中小企業の法律相談

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改正公益通報者保護法~指針の解説を踏まえた事業者のとるべき措置~

導入

公益通報者保護法が2020年6月に改正され(以下「改正法」)といいます。2022年6月1日施行に向けて準備がなされています。

改正法は、事業者の措置義務や違反に対する行政処分、刑事罰及び行政罰などが定められており、中小企業が無視できないものとなっています。

改正公益通報者保護法

「指針」及び「指針の解説」について

改正法では、労働者の数(パートタイマーを含みます。)が301名以上の事業者において、①公益通報対応業務に従事する者を定めること(改正法第11条第1項)、②公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること(改正法第11条第2項)が必要になります。

改正法では、①②の規定で事業者がとるべき措置の具体的内容が指針で定められることになるところ(改正法第11条第4項)、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)(以下「本件指針」といいます。)が公表されています。

この点、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(令和3年10月公表、消費者庁)(以下「本件指針の解説」といいます。)において本件指針が詳細に説明されておりますので、本件指針の解説に従って事業者自らがとるべき措置を検討していくことになります。

そこで、本稿では、本件指針の解説のうち一部を紹介します。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の意見であり、筆者の所属する団体・法律事務所の意見ではございません。また、紙幅の都合上、上述の②のみを解説いたします。

部分横断的な公益通報対応業務を行う体制

(1)人事部門に内部公益通報受付窓口を設置することが必ずしも推奨されていないこと

本件指針において「内部公益通報受付窓口を設置」することが求められています。もっとも、本件指針の解説によれば、「人事部門に内部公益通報受付窓口を設置することが妨げられるものではないが、人事部門に内部公益通報を躊躇する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する」とされています。

本件指針の解説では、「中小企業の場合には、何社かが共同して事業者の外部(例えば、法律事務所や民間の専門機関等)に内部公益通報窓口を委託すること」「事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の内部公益通報受付窓口を設けること」が取りうる措置として紹介されていますので、このような措置をとることも一考に値します。

なお、本件指針の解説では「いわゆる顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とすることについては、顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する」とされています。

(2)社外取締役や監査機関等と連携すること

本件指針において「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。」とされています。この点、本件指針の解説では、当該措置として「社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにする、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う」、「内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置する」ことが挙げられています。中小企業においてもこのような措置を求められることになると考えられます。

(3)内部公益通報を受け付け、必要な調査を実施することが基本方針になると思われること

本件指針において「内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する」(第4・1⑶)とあります。この点、本件指針の解説によれば、正当な理由の例として、解決済みの案件に関する情報が寄せられた場合や、公益通報者と連絡が取れず事実確認が困難である場合等が挙げられています。このように正当な理由と認められる場合が比較的限られるため、「内部公益通報を受け付け、必要な調査を実施する」ことを基本方針とすることでよいかと思います。

公益通報者保護体制

(1)防止されるべき不利益な取扱いが幅広いと思われること

本件指針では不利益な取扱いを防止すること等が定められています。この点、本件指針の解説においては、「不利益な取扱い」の一内容として「精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)」も含まれていますので、「不利益な取扱い」の範囲は幅広いと思われます。そこで、不利益な取扱いを防止するために、労働者等及び役員に対する教育・周知はもちろんのこと、事実上の嫌がらせ等があった場合に「内部公益通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付けること」、「不利益な取扱いを受けた際には内部公益通報受付窓口等の担当部署に連絡するようその旨と当該部署名を公益通報者にあらかじめ伝えておく」ことが必要になると考えられます(本件指針の解説参照)。

(2)懲戒処分その他適切な措置を行う際における慎重な確認の必要

本件指針において「範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。」(第4・2(2)ハ)とあります。もっとも、本件指針の解説に記載があるとおり、懲戒処分その他適切な措置を行う際には、範囲外共有が行われた事実の有無は慎重に確認する必要があります。

最後に

本稿で取り上げたものは本件指針の解説の一部にすぎません。そのため、改正法への対応を検討される際には本件指針の解説を必ず参照されることをお勧めします。

R03.11掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。