中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
フリーランス新法のお話
フリーランスに関する新法(※1)が令和6年11月1日から施行されています。企業経営者の皆様もフリーランスの方々と取引をする(※2)ことがあると思います。令和6年9月掲載「フリーランスとの取引の留意事項(フリーランス保護法が施行されます)」に続いてさらに詳しくお話ししましょう。
Q. 社長からフリーランス新法を勉強しておくようにと言われましたが、何を知っておく必要があるでしょうか。
A. まずは、罰則・ペナルティからお話ししましょう。法律違反があるとき、フリーランスの方は、公正取引委員会(本局・地方事務所等)、中小企業庁(経済産業局)、厚生労働省(都道府県労働局)(以下、「公取等」)に、オンラインでその旨を申し出ることができます。申し出を受けた公取等は、必要な調査を行います。調査により申し出の事実がわかることになりますが、会社(※3)は、申し出をしたことを理由に不利益扱いをしてはなりません。申し出の内容が事実である場合、公取等は、必要に応じて会社に対し、指導・助言・勧告を行い、勧告に従わない場合には、命令や公表を行います。

Q. 調査が実施されたり、公表されたりするのですね。
A. はい。しかも、調査は、報告徴収のほか立入検査もできるとされ、命令違反には50万円以下の罰金、報告をしなかったり、虚偽の報告をしたときは20万円の罰金が科せられます。
Q. 調査や罰則があるとなると、よく勉強し備えなければならない理由がわかりました。
A. さらに、厚生労働省は「フリーランス・トラブル110番」を設置しています。そのほか、各地の弁護士会にも法律相談センターがあるので、法律相談がしやすい環境となっています。
Q. 国が、罰則まで作って会社とフリーランスの方との取引を規制したのはなぜですか?
A. 近時、働き方改革が進み、フリーランスという働き方が普及してきている現実があるからです。特にデジタル社会の進展に伴い、新しい働き方が促進されています。しかし他方、一人で仕事を受けるフリーランスは、発注者の会社に比し交渉力や情報収集力に格段の違いがあり、不利な取引条件を押し付けられてしまう弱い立場に置かれやすいという特性があります。そこで、法は、フリーランスに関し、
- その取引の適正化と、
- 就業環境の整備を図ることにし、最低限の規律
を設けることにしたのです。
Q. では、会社はどのようなことを守らないといけないのですか?
A. まずは、取引条件の明示です。具体的には、
- 自社およびフリーランスの商号(氏名)
- 業務委託日
- フリーランスが納品すべき内容
- 納品すべき日
- 納品場所
- 納品につき検査する場合は検査完了日
- 報酬額
- 支払日
- 現金以外の報酬はその内容
を、書面またはメール・ライン等(以下「メール等」)で明示しなくてはなりません。
Q. 未定のものがある場合はどうなりますか?
A. 決定後直ちにメール等で明示する必要があります。また、正当な理由がないのに明示しない場合は、法律違反となります。
Q. 報酬支払日を納品後ずっと先に設定した場合はどうなりますか?
A. 納品日から起算して60日を経過した日の前日が支払日となります。
Q. 支払日を定めなかったときはどうですか?
A. 実際に物品を受領した日が支払日となります。
Q. 検査が終了していないので支払えないと言えますか?
A. 検査未了に正当な理由があるかどうかによると思われます。例えば、フリーランス側に検査未了の原因がある場合には、会社は支払いを拒むことができようかと思います。
Q. 自分の会社は下請けで、フリーランスは孫請け(再委託先)にあたる場合、自社自身が、発注者(元委託者)から報酬を受け取る日が遅く、60日以内に設定できない場合はどうなりますか?
A. あなたの会社がその旨フリーランスに説明をするなど一定の要件をみたした場合 は、あなたの会社の報酬支払日から起算して30日以内でできるだけ短い期間をもってフリーランスへの報酬支払日とすることができます。
Q. その他注意すべきことがありますか。
A. フリーランスとの取引が、1か月以上に及ぶ業務の場合には、
- 理由のない受領拒否
- 理由のない報酬減額
- 理由のない返品
- 買いたたき
- 理由のない物品の購入・役務の利用の強制
は禁止事項とされています。
したがって、例えば、一方的に会社が発注を取り消し、取消を理由に受け取らないといった場合は、民法上、そのような一方的取消は認められないのは当然として、さらにフリーランス新法上「受領拒否」にあたりますので、前記調査や勧告の対象となります。
また、フリーランスを募集するときは虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはなりませんし、パワハラ・セクハラのない就業環境の整備義務や、6か月以上の業務委託の場合でフリーランスからの要請があった場合は、育児介護への配慮義務があるなどの規制もあります。
- 正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
- 本法では、「特定受託事業者」。また本法が適用されるフリーランスは、従業員を雇っていない場合に限られる。
- 本法では、「特定委託事業者」。法人でも(従業員のいない)個人でもよい。ただし、従業員を使用する個人・法人か、2人以上の役員のいる法人に限られる。本文では便宜上「会社」として記述。
- 「会社」が、フリーランスに対し、①再委託であること、②元委託者の商号(氏名・名称、事業者別番号等)を明示した場合。
- 「会社」が元委託者から前払金の支払いを受けている場合は、フリーランスにその資材の調達など必要な費用を前払金として支払うような適切な配慮をしなければならない。
R7.2掲載