏しいように思われるかもしれません。しかし、相当な方法による検査を実施したことは、後日判明した瑕疵が「直ちに発見できない瑕疵」であったことの有力な証明となります。つまり、買主が、相当な方法できちんと検査をしたのにその場では瑕疵を発見できなかったということを証明すれば、後日判明した瑕疵が「直ちに発見できない瑕疵」であったと考えることができ、6ヶ月の猶予が認められることになるわけです。検査方法が予め定まっていないと、相当な方法による検査ではなかったと売主から主張されるおそれがありますが、契約時に売主と検査方法を取り決めておくことにより、そのような主張を封じることが可能になります。

通知の内容

検査の結果、物品に瑕疵や数量不足が発見された場合、買主は直ちに売主に通知しなくてはなりません。通知内容は、単に「瑕疵あり」とか「数量不足」といった表現では不十分です。できるだけ詳細なほうが望ましいですが、瑕疵の種類や範囲、数量不足の程度は、最低限、明示して通知する必要があります。通知内容や発信日を後日立証できるよう、内容証明郵便を利用しましょう。

瑕疵ある物の保管義務

買主が検査・通知義務を果たして瑕疵や数量不足により売買契約を解除した場合、買主のもとにある目的物の取扱いが問題となります。民法上は、契約解除の場合、買主は目的物を返還する義務を負うだけですが、商人間売買の場合、買主に特別の目的物保管義務が課されています(商法527条)。

商人間売買において、瑕疵や数量不足のために買主が契約を解除した場合、買主は売主の費用をもって目的物を保管または供託しなくてはなりません。保管か供託かは、買主が自由に選択できます。

目的物が、たとえば生鮮食品のように、保管中に損傷するおそれがある場合は、裁判所の許可を得て競売に付し、代価を保管または供託しなければなりません。競売したときは、遅滞なく売主に通知することになります。

保管・供託期間が明確でなく、時には競売手続をとらなくてはならないなど、やはり買主にとって負担の重い規定となっています。

特約で買主の義務の範囲を明確化しましょう

このように、商法は、商人間売買の買主に対し、非常に重い義務を課しています。

もっとも、いずれも任意規定ですので、売買契約にあたり、これと異なる特約を結ぶことが可能です。買主としては、取引基本契約書や売買契約書、注文書・注文請書のひな形等に、積極的に特約を盛り込み、瑕疵や数量不足の場合に思わぬ負担をせずに済むよう対処することが肝要です。

特約にあたっては、検査時期や方法を明確化するほか、検査で直ちに発見できないような瑕疵が後日判明した場合の返品等を認める期間の定め(重大な瑕疵の場合は期間経過後でも売主が責任を負う等)、瑕疵ある物の取扱い(売主の引取義務の定め、一定期間経過後は買主による任意売却を認める等)などについて、後日疑問が生じないよう明確に定めるよう心がけましょう。

時折、6ヶ月の検査通知期間を延長する趣旨で「通知が遅れても売主は責任を負う」とか「保証期間は引渡し後3年とする」のように簡単に定めた特約を見ます。しかし、このような簡単すぎる特約ですと、いざとなって、売主から「発見した後になす通知の遅れを許す趣旨の定めにすぎない」「民法上の瑕疵担保期間を約定したものにすぎない」など、検査通知期間の延長の特約ではないと主張される危険があります。後日の紛争回避のため、慎重に特約条項を検討する必要があります。

なお、売主が下請法上の下請事業者の場合は、公正取引委員会が定める運用基準(平成15年12月11日事務総長通達18号)の範囲で特約を定めるようにしましょう。

H22.02掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。