中小企業の法律相談

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インドネシアへ企業進出する際に知っておくべき労務問題

はじめに

数年前から日本企業の海外進出が注目されていますが、近年の特徴は進出先の分散化です。具体的には、それまで中国一辺倒だった日本企業の進出先が、徐々にASEAN諸国へと比重を移しつつあります。

特に成長著しいのがインドネシア。ある統計によれば、昨年度の日本企業の新規進出先は中国に次いで2位だったようです。

こうした流れの中で、インドネシアに進出する日本企業が現地スタッフを雇い入れるケースも増えてきていますが、その場合、必ず発生するのが労務問題です。

そこで、今回は,まず、インドネシアにおける労働法制の特徴について触れたうえで、インドネシアにおける雇用形態をご紹介したいと思います。

インドネシアへ企業進出する際に知っておくべき労務問題

インドネシアにおける労働法制の特徴

  1. 労働者保護の色彩が強い
    まず押さえておかないといけない特徴は、『日本の労働法規と比べ、インドネシアの労働法規は、極めて労働者に有利に作られている』という点です。
    例えば、インドネシアの労働法規上、解雇の際には裁判所の決定が必要ですし、懲戒解雇であっても退職金を支払わなければならない場合があります。
  2. 賃金の引き下げは困難
    一方、日本では、賃金を引き下げる場合、労働者の合意があれば、最低賃金に関する法律等に反しない限度で変更可能ですが、インドネシアでは、法律上規定されてはいないものの、一旦定めた賃金は下げてはいけないという不文律があるといわれています。
    その背景には、インフレが高率で推移するインドネシア経済において、賃金の引下げは労働者に対するダメージが大き過ぎるという国民の共通認識があるようです。
    したがって、賃金の引き下げを行う場合には、労働者や労働組合からの激しい抵抗を覚悟しなければいけません。
  3. 宗教に対する配慮が不可欠
    そして、これは最も特徴的と言えるかもしれませんが、世界最大のイスラム人口を有するインドネシアでは、法律上、労働者の宗教に対する配慮が謳われています。
    例えば、使用者は労働者に対して宗教上義務づけられた祈祷を行う十分な機会を与えなければならないとされ、使用者は労働者が宗教上義務づけられた祈祷を行うため出勤できない場合でも賃金を支払わなければならないとされていますし、宗教上義務づけられた祈祷を行うことを理由とする解雇や、宗教の相違を理由とする解雇は禁止されています。
    インドネシアに進出するに際しては、まずは以上のような3つの特徴を押さえておくことが不可欠です。

インドネシアにおける雇用形態

では、実際に、インドネシアで現地スタッフを雇う場合、どのような雇用形態が考えられるでしょうか。
この点、インドネシアにおいては、使用者が労働者を直接雇用する形態として、
[1]期間の定めのない雇用契約、[2]期間を定めた雇用契約、[3]日雇雇用契約が認められていますが、その一方でアルバイトやパートタイムは、法律上認められていない点に注意が必要です。
では、上記[1]~[3]の雇用契約には、どのような特徴があるのでしょうか。

  1. 期間の定めのない雇用契約
    期間の定めのない雇用契約は、口頭、書面いずれでも成立します。
    また、期間の定めのない雇用契約においては、最長3か月間の試用期間を設けることができます。
    そして、期間の定めのない雇用契約を終了する際、使用者には、退職金の支給義務等の負担が発生します。
    この雇用契約の終了の際に使用者が負う義務の存否が、期間の定めのない雇用契約及び日雇雇用契約と、期間を定めた雇用契約の大きな相違点であり、使用者にとって期間を定めた雇用契約を結ぶメリットでもあります。
  2. 期間を定めた雇用契約
    期間を定めた雇用契約は、必ず書面でなされなければならず、書面がない場合は期間の定めのない雇用契約とみなされてしまいます。
    また、期間を定めた雇用契約においては、試用期間を設けることが出来ず、試用期間を設けたとしても、その試用期間に関する定めは無効となります。
    さらに、期間を定めた雇用契約は、締結後7営業日以内に、労働移住省において登録される必要があります。
    そして、期間を定めた雇用契約の最大の特徴は、期間満了による雇用契約の終了の場合に退職金を支給する必要がないという点です(ただし、雇用契約満了前に使用者の都合で解雇する場合、使用者は残存契約期間の賃金相当額を損害賠償金として労働者に支払う必要があります。)。
  3. 日雇雇用契約
    一方、日雇雇用契約を結ぶ場合には、必ず書面(契約書)を交わさなければならず、その際、
    1. 使用者の名前、住所
    2. 労働者の名前、住所
    3. 仕事の内容
    4. 賃金、報酬の割合
    を記載した上で、雇用契約開始より7営業日以内に、当局に届け出る必要があります。
    また、日雇雇用契約においては、労働者を1か月に21日未満しか勤務させることができないという制限があり、1か月に21日以上3か月連続で勤務させた場合、期間の定めのない雇用契約とみなされてしまいます。

最後に

以上のように、インドネシアの労務法制は日本とは大きく異なります。

そのため、日本企業にとっては、そうしたインドネシアの労務法制に通じた弁護士等の専門家と連携しつつ十分な労務管理体制を築くことが、インドネシア進出を成功に導く鍵と言えるでしょう。

H25.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。