中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

今更きけない?LGBTフレンドリーになるための労務対応

はじめに

昨今、同性婚に関する議論をきっかけに、LGBTに注目が集まっています。

LGBTに関する問題は、LGBT当事者と当事者ではない人という構図で語られがちですが、少し視点を変えてみると、それは誰もが持っている性的指向や性自認に関する問題であり、全ての人に当てはまる問題です。

そこで今回は、性的指向や性自認に対するハラスメントから従業員を守るために、会社が取り組むべき方策について考えてみたいと思います。

今更きけない?LGBTフレンドリーになるための労務対応

LGBTとは

LGBTは、L(レズビアン:女性の同性愛者)、G(ゲイ:男性の同性愛者)、B(バイセクシャル:両性愛者)、T(トランスジェンダー:身体の性別と自認する性別に違和感がある人)の頭文字をとったもので、一般的にセクシャルマイノリティと呼ばれる人々の総称です。株式会社電通が2020年に実施した調査によれば、日本におけるLGBTの人口は8.9%という結果が出たということですから、およそ10人に1人の割合でLGBT当事者の方がいることになります。

もしあなたの会社の職場に10名以上の従業員がいるとすれば、少なくとも一人は当事者の方がいるという認識を持つべきです。

企業が持つべき視点

LGBTに対する社会の認識は10年前と大きく変わっています。LGBTに理解のない会社=体質の古い会社=不寛容で誰にとっても働きにくい会社という発想に繋がりかねません。優秀な人材の確保や離職防止の観点からみても、LGBTフレンドリー(LGBTに対する理解があり、LGBT当事者との間で友好的な関係を築こうとする態度)であることは重要なのです。また、会社がLGBTへの理解を示し積極的な対応に取り組むことにより、株主、取引先、消費者等から多様性に寛容な企業と評価され、企業価値の向上に繋がります。

一方で、行うべきLGBT対応を怠った結果、社内でLGBT当事者である従業員に対するハラスメントやアウティング等の問題が発生すれば、会社は職場環境配慮義務(労働契約法5条)違反や、使用者責任(民法715条1項本文、同法709条)に基づく損害賠償請求といった形で法的責任を問われるリスクがあります。そして、報道やSNS等でそうした問題が知れ渡れば、会社のイメージは損なわれ、信頼は大きく傷つけられます。

このようにLGBT対応に対する姿勢によって、会社の未来は大きく変わるといえます。

では、LGBTフレンドリー企業になるために会社は何をしたらよいのでしょうか。

LGBTフレンドリー企業になるために

(1)基本的な考え方

LGBTフレンドリーであること、そしてそうした姿勢を永続的に続けていくためには、全ての従業員が当事者意識を持つことが重要です。その点でいえば、LGBT当事者とそうでない人を繋ぐ『SOGI』という言葉を知っておくとよいかもしれません。SOGIは「性的指向(Sexual Orientation)」「性自認(Sexual Identity)」の頭文字をとった言葉であり、LGBT当事者に限らず、すべての人の属性を指す言葉です。

LGBT当事者に対するハラスメントは、性的指向や性自認に対するハラスメント(=「SOGIハラ」)の一種ですから、すべての人が被害者になる可能性があるのです。

まずは、全ての従業員が当事者としてSOGIハラを許さないという意識を持つことから始めましょう。

(1)就業規則の見直し
ア 差別禁止規定

まずは、 社長名でハラスメント防止指針を出すことによりSOGIハラを許さないという会社の姿勢を示すことが有効です。

また、就業規則に差別禁止規定を盛り込んでもよいと思います。例えば、厚生労働省が作成したモデル就業規則(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118951.pdf)には、以下のような案が挙げられています。

(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

イ 服務規律・懲戒事由

服務規律にハラスメントに関する条文を設けて、それに違反した場合は懲戒処分の対象になることを懲戒事由として明記することも職場におけるSOGIハラ防止に役立ちます。

(服務規律)
第●●条 従業員は、誠実に勤務し、かつ次の事項を遵守しなければならない。
(1)・・・
(2)職場内において性的指向や性自認に関する言動により他人に不快な思いをさせたり、職場環境を悪化させないこと。
(懲戒事由)

(服務規律)
第●●条 従業員が次の各号の何れかに該当する場合はこれを懲戒する。
(1)・・・
(2)第●条に定める服務規律に違反した場合

ウ 就業規則等の周知

就業規則を改訂しても、そのことを従業員が知らなければSOGIハラ防止につながりません。就業規則を改訂したことを社内メールや通達等で全従業員に知らせましょう。

(2)社内研修の実施

従業員に対して、①性的指向や性自認を尊重することの重要性、②どのような発言や態度が性的指向や性自認に関する差別的言動(SOGIハラ)に当たるのか、③SOGIハラに当たる行為が懲戒事由に当たること、④SOGIハラの被害に遭った場合の相談窓口等について周知させる社内研修を定期的に実施することもSOGIハラ防止につながります。

(3)相談窓口の設置と相談担当者の育成

SOGIハラの相談窓口を設置することもSOGIハラ防止に役立ちます。

実際の窓口は既にあるセクハラ・パワハラ等の相談窓口を利用する形でも構いませんが、LGBTに関する相談対応には相応の専門的知識が求められますので、相談担当者には最低限の基礎知識を学んでもらう必要があります。といっても、難しく考える必要はありません。重要なことは、相談者の発言や悩みを否定したり軽んじたりせず傾聴すること、そしてプライバシーの重要性に配慮することです。

仮に相談に訪れる従業員がいなくても、社内にSOGIハラの相談窓口があること自体が当事者の安心につながることもありますし、SOGIハラの抑止力になる可能性もあります。

5 最後に

“性的指向や性自認に関する問題は従業員全員が当事者である。” LGBT当事者への配慮やSOGIハラ防止のための取組については、ぜひそうした意識をもって取り組んでいただきたいと思います。

R05.03掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。