中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

偽装請負

アウトソーシングが一般化している現在において、他社に対して業務を委託することが多いかと思います。業務委託をするに際しては、当該業務委託が「偽装請負」に該当しないように注意する必要があります。

偽装請負とそのリスク

(1)偽装請負とは、簡単にいうと、形式上発注者と外注先との間で業務委託契約が締結されていても、発注者が外注先従業員に対して指揮命令をしており、その実態が労働者派遣法にいう労働者派遣に該当する場合をいいます。

本来の業務委託と偽装請負と大きく異なるのは、指揮命令を誰が行うかです。次の図のとおり、本来の業務委託であれば外注先が外注先従業員に指揮命令を行いますが、偽装請負であれば発注者が外注先従業員に実質的な指揮命令を行います。

  • 本来の業務委託
    本来の業務委託
  • 偽装請負
    偽装請負

(2)偽装請負であると認定された場合、労働者を派遣した事業主は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。他方、派遣を受けた事業主は、派遣法の義務を履行していないとして、①刑事罰を受け、②行政指導や改善命令などの対象となり、③偽装請負を開始した時点で、派遣労働者に対して派遣元における労働条件で直接雇用契約の申込みをしたものとみなされる(以下「労働契約申込みなし」といいます。)可能性があります。

このように、偽装請負であると認定されるリスクはかなり大きいです。

偽装請負該当性を回避するための方策

【1】37号告示

偽装請負に該当しないようにするには、発注者が外注先従業員に対して指揮命令を行わないことが必要です。

この点、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年4月17日労告37号)(一般に「37号告示」と呼ばれています。)が参考になります。当該告示を端的に説明すると、形式的に業務委託契約が結ばれていても、例えば、①外注先が外注先従業員に対して指揮命令をして、外注業務を行うこと、②外注先が自らの業務として、発注者から独立して業務を行うことのいずれかを充たさない場合には、偽装請負に該当することになります。

【2】具体的要件

ア 上記3⑴の①の要件について、37条告示によれば以下のように細分化され、①-1ないし①-3の要件を充足する必要があります(趣旨明確化の観点から文言を変更している箇所があります。)。

①-1 外注先が、次のⅰ及びⅱのいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること
ⅰ 外注先従業員に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
ⅱ 外注先従業員の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと
①-2 外注先が、次のⅰ及びⅱのいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること
ⅰ 外注先従業員の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く)を自ら行うこと
ⅱ 外注先従業員の労働時間を延長する場合又は外注先従業員を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における単なる把握を除く)を自ら行うこと
①-3 外注先が、次のⅰ及びⅱのいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること
ⅰ 外注先従業員の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと
ⅱ 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと

上記3⑴の②の要件について、37条告示によれば以下のように細分化され、②-1ないし②-3の要件を充足する必要があります(趣旨明確化の観点から文言を変更している箇所があります。)。 

②-1 外注先が、業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること
②-2 外注先が、業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと
②-3 外注先が、次のイ又はロのいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
イ 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しく は器材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること
ロ 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること

イ 厚生労働省は、37条告示の他に、「労働者派遣事業と請負により 行われる事業との区分に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます。)第1集ないし第3集を出しており、発注者が外注先従業員に指揮命令していると推認されないための具体的な例を明らかにしています。発注者が外注先従業員に対して指揮命令を行わない方策を考える上では、37条告示やQ&Aを踏まえることは必須かと思います(なお、厚生労働省・都道府県労働局がこれらの資料をパンフレットの形でまとめたものとして「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」があります。

最後に

労働契約申込みみなし制度(前述の2⑵③)の要件として、客観的に偽装請負が行われたことに加えて、発注者の主観において、偽装請負を行い、労働者派遣法等の適用を免れるという目的があったことが必要とされています。しかしながら、近時、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者・・・は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である」(大阪高判令和3年11月4日労判1253号60頁)などとして、偽装請負等の目的を肯定する裁判例が複数出されています。当該裁判例等を踏まえると、偽装請負等を続けていた場合には偽装請負等の目的の存在も肯定される可能性があると考えられ、偽装請負等に該当しないことがやはり重要になります。

貴社の業務委託契約の遂行状況を一度再確認されてはいかかでしょうか。

R5.2掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。