中小企業の法律相談

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テレワークにおける労務管理の留意点2

『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』のパンフレットが公表されました!

新型コロナ禍で広く普及したテレワーク。導入企業としては忘れてはならないのは、テレワークにも労働基準法等の法令が適用されるという点です(『テレワークにおける労務管理の留意点』参照)。

厚生労働省は以前からテレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインを公表していましたが、今般、その内容を分かりやすくまとめたパンフレットが公表されました(https://www.mhlw.go.jp/content/000828987.pdf)。

そこで、今回は、当該ガイドライン及びパンフレット(以下、それらを総称して「ガイドライン等」と言います)をもとにテレワーク導入の際の留意点についてお話ししたいと思います。

『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』のパンフレットが公表されました!

就業規則整備のポイント

ガイドライン等によれば、自宅テレワークを導入するためには、テレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましいとされています。具体的には、テレワークを行う場所に関する使用者の許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」においてテレワークが可能である旨を定めておくことが考えられます。

在宅勤務に関していえば、例えば、就業規則において、「在宅勤務とは、労働者の自宅、その他自宅に準じる場所(会社が許可する場所に限る。)において情報通信機器を利用した業務をいう。」と定めるとともに、「在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に就業場所等の必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。」といった許可に関する規定を設けることが考えられます(テレワークモデル就業規則(厚生労働省)を一部修正)。

労働条件明示のポイント

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、就業場所に関する事項等を明示しなければなりません(労働基準法第15条等)。そのため、ガイドライン等では、就労開始日からテレワークを行うことが予定されている労働者に対しては、労働契約締結時に、就業場所として「使用者が許可する場所」も含め自宅やサテライトオフィスなど、 テレワークを行う場所を明示する必要があるとされています。

労働条件変更の際のポイント

ガイドライン等によれば、①労働契約や就業規則において定められている勤務場所や業務遂行方法の範囲を超えて使用者が労働者にテレワークを行わせる場合には、労働者本人の合意を得た上での労働契約の変更が必要であることに留意する必要があるとされ、②労働者本人の合意を得ずに労働条件の変更を行う場合には、労働者の受ける不利益の程度等に照らして合理的なものと認められる就業規則の変更及び周知によることが必要である(労働契約法第8条~第 11 条)とされています。

特に②の点は気になるところです。特に就業規則や雇用契約書で就業場所を特定の事業場に限定している場合には、労働者の同意を得るのが穏当でしょう(個人的には、一般的な配転命令等と異なり、テレワークに関しては同意が得やすいのではないかと思います。)。

労働時間制度導入のポイント

テレワークの導入に際して労働時間制度を変更する必要はありませんが、労働時間制度の変更を検討されている企業もあると思いますので、各々の制度を導入する際のポイントについてご説明します。

  1. 通常の労働時間制度及び変形労働時間制
    通常の労働時間制度及び変形労働時間制においては、始業及び終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要がありますが、ガイドライン等によれば、テレワークで必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、その日の所定労働時間はそのままとしつつ、始業及び終業の時刻について労働者ごとに自由度を認めることも考えられるとされています。その場合、例えば、就業規則等に「テレワーク勤務者は、会社の承認を受けて、始業時刻、終業時刻及び休憩時間を変更することが出来る。」旨あらかじめ定めておくことによって、労働者が始業及び終業の時刻を変更することができるようにすることが考えられます(テレワークモデル就業規則(厚生労働省)参照)。
  2. フレックスタイム制
    フレックスタイム制は、1カ月以内の一定の期間(清算期間)内の総労働時間を1週間当たりの平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以下となるように定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業時刻を決定し効率的に働く制度であり、一般的にはテレワークになじみやすい制度と考えられています。 ただし、フレックスタイム制であっても、使用者は労働時間管理を行い、清算期間内の総労働時間を超えた場合は時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がありますし、深夜労働や休日労働については割増賃金を支払わなければなりませんので注意が必要です。 フレックスタイム制を導入する際には、就業規則等において始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨定めるとともに、対象となる労働者の範囲、清算期間、同機関における総労働時間、標準となる1日の労働時間等を定める必要があります(労働基準法第32条の3)。
  3. 事業場外みなし労働時間制
    事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合に所定労働時間を労働したものとみなす、あるいは、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働が必要な場合は、その業務に通常必要とされる時間労働したものとみなす制度です。 テレワークにおいても馴染みやすいのですが、以前お話ししたように、在宅勤務で活用する場合には、①業務が自宅で行われること、②パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていないこと(=労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断できること)、③作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと(=使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまること)といった3要件を満たす必要があり、3要件を満たしていない場合、未払賃金の支払いを求められることもありますので、注意が必要です。

最後に

テレワークはもともと働き方改革の一環として推し進められてきた制度です。適切な導入により会社と労働者双方にとって望ましい形に活用されることを願っています。

R03.12・1掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。