中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
民事再生手続とリース契約の解除
民事再生手続開始申立をしたことを理由にリース契約の解除はできるか
ファイナンス・リース契約書には、契約解除に関する条項が入っていますが、「相手方が民事再生手続開始の申立をしたときは、催告を要することなく契約を解除することができる」という趣旨の条項が多く見られます。
民事再生手続は再建を目的とするとはいえ、倒産の申立には変わりないのであるから、相手方が民事再生の申立てをしたときは、直ちに契約の解除をしてリース物件の返還を受けられるようにしておこうという狙いの条項です。
ところで、逆の立場、つまり民事再生を申し立てる債務者側に立ってみたときはどうでしょうか。民事再生は文字通り、再生のために認められた法的手続です。それなのに、再生手続を申し立てたということから、問答無用に契約の解除が認められ、事業に必要なリース物件を持っていかれるというのであれば、再生などできなくなってしまうではないかという考え方もできそうです。
果たしてこのような解除条項は有効なのでしょうか、無効なのでしょうか。
実は、この問題は、民事再生の前の和議の時代から議論されていて、長い間未解決とされていました。この点についての最高裁判所の判断が長い間出ていなかったためでもあります。
しかし、平成20年12月16日に、この問題に決着を付ける最高裁判所の判断が示されました。
「民事再生手続は、経済的に窮境にある債務者について、その財産を一体として維持し、全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき、債権者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり・・・」
「・・・担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならない」
このように最高裁判所は判断し、ファイナンス・リース契約における本件解除条項は、「民事再生手続の趣旨、目的に反するものとして無効」としたのです。
民事再生手続開始申立後リース料を支払わなかったことを理由に解除できるか
債務不履行解除は可能
民事再生を申立後、リース料の支払がないということがよくあります。リース料を支払わないというのは、明らかに債務不履行ですが、それを理由としても契約解除というのはできないのでしょうか。
さすがに民事再生が再生のための手続であるからといって、債務不履行があるのに、契約の解除ができないというのではリース会社は困りますし、債務者がリース料を支払わないままリース物件の使用を継続できるというのもおかしな話です。
リース料を支払わない場合は、債務不履行を理由にリース契約を解除することができます。
弁済禁止の保全処分がある場合
もっとも、民事再生手続では、債務者は申立時に申立前の原因に基づく債務の弁済を禁止する旨の保全処分の申立もしていて、裁判所が保全処分決定をすることが多く行われています。この弁済禁止の保全処分は、裁判所が弁済を禁ずるもので、言ってみれば、民事再生の申立をした債務者は「払おうにも払えない」状況に置かれることになります。とすると、これを債務不履行と評価するわけにもいきません。つまり、弁済禁止の保全処分によりリース料を支払わない場合は、債務不履行を理由に解除できないということになります。
では、その場合ずっと解除できないことになるのでしょうか。
保全処分は再生手続開始決定まで維持されますが、再生手続開始決定となると、今度は法律上(民事再生法85条1項)リース債権は再生債権として弁済ができないこととなってしまいます。とすると、結局一貫して法律により弁済できない状態が続き、債務不履行ではないようにも見えます。
しかし、そのようには考えず、保全処分は民事再生手続開始決定により失効するので、債務者はリース料金について債務不履行状態に陥ると考えるようです。つまり、民事再生手続開始決定と同時に債務不履行があるとして解除することが可能となるのです。
弁済禁止の保全処分からリース債務が除外されていたとき
上記のように、民事再生では弁済禁止の保全処分決定がされるのが一般的ですが、リース債務を除外しているケースも見受けられます。弁済禁止から除外されているわけですから、債務者が月々のリース料は支払わないときは当然に債務不履行となり、解除は可能となりますが、通常は自らリース債務を除外して弁済禁止の保全処分を得ているわけですから、月々のリース料はちゃんと払うはずです。
この月々のリース料が払われている場合は、契約解除をしようというリース債権者はあまりいないと思いますが、頭の体操として、残リース料を一括して支払わなければ債務不履行であるという主張ができるかどうか考えてみましょう。
ファイナンス・リース契約では、民事再生手続開始の申立をしたとき、契約解除だけではなく、期限の利益を失う、つまり残リース料を一括して支払わなくてはならないという条項もあることが多いようです。そこで、この条項が有効かということですが、民事再生が再生のための手続とはいえ、この期限の利益を喪失するという条項の効力は否定されないようです。つまり、月額リース料は支払っても、「期限の利益を喪失したにもかかわらず、残リース料全額を支払わない」ということを債務不履行とすることもできることになるのです。
債務者側の対抗手段
上記のとおり、リース料が支払われないときは、リース債権者は結局は契約解除ができるようになるのですが、この契約解除はリース物件回収という担保の実行手続といえるのであって、債務者としては、担保権実行手続の中止命令(民事再生法31条1項)を得て対抗するということが考えられます。
もっとも、実務的には、必要不可欠なリース物件に関しては、進んで交渉してリース料の支払方法に一定の配慮をした再リース契約を締結している例が多いようです
H23.3掲載