中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

合弁契約で定めておくべきこと

合弁事業

合弁事業とは、複数の事業者がそれぞれの強みである技術、ノウハウ、情報、販売ルートなどを持ち合うとともに、お互いが出資をして新しい事業体を設立して共同事業を展開するというものです。

当事者となるのは法人に限るものではありませんし、設立される事業体も株式会社に限らず、会社法上の他の会社であったり、あるいは組合になることもありますし、さらに出資の方法も既存の事業体の出資分を譲渡するという形で合弁化するということもあるのですが、本稿ではイメージがしやすいように、「複数の会社が、お互いに新規出資をして、新しい株式会社を設立して共同事業を行う」という前提で述べていきます。

共同事業のためには、別々の会社が業務提携をするという形でも行われますが、合弁事業は共同事業をする独立した企業体を新たに作ってしまうというもので、より密接な関係を構築するものといっていいでしょう。特に、海外の拠点で事業を起こすときには、現地でのノウハウ等を有効に活用するために、また国によっては現地法のルールとして、現地企業と合弁で会社を設立するということが多く行われます。

合弁契約で定めておくべきこと画像

合弁契約

もともと別々に経営されていた会社が共同して出資して会社を設立しようというのですから、合弁事業をどのようなルールで行っていくのかという点についてあらかじめ定めておく必要があります。

このような事前の合意が、「合弁契約」とか「ジョイント・ベンチャー契約」とか「株主間契約」と呼ばれるものになります。以下では「合弁契約」と表現することとします。

合弁契約は定型の書式というものがあるものではなく、千差万別で、それぞれの契約が個性的であると言われていますが、通常決めておくべきことをいくつか紹介したいと思います。

出資比率

株式会社は資本多数決の原理で運営されることになります。つまり、株式の過半数を持てば取締役の選任を含めて会社経営の実権を握ることができますし、さらに3分の2を超えると株主総会の特別決議も可能となりますので、会社の重要事項は全て当該株主が実権を握るということになります。

合弁事業も当事者会社がお互いに出資することとなるので、この出資比率は極めて重要な事項となり、合弁契約では外すことができない事項となります。優劣を決めたくないということで出資割合を50:50とすることもあるかもしれませんが、その場合は両当事者の合意がなくては新会社の経営ができないということとなり、却って機動的な会社運営ができなくなることも考えておかなくてはなりません。

また、出資は設立時に限らず、増資ということも考えられます。その場合に出資比率を維持するために、合弁当事者の当初出資割合に応じて増資を引き受けるなどの合意をしておくということもあります。

取締役

上記のとおり、株式の過半数を持つ多数株主となる当事者は自己の議決権のみで株主総会の決議をすることができるので、取締役全員を選任できてしまい、多数株主となる当事者の意向のみで合弁事業が行われてしまうことになりかねません。

そこで、合弁契約においては、少数株主となる当事者の意向も反映されるような仕組みとすることが多く行われます。例えば多数株主が2名、少数株主が1名の取締役をそれぞれ指名することとして、株主総会においてはその指名した者を選任するように議決権を行使することを合弁契約で定めておくことがあります。

拒否権(重要事項の事前承認)とデッドロック

上記のように少数株主も取締役を送り込めるとしても、合弁会社を取締役会設置会社とすると、会社の重要な業務執行についての決定は、取締役会の多数決で行われますので、結局は多数株主の意向により重要事項が決められていくということになりかねません。

そこで、一定の重要事項については、少数株主の事前承認を要するということを合弁契約で定めることが多く行われます。少数株主となる当事者としては、その「一定の重要事項」をどのように設定するかが重要なポイントとなります。

また、少数株主の承諾を要するとした場合は、承諾が得られないために合弁会社として身動きが取れなくなるという事態も考えられ(これを「デッドロック」と呼びます)、その場合には会社に残りたい株主が他方の株主が持つ株式を買取る(コール・オプション)、会社から離脱したい株主が持つ株式を他方の株主に売り付ける(プット・オプション)ことによって、合弁関係を解消するといった仕組みも考えておく必要があります。

株式の譲渡制限

合弁会社においては、株式の譲渡は共同事業のパートナーの変更を意味することになります。したがって、合弁契約で株式の譲渡を制限することが一般的です。

中小企業においては会社法の規定に基づき株式の譲渡制限をすることが多くされておりますが、それは第三者への株式譲渡は会社の承認を得なければできないというものですし、また会社が承認しない場合は会社が買い取るか買受人を指定するかしなくてはならないというルールです。

しかし、合弁事業においては、株式の譲渡は、合弁会社からの離脱ですから、「他方の株主の承諾」という規制をすべきです。

また、承諾しない場合も、他方の株主の関与のもとに譲渡を希望する株主が投下資本を回収できるようにするといった設計が必要となります。その方法もいくつかあり、他の株主が優先的に株式を買い取ることができるという先買権を持つとしたり、第三者に株式を譲渡するなら他方の株主の株式も共同してその第三者に売却することを求めることができるという共同売付請求権を付与するといったことがあります。

資金調達

合弁事業を開始した後に、運転資金、設備投資資金が必要となることは当然考えられますが、この資金調達をどうするかということも決めておく必要があります。合弁会社自身が借り入れるということはまず優先されるとしても、合弁会社での調達が困難な場合、合弁当事者である株主がどのように負担するのかという点を考えておくことも重要です。

H29.07掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。