中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
改正育児・介護休業法の概要 ~男性の育児休業取得促進~
令和3年6月に育児・介護休業法が改正され、令和4年4月から段階的に施行されています(令和4年4月、同年10月、令和5年4月)。
育児・介護休業法では、仕事と育児・介護を両立できるように、育児休業・介護休業、子の看護休暇・介護休暇、育児・介護のための所定外労働・時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間短縮などが定められていますが、その内容は時代の流れに応じて改正が繰り返されてきました(この「中小企業の法律相談」でも何度かご紹介してきました)。
今回の改正は、少子高齢化が進む中で、出産・育児等による離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするためには、社会全体で男性の育児休業取得を促進することが必要であるという観点から、男性が育児休業を取得しやすくなるような内容になっているということで注目されています。

主な改正内容は、次のとおりです。
■出生時育児休業(産後パパ育休)の新設(令和4年10月施行)
今回の改正で最も話題になっているのが出生時育児休業(産後パパ育休)ではないでしょうか。従来の育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで、分割して2回取得可能です。この期間、女性(母親)は産後休業期間中であることが多いので、主な対象は男性(父親)になります。通常の育休とは別に、子の出生後間もない時期から取得できますので、男性(父親)が最初から育児に関わることができ、産後間もない妻のサポートもできます。育児休業中は就業しないのが原則ですが、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することもできます。この出生時育児休業(産後パパ育休)も、育児休業給付(出生時育児休業給付金)の対象となります。
■育児休業の分割取得(令和4年10月施行)
今回の改正以前は、育児休業は分割取得ができませんでしたが、1歳までの育児休業は分割して2回取得できるようになりました。また、保育園に入れないなどの事情により1歳以降に育児休業を延長する場合、これまでは育児休業開始日は子が1歳、1歳6か月の時点に限定されていましたが、育休開始日が柔軟化されました。これにより、夫婦で育休を交代できる回数が増え、業務のタイミング等を考慮して柔軟に休みを取得することができるようになりました。
■本人又は配偶者の妊娠出産等の申し出をした労働者に対する個別の制度周知・休業取得意向確認(令和4年4月施行)
育児休業を取得したいと希望していたものの、制度がよくわからないし、自分からは言い出しづらく取得できなかったという男性もいるかもしれません。今回の改正では、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、育児休業制度等について個別に周知するとともに、育児休業を取得するかどうかの意向確認を行うことが義務付けられました。労働者から、「妊娠しました」「子どもが生まれました」と言われた場合、単に報告として受けるだけではなく、「うちの会社の休業制度はこうなっているけどどうする?」といったように労働者に意向を聞かなければなりません。「制度は一応あるけどこの忙しい時期にとらないよね」「誰も育休なんてとってないし」「男のくせに育休なんて」「育休取ったら昇進はないよ」などと申し出をしないように威圧したり、申し出をした場合の不利益をほのめかしたり、取得を控えさせるような形で行っても意向確認を実施したとはいえません。パワハラになる可能性もあります。この出生時育児休業(産後パパ育休)も含め、育児休業等の申し出・取得を理由に、解雇や退職強要、正社員からパートへの契約変更等の不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。
■育児休業を取得しやすい雇用環境の整備(令和4年4月施行)
なかなか労働者からはしにくいであろう育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)の申し出が円滑に行われるようにするため、①育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する研修の実施、②育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する相談体制の整備(相談窓口設置)、③労働者の育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)取得事例の収集・提供、④労働者への育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)制度と育児休業取得促進に関する方針の周知のいずれかの措置を講じなければなりません。①~④のいずれかの措置を講じればよいとされてはいますが、できるかぎり複数の措置を講じることが望ましいでしょう。
■有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件の緩和(令和4年4月施行)
有期雇用労働者については、育児休業・介護休業ともに「引き続き雇用された期間が1年以上」という取得要件がありましたが、この要件はなくなりました。もっとも、労使協定によって、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者を、育児休業・介護休業の対象から除外することは可能です。
■育児休業取得状況の公表の義務化(令和5年4月施行)
常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられました。
令和5年4月1日施行となっているため、対象となる事業主は、算定方法を確認したり、公表方法を検討したり準備が必要です。
そうは言っても、企業としては、また、仕事の現場としては、育児休業を取得されると仕事が回らないし、他の労働者の負担も増えるし、正直厳しいという感想を抱かれるかもしれません。中小企業であれば特にそうでしょう。ただ、現在においては育児休業取得促進や仕事と家庭の両立支援は企業に課せられた重大な課題といえますので、企業としても根本的に意識を変えて、これを前提に、業務計画、人事計画を検討していく必要があります。また、育児休業取得促進や仕事と家庭の両立支援に取り組むことは企業のイメージアップ、労働者の意識向上、優秀な人材確保等にもつながると考えられますので、長期的な視点で積極的に考えるべきでしょう。他方で、労働者も育休を取得する場合にはできるかぎり早めに相談して円滑な引継ぎ等ができるようにするべきです。そして、育児休業の意味・必要性を考え、なんちゃって育休、とるだけ育休にならないように、自覚をもって育児に取り組んでほしいところです。
R4.11掲載