中小企業の法律相談

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ガイドラインによる保証債務整理

ガイドラインによる保証債務整理

現在において、コロナ融資等の返済が本格化し、倒産する企業が増えてきていることはご承知のことと思います。安定的に事業継続ができればよいですが、残念ながら事業継続がうまくいかず事業再生や廃業を検討されることもあるかもしれません。

この点、経営者保証(会社の金融機関に対する債務について代表取締役が連帯保証するもの)は、経営への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する一方、保証後における早期の事業再生や廃業を阻害する要因となっていることが指摘されております。

ガイドラインによる保証債務整理

そこで、中小企業の各ライフステージ(創業、成長・発展、早期の事業再生や事業清算への着手、円滑な事業承継、新たな事業の開始等)における中小企業の取組意欲の増進を図る等の目的から、経営者保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)が策定されました。ガイドラインを用いることで、会社が破産しても保証人が破産せずに保証債務を整理できる可能性があります。本稿ではガイドラインによる保証債務の整理の方法を見ていきたいと思います。

なお、ガイドラインとは、日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする研究会が、中小企業(小規模事業者等を含む)の経営者が金融機関等と締結している個人保証(経営者保証)について、保証契約を検討する際や、金融機関等の債権者が保証履行を求める際における、中小企業・経営者・金融機関の自主的なルールを定めたものです。ガイドラインは、法的拘束力はないものの、中小企業・経営者・金融機関が自発的に尊重し、遵守することが期待されています。

ガイドラインによる保証債務整理の4つの特長

ガイドラインによる保証債務整理は、前述の目的から、破産手続とは異なる4つの特長があります。

  1. 残存資産
    保証人が破産をした場合には原則的には自由財産(99万円までの現金など)しか手元に残りませんが、ガイドラインによる保証債務整理においては、一定の経済合理性が認められる場合、自由財産に加えて、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等を残存資産として保証人の手元に残すことを金融機関が検討することとされています。
  2. 残存資産以外の分割弁済
    弁済計画において、経営者が所有する資産(残存資産を除く。)を処分・換価する代わりに、対象資産の「公正な価額」に相当する額を分割弁済することにより、自宅に住み続けられるようにするなど、資産を処分しないことを金融機関が検討することとされています。
  3. 保証債務の免除
    経営者が誠実に資力を開示し、その内容の正確性について表明保証を行うなどの要件を充足する場合には、残存する保証債務の免除要請について金融機関が誠実に対応するものとされています。
  4. 信用情報機関への事故情報の非登録
    ガイドラインによる保証債務整理を行った保証人について、金融機関は、当該保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報(代位弁済に関する情報を含む。)を、信用情報登録機関に報告、登録しないことにするものとされています。

ガイドラインによる保証債務整理の要件

ガイドラインによる保証債務整理をするには一定の要件があり、当該要件を以下概説いたします。

一般的要件
  1. 保証契約の主たる債務者が中小企業であること
  2. 保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること。ただし、ガイドラインに定める特別の事情がある場合又はこれに準ずる場合については、ガイドラインの適用対象に含める。
  3. 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること
  4. 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
法人の整理

法人の法的整理手続(破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続をいいます。)又は準則型私的整理手続(中小企業活性化協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理に関するガイドライン、中小企業の事業再生等に関するガイドライン、特定調停などを指します。)の申立てを同時に行うか、係属中若しくは終結していることが必要です。

なお、ガイドラインによれば、主たる債務の整理手続が終結している場合、自由財産の範囲を超えて保証人に資産を残すことについて、金融機関にとっての経済合理性が認められないことから、残存資産の範囲は自由財産の範囲内とされております。そのため、自由財産の範囲を超えた資産について保証人の残存資産に含めることを金融機関が検討するためには、遅くとも主たる債務の整理手続中に保証債務の整理の申立てを行うことが必要となります。

経済合理性

主たる債務者である法人の資産及び債務並びに保証人の資産及び保証債務の状況を総合的に考慮して、主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、経済的合理性が期待されることが必要です。

免責不許可事由の不存在

経営者に破産法に定める免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないことが必要になります。

結語

以上のとおり、ガイドラインによる保証債務整理は、破産手続と比べてより多くの資産を保証人に残す余地がある点、信用情報機関への報告、登録がされない点においてメリットがあるものと思います。

事業再生や廃業を検討される際には、ガイドラインによる保証債務の整理を行うためにも、早期に専門家(弁護士など)や金融機関に相談することをおすすめいたします。

R5.9掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。