中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

国・自治体から情報を収集するお話 ~情報開示請求権~

国や、県・市町村などの自治体(国等)は様々な情報を持っています。事業経営を行う過程でこうした情報を入手したい場合もあろうかと思います。今回は国等から情報を入手する制度についてお話ししましょう。

国・自治体から情報を収集するお話 ~情報開示請求権~
Q.国等が持つ情報を知りたいときに情報開示を求める制度があると聞きました。

A.いわゆる情報公開法(※1)ないし情報公開条例(※2)を根拠に行う開示請求制度ですね(※3)。手元にある令和2年度の福岡市の資料では、合計2154件の請求がありました(※4)。

Q.どうしてこのような制度があるのでしょうか?

A.キーワードは、国民主権、自己統治(自治体については住民自治)、知る権利、国等の説明責任、です。つまり、「国民主権」のもと、国等が持つ情報は国民共有の財産である→国民は主権者として実効的に国政(地方自治)に関する決定権・選択権を行使する(自己統治・住民自治)ため、その前提として国等の持つ「情報」を確保される立場になければならない(「知る権利」)→国等は国民に対し「説明責任」がある→国民に情報開示請求権がある、ということです。

Q.私は佐賀市に居住しています。福岡市に情報開示を求めることが出来ますか。

A.はい、できます。福岡市の条例では「何人も、この条例の定めるところにより...公文書の公開を求めることができる」とされ(第5条)、請求できる者を居住住民に限定していないからです。住民自治の点からは、当該自治体に居住する者に限られるということも有りそうですが、実際は、福岡市のように居住者に限られないとする条例が殆どだと思われます。福岡市の場合、「経済活動の広域化、情報化の進展等に鑑み、市民のみならず本市の行政活動に関心を有するすべての者に対して広く公開請求を認める趣旨である」と説明されています。情報公開制度の立法化は国よりも自治体が積極的に推し進めてきたこと(※5)と関係しているかもしれません。海外在住の外国人が我が国の行政機関に情報開示請求できるかという問題も同様です。外国人は「我が国」の「主権者」ではありませんが、外国居住の外国人も請求できるとされています(※6)。

Q.開示を請求する者は、どのよう手続で行うのでしょうか。

A.一般に書面で開示を求める文書を特定して行いますが、請求の理由や目的を記載する必要はありません。開示請求するのに理由はいらないのです。

Q.理由不要というのはとても興味深いところです。ただ、文書の「特定」が必要とのことですが、請求する側は、国等がいかなる文書を持っているかよくわからない、文書名もわからないし、どこの部署が持っているかもわからないことが多いと思います。

A.ご指摘のとおりです。実務上、この「文書の特定」がとても大切になってきます。文書が特定されない場合、当該請求は不適法となってしまうからです。しかし、直ちに不適法とするのではなく、請求者にいかなる文書の開示を求めているのか、国等が働きかけて、その対象を明らかにしていく作業が求められます。なお、どこの部署が当該文書を持っているかは、国等が判断することになります。

Q.開示を求める対象は、「文書」に限られますか。電磁的記録はどうでしょうか。

A.文書に限られず、電磁的記録も含まれます。

Q.担当職員個人が作成したメモはどうなりますか。

A.開示の対象となる文書は「行政文書」です。行政文書とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして当該行政機関が保有しているもの、をいいます。そこで、「メモ」がどう扱われるか、ですが、個人的検討段階のメモは対象となりません。しかし、それが組織的に共用されているものであれば、開示の対象となります。もっとも、その境界は微妙なものとなります。

Q.当該文書はないけれども、国等が既にもつ情報を元に、新たに作成すれば開示請求者の要求にこたえられる場合はどうなりますか。

A.開示請求した時点で当該文書があるかないかで判断されますので、開示請求時点で文書が存在しない以上、文書不存在、という回答となります。国等は新たに文書を作成する義務を負いません。

Q.開示されれば、今度はプライバシーが侵害される人が出てくる場合もあるのでは?

A.全てが開示されるわけではなく、開示されない情報があります。不開示情報とされるもので、行政機関情報公開法は7種類の不開示情報を定めています。そのうち代表的なものは、①個人情報、②法人情報、③国の安全等に関する情報、④公共の安全等に関する情報、⑤行政運営情報、です。これらに該当しても、例外的に開示することが認められる情報もあり、やや複雑な仕組みとなっています。

  1. 省庁をはじめ様々な行政機関(外務省、防衛省、国家公安員会、警察庁等、国の安全保障や公共の安全とかかわる部署も含まれます)のほか、独立行政法人、国立大学法人も対象となります(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法)。
  2. 県や市町村の持つ情報の公開を求める場合は、当該自治体の制定した公開条例に基づいて請求することになります。平成29年10月1日現在情報公開条例を定める地方公共団体はほぼ100%です。
  3. 個人情報保護法や個人情報保護条例に基づく情報公開請求制度もあります。本文記載の制度と混同しやすいので注意が必要です。
  4. 資料では、公共工事の金入り設計書(代価表・単価表・材料費を含む)の公開を求める例が多いようです。設計書は原則として、福岡市では市役所で閲覧ができますが、紙ベースで入手するには、公開条例による手続きが必要です。その他、公開を求める内容として資料で目を引くものとしては、ドラッグストアの店舗名・店舗所在地の公開請求、銭湯・旅館・ホテル・民宿・ウィークリーマンション・理美容許可業者の名簿、特定の道路の幅員の各公開請求があり、いずれも公開請求は認められています。
  5. 第1号は、昭和57年4月1日施行の山形県金山町、第2号は、同58年4月1日施行の神奈川県及び福岡県春日市でした。
  6. 国際協調主義に沿った制度ですが、アメリカ連邦政府の情報公開法を活用している日本の研究者・マスメディアも多いことから、かかる措置は適切と考えられています。

R05.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。