中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

ご存知ですか?家族を介護する従業員のための法制度

1 はじめに

高齢化が著しい現代において,介護と仕事の両立は重要な問題です。

一昔前と比べれば介護の環境が充実してきたとはいえ,仕事をしながらの介護は,肉体的,精神的負担だけでなく時間的な負担も大きいため,転職や退職を余儀なくされる労働者も少なくありません。

このような現状を踏まえ,労働者が安心して介護と仕事を両立させることができるよう介護休業,介護休暇等の法制度が整備されているのですが,十分に周知されているとは言い難いのが現状です。

そこで,今回は,介護と仕事の両立のための法制度についてお話したいと思います。

ご存知ですか?家族を介護する従業員のための法制度

2 介護休業

  1. 介護休業とは
     介護休業は,『労働者』が,『要介護状態』にある『家族』を介護する必要がある場合に,休業することができるという制度です。
     ここにいう『労働者』には,正規雇用者のほか,一定の条件を満たす非正規雇用者が含まれますが,日々雇用の労働者は含まれません。
    また,『要介護状態』とは,怪我や病気,加齢などの事情により,2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態にあることを指します。
     そして,『家族』には,【1】配偶者または事実婚関係にある者,【2】父母及び子,【3】配偶者の父母に加え,【4】同居し,かつ,扶養している祖父母,兄弟姉妹,孫も含まれます。
  2. 休業期間
     最長3か月(93日間)です。
      なお,介護休業は,原則として,対象家族一人につき要介護状態に至るごとに1回のみ取得することができます。言い換えれば,対象家族の要介護状態に変化が無い限り,介護休業を再度取得することはできません。
  3. 必要な手続
     休業開始日の2週間前までに,事業主に申し出る必要があります。
  4. 事業主に求められる対応
     介護休業の申し出を受けた事業主は,たとえ繁忙期や人手不足等の事情があっても,原則としてこれを拒否したり,期間を変更することはできません。
     また,介護休業を取得したことを理由に解雇する等の不利益な扱いをすることも禁じられています。
  5. 休業中の賃金
     介護休業中の労働者に賃金を支給するかどうかは,事業主の裁量に委ねられています。
     ただし,雇用保険に加入している介護休業者に対しては,雇用保険から介護休業給付(原則として賃金の40%相当額)が支給されます。

3 介護休暇

  1. 介護休暇とは
     介護休暇は,平成22年6月に施行された改正育児・介護休業法により新設された制度で,要介護状態にある対象家族が一人であれば5日間,二人以上であれば10日間の休暇を、年度毎に取得できることができるという制度です。
     介護休暇を取得できるのは,要介護状態にある対象家族を介護,もしくは『世話』する労働者ですが,ここにいう『世話』には,通院の付添いや要介護者が介護サービスを受けるために必要な手続の代行等も含まれます。
    前述した介護休業は,一人の対象家族の一つの要介護状態につき,原則として1度しか取得できないため,ある程度長期間にわたって介護が必要な場合にしか利用できないという欠点がありました。
     この点,介護休暇は,例えばヘルパーさんが急に来られなくなった場合等,短期間の介護が必要になった場合でも取得することができるので,労働者にとっては,利便性が高い制度といえるでしょう。
  2. 必要な手続
     事業主に対し,対象家族との続柄等一定の事項を明らかにして介護休暇の申出をする必要がありますが、介護休業のように申出期間についての制限は法律上は特にありませんので、当日申出があった場合でも、介護休暇の取得は可能です。
  3. 事業主に求められる対応
     介護休業の場合と同様,事業主は,たとえ繁忙期や人手不足等の事情があっても,原則としてこれを拒否したり,休暇日を変更することはできません。
    また,介護休暇を取得したことを理由とする不利益な扱いも禁じられています。
  4. 休業中の賃金
     介護休業の場合と同様,介護休暇中の労働者に賃金を支給するかどうかは、事業主の裁量に委ねられています。

4 時間外労働の制限

要介護状態にある対象家族を介護している労働者(※日雇労働者や,継続雇用期間が1年未満の者,1週間の所定労働日数が2日以下の者は除く。)が時間外労働の制限を請求した場合,事業主は,事業の正常な運営を妨げる場合を除き,制限時間(1か月につき24時間,1年につき150時間)を超えて労働時間を延長することはできません

5 深夜労働の制限

要介護状態にある対象家族を介護している労働者(※で列挙した者のほか,深夜において常態として対象家族を介護することができる同居の家族その他の者がいる者,所定労働時間の全部が深夜の時間帯を重なる者を除く。)が深夜業の制限を請求した場合,事業主は,事業の正常な運営を妨げる場合を除き,深夜業(午後10時から午前5時までの労働)をさせることができません。

6 その他の制度

これらのほか,育児・介護休業法は,労働者の仕事と介護の両立を支援するべく,短時間勤務の制度やフレックスタイム制度を設ける等の措置をとるよう事業主に求めています。

7 最後に

以上のような介護者支援の流れは今後も強くなっていくものと考えられます。 こうした流れの中で,事業主には,介護と仕事の両立が労働者にとって重要な問題であることを十分に認識したうえで,労働者が家族を介護しながらでも安心して働ける環境を整備する努力が求められているといえるでしょう。

H24.3掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。