中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

ADRってなんでしょう?

ADR(エーディーアール)という名前を聞いたことがありますか?)

金融ADR、震災ADR、原子力損害賠償ADRといえば、ある程度ピンとくるかもしれません。最近報道等でもしばしば出てくる用語となっているようです。

ADRとは、Alternative Dispute Resolutionの略で、「裁判外の紛争解決機関」のことをいいます。

ADRってなんでしょう?

紛争解決というと思い浮かぶのが裁判所での訴訟ですが、裁判所以外で紛争解決することができるようにしようというのが、制度の始まりです。裁判というと、時間がかかるものというイメージがあります。また、裁判というと、勝訴、敗訴の言葉があるとおり、どうしても「勝敗」という結果への関心が高まり、微に入り細に入り万全の準備をして、対策なり戦略を立てるということとなり、そのために、本来は別の新しいビジネスに専念させたい社員を、裁判のために長時間拘束してしまうということになりがちです。この有能な人材を裁判に奪われるというのも、企業にとっては重大な関心事です。

とはいえ、紛争になっているわけですから、当事者同士の話し合いではなかなか解決できないこともあります。そのようなときは、お互い弁護士を付けて、代理人同士で話すと早期にうまく解決できることがありますが、やはり代理人は中立ではなく、依頼人の利益を一番に考えるので、解決できないことも間々あります。そこで、やむなく裁判に発展していくというのが一つのパターンなのですが、そこまでいかなくても中立的な立場の人に間に入って協議をすれば迅速で合理的な解決できるのではないかというケースもあるはずです。

ADR制度の狙いは、まさにここにあります。

2 ADR法

裁判外の民間の紛争処理機関であるといっても、ちゃんとしたルールが「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(通称ADR法)という法律で定められています。

また、このADR法には、法務省による認証制度というものがあり、この認証を受けているADRは、ADRへの申立により、時効の中断効が認められたり、裁判をするには裁判所での調停をまず先にしなくてはならない一定の事件(離婚や賃料増減額請求事件等)について、ADRへの申立が裁判所での調停の代わりなるという機能も与えられています。

3 弁護士会のADR

  1. 全国展開
    ADRというのは民間の紛争解決機関ですから、いろいろな団体がADRを開設しているのですが、ここでは弁護士会のADRをご紹介したいと思います。
    弁護士会のADRは、「仲裁センター」や「紛争解決センター」の名称が付されていることが多いのですが、平成24年8月末時点で、全国52弁護士会のうち31弁護士会で設置され、34センターで運営がされています。まだ新設されると思いますので、近い将来、全国くまなく弁護士会のADRが設置されることになるでしょう。
  2. 手続の種類
    ADRでは、大きく二つに分けて、「和解のあっせん」と「仲裁」という手続を行っています。
    和解のあっせんというのは、中立の弁護士あっせん人が申立人と相手方との間の紛争が和解により解決できるようにあっせんする手続のことで、これは話し合いのあっせんですから拘束力があるわけではなく、当事者はあっせんを受け入れるかどうかは自由です。
    一方、仲裁とは、申立人と相手方が合意して、中立の弁護士仲裁人が当該紛争についての解決策を決定することを求める手続で、その決定には拘束され、不服の申し立てなどはできない手続です。
    現状のADRでは、和解のあっせんが圧倒的に多く、仲裁はまだまだ数が少ないようです。あくまで和解協議であり、提案に拘束されないという点が、手続として利用しやすいということだろうと思います。
  3. 申立
    弁護士会のADRも、細かな点では弁護士会毎に異なるのですが、福岡県弁護士会の例で説明することとします。
    福岡県弁護士会では、ADRに申し立てをする場合には、弁護士による法律相談を経て、弁護士による紹介状が必要になります。これは、ADRでの解決に適しているかどうかを弁護士が予め判断するために行われています。ADRはお互いが解決のために歩み寄るという前提がないと解決が難しいので、当事者があまりに感情的になっていたり、緻密な事実認定が紛争解決のためには不可欠であったりする事案は、ADRには向かないのです。この弁護士の相談は、弁護士会が主催する法律相談である必要はなく、どの弁護士による相談でも構いません。例えば、顧問弁護士に相談して、紹介状を書いてもらうということでも構いません。
    申立は、紹介状を添えて、申立書を弁護士会の法律相談センター(現在福岡では天神、小倉、久留米)に提出します。所定の申立書が上記センターにあり、これに記載することとなりますが、裁判ではないので、申立書の書き方は自由で、紛争の概要が伝われば十分です。
    平成24年10月1日現在では、福岡県弁護士会のADRの申立の手数料は10,500円(消費税込み)です。
  4. 和解のあっせん
    申立て後、ADRからは期日の連絡があり、相手方にも連絡文書が送付されます。弁護士会ADRでは期日が早く入るように努力をしているようです。
    定められた期日に、法律相談センターに出向くと、中立の弁護士あっせん人主催で和解のあっせんが行われるのですが、福岡県弁護士会では、現在のところ別席で事情を聞かれることが多いようです。
    弁護士会ADRでは3回の期日での和解成立を目指しておりますので、迅速な解決が期待できます。他方、当事者が歩み寄るのは難しいという場合は、「不成立」ということで打ち切られることもあります。
    和解が成立した場合は、弁護士が起案した和解書を作成して手続が終了します。この際、福岡県弁護士会のADRでは、原則として当事者双方から成立手数料を紛争解決の額に応じて負担してもらうことになっています。
  5. 適した事案
    前述したように、ADRでの解決は、お互いが解決したいと考えているという前提が必要です。その意味では、迅速な解決が要請される企業間トラブルも事案によっては、ADRに適しているといえるかもしれません。現に、共同事業の解消に伴う精算といった事案もADRで解決しているようです。

H24.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。