中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

継続的契約の解消とトラブル回避の契約条項

安定的な収益を目指す企業は、他の企業との取引も継続的・安定的であることを望むものです。このため、企業間で、長期にわたる継続的な取引を行うことがよくあります。継続的供給契約、継続的役務提供契約、代理店・特約店契約、委託販売契約、継続的業務委託契約などです。一定期間にわたり契約関係を続けることを前提とした契約を「継続的契約」といいます。

継続的契約の解消とトラブル回避の契約条項

継続的取引はなかなか解消できない?

継続的契約を締結し一定期間にわたり取引を続けたのちに、一方当事者が契約関係を解消しようとしても、「やむを得ない事由」が無い限り解消できないとする考え方があります。

継続的契約を結ぶ企業は、取引の安定的存続を期待しています。長期にわたり取引するうちに、だんだんとお互いへの信頼関係が構築されていきます。この継続的取引関係にすっかり依存してしまう企業もあります。取引を反復していると、今後も同様に取引が続くだろうと考え、追加で設備投資したりします。順調に取引が続いていたにもかかわらず、ある日突然「取引を打ち切る」と一方的に言われたら、死活問題となってしまうかもしれません。

そのため、これまで、継続的契約関係は「契約終了もやむを得ないと認められる事由」「取引関係継続を期待し難い重大事由」がなければ、一方的に解消できないと言われてきました。

しかし、いったん継続的取引を始めたら、相手が重大な債務不履行でもしない限りいつまでたっても取引終了できないというのも困りものです。取引開始から長期間経過するうちに、ビジネスを取り巻く環境はどんどん変化します。取引相手の信用も変動します。昔の取引関係をいつまでも強要されるのでは、新しいビジネスチャンスを逃すかもしれません。

目まぐるしく変化する現代のビジネス環境に対応しようとする会社と、長年の取引関係に依存する会社。継続的取引関係の解消の場面では、双方の利害が対立しがちです。

契約書作成はマストです!

長年の付き合いだから、信頼できる取引先だからといって、きちんと契約書を作成せず、簡単な見積書、発注書や請書のやりとりで済ませていませんか?大変まずい状況です。

継続的取引をめぐるトラブルが発生したとき、企業間での契約内容がまず問題となります。取引解消の場面では、契約期間や解除条項、中途解約条項がどう取り決められているのかによって、トラブル解決の落としどころが決まってくるのです。詳しい取り決めがなければ、落としどころが見えず、トラブルが深刻化しがちです。

歴史ある会社ですと、まだ契約書に対する意識の乏しかった時代に始まった取引がずっと続いており、契約書取り交わしのタイミングを逃してきたなんてことも。しかし、今までトラブルと無縁の取引先でも、今後どうなるかわかりません。契約書のないまま取引していないかしっかりチェックし、早急に是正しましょう。

変化対応重視・契約解消の余地を大きくしたい企業に有利な契約条項

継続的取引からの離脱の自由を確保しておきたいと考えるのなら、契約の有効期間を短めに定め、さらに期間満了後に自動更新しない条項とすることが考えられます。この場合、期間満了ごとに契約条件を見直し、協議のうえで改めて契約締結することになり、契約管理に手間がかかります。そのぶん、長期安定的な取引という前提が失われ、「やむを得ない事由」がなくとも取引関係を解消しやすくなります。もっとも、せっかく自動更新しない契約としても、その後の契約管理をきちんとせず、そのまま惰性で長期にわたり取引継続してしまうと、期間の定めのない契約と同様の状態と評価され、安定的関係を双方が期待して取引に入ったと認定されてしまう危険があるため、注意が必要です。

取引離脱しやすくしておきたいなら、中途解約条項も必要でしょう。予告期間さえおけばいつでも解約できるとしておくことで、長期安定的な関係は前提とされていないと主張しやすくなるからです。予告期間を極端に短くしてしまうと、権利濫用・信義則違反として解約が認められない可能性もありますので、相手が別の取引先を見つけることのできる程度の予告期間を設定するのが望ましいでしょう。

書面化された合意以外の合意は存在しないとする「完全合意条項」を入れることも考えられます。裁判となったとき、契約文言にない「やむを得ない事由」を取引解消要件とすることを裁判所が躊躇う効果が期待できます。

安定重視・できるだけ契約解消したくない企業に有利な契約条項

反対に、取引を安定的に継続したい、長期にわたり解消したくない企業の側は、有効期間を例えば5年とするなど最初から長く設定しておき、さらに自動更新条項を付すよう働きかけることになります。加えて、更新拒絶の要件を厳しくしておくことで自動的に更新されやすくなります。例えば、更新拒絶の予告期間を期間満了前6カ月とするなど長めに設定したり、予告は書面でしなければならないとするのです。契約期間中に債務不履行した当事者は更新拒絶できないという条項も考えられます。

当然、この立場からは、中途解約条項の削除を試みることになります。

長期の継続的取引を前提とした契約となっていれば「やむを得ない事由」が無い限り取引解消できないとする考え方に傾きやすく、また一方的な取引解消が権利濫用・信義則違反と判断されやすくなると期待できます。

取引開始後の留意点

取引開始後は、契約更新手続の要否や時期を確認し、うっかり有効期間が切れてしまったとか、期間の定めのない契約と同様の状態になっていたと評価されないよう、適切に契約管理しなくてはなりません。

また、取引継続中に相手の契約違反を発見したとき、放置せずに警告し是正要求するということが、どちらの立場からも重要です。

継続的取引からの離脱を求める側からすれば、是正要求にもかかわらず相手が契約違反を繰り返したということで、契約解消が認められやすくなります。安定的取引を重視する側としても、「こちらは一切契約違反していないのに、何度も契約違反した相手が、自社の違反を棚に上げ一方的に取引解消するのは権利濫用だ」と言いやすくなると期待できるのです。

相手の契約違反を証拠として残すには、文書で是正を求めたり、相手に顛末書を提出させたりすると良いでしょう。

R6.3掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。