中小企業の法律相談
福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。
中小企業M&Aにおいて仲介業者・FAから説明されるべき重要な事項
中小M&Aガイドラインとは
中小M&Aガイドラインとは、後継者不在により中小M&Aの当事者となる中小企業や、中小M&Aをサポートする各種支援機関の手引き・行動指針を示すことを目的として、2020年3月に中小企業庁が策定したものです。
その後、中小M&Aが定着してきましたが、他方で、仲介・FA(フィナンシャル・アドバイザー)に関して、契約の分かりにくさ、担当者による質のばらつき、手数料体系の分かりにくさ(最低手数料の適用)等の課題が見受けられるようになり、当該課題に対応するため、中小M&Aガイドラインが2023年9月に改訂されました。
本稿では、改訂された中小M&Aガイドラインをもとに、M&A専門業者が仲介契約又はFA契約の内容等について説明すべき重要事項を解説します。
説明されるべき重要事項
(1)全13項目
中小M&Aガイドラインにおいては、M&A専門業者は仲介契約又はFA契約にあたり、契約締結前に契約に係る重要事項を記載した書面を交付して説明しなければならない、とされています。説明されるべき重要事項は、全13項目で、具体的には、①仲介者・FAの違いとそれぞれの特徴、②提供する業務の範囲・内容、③手数料に関する事項、④手数料以外に依頼者が支払うべき費用、⑤秘密保持に関する事項、⑥直接交渉制限条項、⑦専任条項、⑧テール条項、⑨契約期間、⑩契約の解除に関する事項及び依頼者が仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合には当該中途解約に関する事項、⑪責任(免責)に関する事項、⑫契約終了後も効力を有する条項、⑬(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあると想定される事項です。
以上のうち、①仲介者・FAの違いとそれぞれの特徴、⑤秘密保持に関する事項、⑥直接交渉制限条項、⑦専任条項、⑧テール条項、⑬(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあると想定される事項を解説いたします。
(2)①仲介者・FAの違いとそれぞれの特徴、⑬(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあると想定される事項
ア 仲介者
仲介者は、譲渡側及び譲受側の双方と契約を締結するものであり、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできません。双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指して、助言や調整を行います。
また、中小M&Aガイドラインにおいて、仲介者は、譲渡側と譲受側との間で利益相反リスクがあることから、DD(デューデリジェンス*) を自ら実施すべきでなく、DD 報告書の内容に係る結論を決定すべきでないこと、確定的なバリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)を実施すべきでないことが指摘されています。
*M&A対象企業の財務・法務状況等を調査すること
イ FA
FA(フィナンシャル・アドバイザー)は、譲渡側又は譲受側の一方と契約を締結するものであり、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指し、助言や調整を行います。
(3)⑤秘密保持に関する事項
情報の漏えいがあった場合にはM&Aが頓挫してしまうことがあり、秘密保持は重要です。仲介契約・FA契約において、仲介者・FAに対し秘密保持義務を課すとともに、顧客側にも同義務を課すことが通常です。
もっとも、中小M&Aガイドラインにおいて、専門的な知見を有する一定の者(士業専門家や公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センター等)から支援を受けたり、意見や助言を求めたりすることの妨げにならないよう、これらの者との情報共有が許容されているかを確認することが望ましいとされます。
(4)⑥直接交渉制限条項
直接交渉制限条項とは、依頼者が、M&Aの相手方となる候補先と、仲介者・FAを介さずに直接、交渉又は接触することを禁じる条項をいいます。
この点、中小M&Aガイドラインにおいては、直接交渉を制限する対象は原則として仲介者・FAが関与・接触し、紹介した候補先のみに限定すべきであること、交渉の目的を依頼者と相手方との間のM&A取引に関するものに限定すべきであること、直接交渉制限条項の有効期間は、仲介契約・FA契約が終了するまでと限定すべきであることが指摘されています。
(5)⑦専任条項
専任条項とは、マッチング支援等において他の仲介者やFAへの依頼を行うことを禁止する条項をいいます。
この点、中小M&Aガイドラインにおいては、専任条項を設ける場合、対象範囲を可能な限り限定すべきであること(例えば、依頼者が意見を求めたい部分を明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンドオピニオンを求めることを許容すべきである、とされています。)、契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めることが留意点として指摘されています。
(6)⑧テール条項
テール条項とは、マッチング支援等において、M&Aが成立しないまま仲介契約・FA契約が終了した後、一定期間(いわゆる「テール期間」)内に譲渡側がM&Aを行った際に、その仲介者・FAが手数料を請求できることとする条項をいいます。
この点、中小M&Aガイドラインにおいては、テール期間につき最長でも2年~3年以内を目安とすることが望ましいこと、テール条項の対象についてあくまで当該仲介者・FAが関与・接触し、譲渡側に対して紹介した譲受側のみに限定すべきであることが指摘されています。
おわりに
中小M&Aにおいて、特に譲渡側はM&Aが未経験であることがほとんどであり、M&Aに関する知識・知見が乏しい傾向にあるとされます。この点、中小M&Aガイドラインは、M&Aに関する一般的な説明に留まらず、中小M&A独自の特色をも加味して説明がなされており、大変参考になります(本稿で解説したものは中小M&Aガイドラインの一部に過ぎません。)。
中小M&Aガイドラインの「第1章 後継者不在の中小企業向けの手引き」だけでもご一読されてみてはいかがでしょうか。
R6.4掲載