中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

株券発行会社から株券不発行会社への変更
~中小企業のM&A実行のために利用されることも~

1 以前は株券発行会社が原則だった

株式会社が、株主に対して株券を発行するかどうかは、従来よりその会社の定款で自由に決めることができたのですが、どちらが原則となるのかという点については、平成18年5月1日から施行された会社法により変わりました。

会社法が施行される前(当時は商法に規定されていました)は、定款で株券を発行しないことを定めていない限り株券を発行しなければならず、株券発行が原則でした。これに対し、会社法では、定款で株券を発行することを定めることができるとして(会社法214条)、原則が株券不発行に変更となったのです。

株券発行会社から株券不発行会社への変更

したがって、平成18年5月1日以降に設立した会社は株券不発行としている会社が多いのですが、平成18年5月1日より前に設立していた株式会社は、かなりの会社が「原則」とおり、株券発行会社となっていました。そして、そのような会社法施行の時点ですでに設立されていた株式会社は、定款で株券発行を廃止することを定めていない限り、会社法施行後も株券発行会社とみなされることとなりました。そのような経緯から、平成18年5月1日より前に設立された株式会社は、今も株券発行会社のままとなっていることが多くあるのです。

自社が株券発行会社か不発行会社のどちらであるかは、商業登記情報を見ればわかりますので、一度確認しておくといいでしょう。

2 株券発行会社であるが株券が発行されていないことも多くある

株券発行会社は株券を発行しなければならないのですが、株券発行には結構なコストがかかりますので、株券を発行しないままにしているケースも多くあります。また、株主も会社に対し株券の発行を求めることはできるのですが、閉鎖的な中小規模の会社では、特に必要性を感じることなく、あえてそれをしていないということが多くあります。

3 株券不発行会社への変更の契機

実際に株券を発行している株券発行会社が、株券発行をやめようと考える契機は、増資の際の株券発行費用を節約したいとか、上場により振替株式に変更する必要がある場合などが考えられます。

一方、株券発行会社でありながら実際には株券を発行していないケースでは、株券不発行への変更の契機は特にないように思われるかもしれませんが、実は株式譲渡を内容とするM&Aの際には、株券発行を廃止しておきたいということがよく起こります。株券発行会社においては、株式譲渡には株券の交付が必要となるために、それまでに発行していなかった会社であっても、株券を発行してもらわなければいけなくなるのですが、わざわざ費用をかけて株券を発行するのではなく、株券不発行会社に変更してしまおうということがよく起こるのです。

4 株券発行会社から株券不発行会社に変更する手続き

(1) 実際に株券を発行している場合

まず第1に、株券を発行する旨の定款の定めを変更する株主総会が必要になります。定款変更となるので、株主の議決権の過半数を有する株主の出席(定款で別途の定めがある場合はそれによる)、出席株主の3分の2以上多数による特別決議が必要となります(会社法466条、309条2項11号)。

第2に、①当該定款の定めを廃止すること、②その定款変更が効力を生ずる日、③効力発生日に株券が無効になることを、効力発生日の2週間前に公告し、かつ、株主、登録株式質権者に各別に通知することが必要となります(会社法218条1項)。これは、効力発生日に株券が無効となってしまうので、その前に株主名簿の名義書換が済んでいない株主に名義書換をすることを促すなどのために必要とされている手続となります。ここで注意をすべきは、公告もしなくてはいけませんし、各別の通知もしなくてはならず、「公告かつ通知」を要するということです。

第3に、株券廃止の定款変更をした旨の商業登記手続が必要となります(会社法915条1項)。商業登記の「株券を発行する旨の定め」の事項についての記載に下線が引かれ、抹消されることとなります。

なお、会社の行為によって株券を無効とする場合は、その株券を会社に提出させるのが一般的なのですが、株券不発行への定款変更の場合は、株主は株券の提出する必要はないことになっています。

(2) 実際に株券を発行していない場合

定款変更の株主総会特別決議、商業登記手続を要するのは、前述と同様ですが、公告と通知については、効力発生の2週間前までという点を除き、前述したところと少し変わってきます。

まず、株券をそもそも発行していないので、株券の交付を受けているが株主名簿の名義書換が未了の株主というのがいないこととなるので、わざわざ公告を義務化する必要はないので、株主、登録質権者への各別の通知で足りることになっています(会社法218条3項)。そのうえで、各別の通知に代えて公告でもいいということになっています(同4項)。つまり、「公告かつ通知」ではなく、「公告または通知」でいいことになっているものです。株主が少ない場合は各別の通知でもいいでしょうが、株主数が多くなる場合は、公告(特に定款で公告方法として電子公告を採用していると、費用面でも負担が少ない)の方がいいということもあるでしょう。

また、公告または通知の内容は、株券を発行していないので、前述の①、②だけでよく、③の株券が無効になることは入れなくてもいいということになります。

(3) 株主総会決議と公告、通知の順序

株主総会で株券発行を廃止すること決めてから、公告、通知の手続を取らなくてはならないと思いがちですが、前記のいずれの手続においても、株主総会決議の前に公告や通知を行うことも可能であるとされています。

したがって、公告・通知の2週間後に株主総会で決議し、決議と同時に定款変更の効力を生じさせるということもできるといわれています。M&Aのクロージング前でスケジュールがタイトになる場合は、そのような手法もありうるでしょう。

R7.3掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。