中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

ESGとは何ですか?

はじめに

近時、「『ESG』に着目して投資を行う潮流が生まれている」、あるいは、「融資を行う際に当該企業の『ESG』に対する取組を考慮に入れるべきだ」といった記事が、新聞雑誌やネットで時折みかけるようになりました。「ESGを重視する企業ランキング」が発表されたりもしています。今回は「ESG」についてお話しましょう。

ESGとは何ですか?

ESGとは

Q. そもそも「ESG」とは何ですか。

A.「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとったものです。したがって、例えば、「ESG投資」というのは、環境・社会・企業統治という観点から企業を分析・評価して投資を行うことをいいます。

Q. そのような考えは、昔はなかったように思います。いつ、どのような事情で生まれたのですか。

A. 2006年に、国連が、投資家の取るべき行動として、「PRI(責任投資原則)」というものを発表し、ESGに配慮した投資を提唱したことなどが契機となりました。

Q. 「PRI」とは何ですか。

A. 「PRI」とは、Principle for Responsible Investmentのことで、機関投資家は、受益者のために長期的視野に立ち最大限の利益を最大限追及する義務があるとして、この受託者の義務を果たすうえで、環境・社会・企業統治の各問題に取り組むことが必要だという考えのもと提唱されたものです。PRIとは投資家が責任ある投資を行うにあたっての行動準則といっていいでしょう。具体的には、投資を行う上での分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込むこと(第一原則)、株主としての議決権行使などの方針にESGの課題を組み入れること(第二原則)、投資対象の企業に対してESGの課題について適切な開示を求めること(第三原則)、などです。

Q. ESGは、個々の企業に対する要請としてではなく、個々の企業に対し投資をしている機関投資家に対する要請として生まれた、というのは興味深いですね。

A. そうですね。その後2008年のリーマンショックを経験し、短期的な高利益を追求する投資家の動きが金融危機を増幅させたことに対する反省も「ESG」の考えの広がりの原因になっていると言われています。何より、企業評価はもっぱら決算書の数字によって行われる、というのが常識であったと思うのですが、数字以外の要素で評価を行う、という点が画期的だと思います。

ESGと企業のリスク管理

Q. ESGの問題は、企業のリスク管理の局面として捉えられているように思われますが、いかがですか。

A. そのとおりです。ESGの要素は、企業にとって収益機会及びリスクの双方を生み出すものです。最近の新聞記事で、日本のある大手日用品メーカーの社長が、環境にやさしい容器やシャンプー・洗剤の開発に力を入れたいという抱負を語っておられました。これは新商品の開発により収益機会を増やす方向での企業戦略であると一見思われますが、同時に、環境に配慮しない企業という負の評価つまりリスクを避け、環境を重視する企業であるという積極イメージを醸成し社会の信頼を獲得する、という戦略でもあるわけです。近年、ESGの問題は、人権侵害・環境破壊など、社会全体として関心をもつべき事象について、個々の企業がどのように対応しているか、という形で、クローズアップされているのです。

Q. その背景には、また何か事情があるのですか。

A. 2015年に国連で「SDGs」が採択されたという事情があります。

Q. またアルファベットが出てきました。「SDGs」とは何ですか。

A.「SDGs」とは、Sustainable Development Goalsの略で、持続可能な開発目標と訳されています。貧困・飢餓・健康福祉・教育・エネルギー・ジェンダー・平等・気候変動、等の17のグローバル目標と169の達成基準からなっています。

Q. ESGとSDGsとの関係は?

A. SDGsは、全ての人、政府、組織が対象となるもので、企業もSDGsに沿って行動することが求められます。SDGsに掲げる目標と達成基準の実行は、当然、ESGと重なり、企業が対応を怠れば、企業にとって大きなリスクとなるわけです。

Q. リスクが顕在化した具体例がありますか。

A. 例えば、居酒屋チェーン運営会社の女性従業員過労自殺問題があります。本問題に関する創業者の一連の言動や会社の対応がメディアにおいて厳しく批判され、同社は「ブラック企業」というレッテルを貼られ売り上げが激減し、株価も長期間下落傾向が続きました。また、大手広告代理店の女性従業員過労自殺事件があります。ここでも、従業員の長時間労働を容認する会社の姿勢が社会からの強い批判を浴びました。

ESGについての関係機関の取組み状況

Q. ESGについての日本国政府やその他の機関の動きはいかなるものでしょうか。

A. 金融庁は、2014年、ESG投資についての条項を含む「スチュワード・シップコード」を発表し、多くの機関投資家がその受入れを表明しています。金融庁及び東京証券取引所は、2015年「コーポレートガバナンスコード」を採択し、社会・環境問題をはじめとするサステナビィリティ(持続可能性)を巡る課題への適切な対応を要求しています。経済産業省は、2017年、企業と投資家間のESG・非財務情報に関する開示・対話等を促進するため、「価値協創ガイダンス」を発表しました。環境省は、2017年、「ESG投資に関する基礎的な考え方」を発表しました。消費者庁は、2017年、「『倫理的消費』調査研究会取りまとめ~あなたの消費が世界の未来を変える~」を公表しました。日本政府も、2016年、SDGs実施指針においてESG投資など持続可能性に配慮した課題への対応の重要性を指摘し、「未来投資戦略2017」、「同2018」においてもESG要素を念頭においた情報提供や対話等を掲げています。経団連も、2017年、企業行動憲章を改訂し、ESGに配慮した経営の推進を明記しました。

終わりに

中小企業については、ESGに対応するリソースを十分もっていない点があるのは否めません。ただ、経営者としては、このような問題がある、ということを知った上で、広い視野で事業活動をしていくことが求められる、というべきでしょう。

R01.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。