中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

誤った使用方法による製品事故への対策

相次ぐ製品事故

企業が製造・輸入する様々な製品は、消費者の生活を便利に、豊かにする一方、近年では消費者の安全を脅かす製品事故が相次いでいます。

自動車メーカーのリコール隠しによる死傷事故や、回転ドアの安全センサー不感知による児童の死亡事故は記憶に新しいところです。これらは経営トップが刑事責任を追及される事態となりました。1万4千人以上の被害者を出した乳製品の集団食中毒事件は、メーカー自体の解体に発展しました。最近では、飲食店での食中毒事件や、美白化粧品のリコール問題が耳目を集めています。

事業者は、消費者の安全確保の重要性を、今一度再認識する必要があります。

誤った使用方法による製品事故への対策

誤使用に起因する製品事故

製品事故の中には、消費者の誤使用が関連して発生するものも多く見られます。誤使用による事故はとかく消費者の責任と捉えられがちです。しかし、誤使用に起因する事故の中にも、事業者が製品の改善によって十分に防止することができたはずのものがあり、この種の事故は事業者の責任となる場合があります。

予見可能な誤使用と非常識な使用

電球が切れた時に、椅子の上に乗って立ち上がり、電球交換をしたことがありませんか?「上に乗って立ち上がる」というのは、椅子の使用方法として正常な使用といえるでしょうか?

たしかに、椅子は座って使うものであり、上に乗って立ち上がるのは正常な使用とは言えないかもしれません。しかし、消費者がついそのような使い方をするということは、予想できることです。ですから、椅子を製造するにあたっては、座ったときに壊れて怪我をすることがないというだけでは足りず、上に乗って立ち上がっても壊れて怪我をしないような構造にしておくことが必要です。

他方で、消費者が明らかに不適切な使用をした場合、例えば、たくさんの椅子をバリケード状に積み上げる、という使い方をして、その結果、椅子が壊れて怪我した場合、通常は法的な責任が事業者に及ぶことはないと考えられます。

しかし、あらゆる製品について「予見可能な誤使用」と「非常識な使用」とを明確に分けることは困難です。事業者としては、容易に予想される誤った使用方法については、取扱説明書等により、その危険性を説明しておくことが必要でしょう。

危険がわかりにくい製品こそ要注意

包丁が危険であることは誰の目にも明らかであり、誰でも常識的に注意して取り扱っています。このため、包丁で手を切る事故は予見可能ですが、それに対する対策は通常必要とされません。

反対に、外見からは危険性が見えにくい製品については、どこに注意して使用すればいいのかわかりにくいため、誤使用の起こる可能性が高くなります。

技術進歩により複雑で高度な製品が、家庭にどんどん導入されていますが、消費者からは製品の原理や仕組みが見えないため、危険性を認識することが難しくなります。

このような製品については、事業者は消費者の使用方法をより一層詳細に予見し、必要な対策を施して安全な製品とすることが求められます。

なお、法令や各種規格の適合のみでは免責事由となりません。これらの基準はあくまで最低限の基準を示すだけであり、これらの基準を満足したとしても、事業者が注意義務違反や製造物責任を問われる可能性は十分にありますのでご注意ください。

警告表示のあり方

取扱説明書等の警告表示にあたっては、正常な使用方法を示すだけでは足りず、「誤使用」や「非常識な使用」の場合の危険性を、使用する消費者の立場に立って、具体的かつ明確に情報提供する必要があります。具体的な危険性が伝わらないと、消費者は、危険性のある使用方法とは捉えず誤解が生じたり、危険を軽視したりする可能性があります。このような誤解・軽視の結果として製品事故が発生した場合には、事業者の責任が肯定されるおそれが高くなります。

なお、警告表示は、製品本体の設計上の欠陥を補うものではありません。本来、製品本体で対応すべき安全確保策を、取扱説明書の注意事項で済ませることはできないのです。安全設計・安全装置による対応を行わずに、製品の抱える問題点を注意表示で補えると考えてはいけません。

高齢者に配慮した製品設計・警告表示を

高齢化社会が急激に進行し、高齢者対応の製品が企画、販売されています。

高齢者の使用が予定されている製品については、その能力の程度に応じた製品安全性の確保とともに、警告表示にあたっても、高齢者が理解できるような内容・態様での情報提供が望ましいといえるでしょう。

同様に、子どもや障害者が使う製品についても、使用者に応じた配慮が必要となります。

原材料メーカーも注意が必要

ある製品の事故が、製品の原材料に起因する場合、原材料メーカーも製造物責任を問われることがあります。原材料メーカーとしては、納入する原材料に関して、完成品メーカーに十分な情報提供をすることが必要です。

特に、汎用的な原材料は、利用方法によって危険が生じたり生じなかったりすることがありますので、正しい利用方法と、不適切な利用をした場合の危険を完成品メーカーに告知する必要があります。

そのような告知が十分でないと、原材料メーカーが消費者から責任を問われるおそれが高くなります。

重大事故1件の背景には300のヒヤリ・ハット

「まさかそんなふうに使うとは」「まさかそんな偶然が重なるとは」「まさかそんな事故が起こるとは」・・・製品事故は、多くの場合、そんな想定外の状況下で起こります。前述した集団食中毒事件も、回転ドア死亡事故も、たくさんの偶然が重なり、盲点となっていた欠陥が重大な事故を引き起こしてしまいました。

すべての危険を完全に排除することは不可能ですが、事業者としては、製品の使用状況を様々に検討し、適切な安全対策を施すとともに、保険加入などによるリスク対応も考えておく必要があります。

「重大事故1件の背景には、中程度の事故が29件発生しており、軽微なヒヤリ・ハットが300件存在している」という「ハインリッヒの法則」は、もともと労働安全の分野における理論ですが、製品事故にも当てはまります。

軽微な事故情報やクレームでもおろそかにすることなく、重大な製品事故を回避する努力が必要です。

H25.9掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。