中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

中国企業と契約を交わす際の留意点

中国企業による日本進出は年々活発化しています(ある調査会社の統計によると、海外企業が日本企業に対して買収や出資などを行う対日M&Aのうち、2010年は中国企業による件数が前年比42.3%増の37件と、米国を抜き首位に立っているようです)。

一方で、近年、製造業を中心に日本企業による中国進出も本格化しています。

中国企業との接点が増えればその分、中国企業と契約を交わす機会は増え、契約を交わす機会が増えればその分、法的トラブルに発展するリスクが高まります。

では、中国企業との間で契約を交わす際、そうした法的トラブルの回避あるいは発生した際の解決に備えて、どのような点に留意したらよいのでしょうか。

中国企業と契約を交わす際の留意点

今回は,まず、中国法務の現状に触れたうえで、中国企業と契約を交わす際の留意点について考えてみたいと思います。

中国における法整備の現状と権利意識の高まり

中国では、2007年に物権法、独占禁止法、労働契約法等の重要法令が制定され、日本にある基本的な法律のほとんどが整備されました。

そして、2010年には改正された不法行為法(「権利侵害責任法」)が施行され、今後は契約法を含めた大幅な民法典の改正や、個人情報保護法の制定等も予定されているようです。

このように中国における法整備は年々進んでおり、元々欧米人並みの権利意識を持っていると言われる中国人の権利意識も、これに呼応するように高まってきています。

したがって、中国企業と契約を交わす際には、こうした現状を念頭において臨む必要があります。

中国企業と契約を交わす際に求められる基本的姿勢

繰り返しになりますが、中国人の権利意識は欧米人並みに高いと言われています。

そのため、例えば、日本企業間の契約書においてよく見られる「誠実に協議する」といった条項は中国企業との契約においては通用しません。したがって、対欧米企業との契約同様、細かいところまできっちり定めておく必要があります。

紛争解決手段に関する条項の重要性

とはいえ、いくら細かいところまで定めておいたとしてもトラブルは生じます。

では、実際に法的トラブルに発展した場合に備えて、どのような紛争解決手段に関する条項を契約書に織り込んでおくとよいのでしょうか。

結論から申しますと、第1に、対中国企業に限らず、国際的な契約では、まず、その契約に関して紛争が生じた場合の解決方法を定めることが重要です。具体的には、裁判条項または仲裁条項を定めることになります。

そして、第2に、紛争が生じた場合にどの国の法律を適用して紛争を解決するか(準拠法の問題です。)を定めることが重要です。

以下、それぞれについて項を分けて述べます。

裁判か仲裁か?

まず、裁判を通じて紛争を解決するのか、仲裁を通じて解決するのかを選択することになります。

それぞれの手続のメリット、デメリットは以下のとおりです。

  1. 裁判
    メリット: 二審制(一審で不利な判断や誤った判断をされたような場合に、控訴をして争うことが出来ます。複雑で難しい事案では安全と言えるでしょう。)
    デメリット:日本で裁判を起こした結果、勝訴したとしても、その判決に基づいて中国で執行することができない。中国で裁判を起こした場合、裁判官の質は必ずしも確保されていないうえ、地元保護主義の風潮が少なからず存在する。
  2. 仲裁
    メリット:仲裁人の専門性が確保されている。手続が簡易。仲裁に基づく執行が可能。非公開が原則であるため、秘密保持が期待できる。早期解決が期待できる。
    デメリット:基本的に不服申し立ては認められておらず、いわゆる「一発勝負」。なお、契約書において紛争解決手段を定めないことも可能ですが、その場合、仲裁合意がないと判断されてしまい、仲裁制度を利用できなくなりますので注意が必要です。なお、契約書上、紛争解決手段として裁判を選択する場合、どこの裁判所で裁判を行うかを決めておくことも原則として可能です(裁判管轄の合意)。

一方、紛争解決手段として仲裁を選択する場合には、どの仲裁機関を利用して、どこで(仲裁地)、どの仲裁規則で仲裁を行うのかを決めなければいけません。代表的な仲裁機関としては、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)のほか、日本の国際商業仲裁協会等が考えられますが、第三国の仲裁委員会でも構いません。

準拠法について

裁判にせよ仲裁にせよ、当該裁判所、仲裁機関がどこの国の法律を適用して判断を下すのかを別途決める必要があります。これが準拠法の問題です。

また、たとえ裁判や仲裁に発展しないとしても、準拠法は契約解釈の基準となる法律ですから、例えば、契約書上に明確な規定がない事項についての解釈の基準となります。

したがって、準拠法は非常に重要な契約条項です。

この点、一般的には、準拠法は紛争解決場所の法律とする方が望ましいと言われていますが、合弁契約、合作契約には中国法が強制的に適用されますので注意が必要です。

最後に

一般的なイメージとは異なるかもしれませんが、実は中国は契約社会です。

そして、中国企業との間でトラブルになった事例の多くは契約書の内容に不備があったケースであると言われています。

紛争解決手段に関する条項を定めておくことももちろん重要ですが、裁判にせよ仲裁にせよ、実際に紛争に発展した際に頼りになるのは契約書であることを念頭において、まずは慎重に契約書を作成することが最重要と言えるでしょう。

H23.7掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。