中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

民事訴訟法改正と裁判のIT化

今や民事裁判はWeb会議が主流

わが国の最近の民事裁判はWeb会議が主流、というと驚く方もいらっしゃるかもしれません。裁判と聞いて、弁護士が法廷に立ち、ズバッと証人のウソを指摘する法廷ドラマの場面をイメージする方は、「どうやってWebで裁判を?」と不思議に感じるでしょう。

今や、弁護士が裁判所に直接赴く機会は激減しました。非公式な数字ですが、福岡地裁では1か月に1000件近いWeb会議が実施された月もあるとのことです。

民事訴訟法改正と裁判のIT化

立ち遅れた民事司法のIT化

実際、わが国の裁判手続へのITの導入は非常に遅れておりました。

2001年6月、司法制度改革審議会がIT化の必要性を提言していたにもかかわらず、その後15年にわたりほとんど進展しませんでした。その間、諸外国ではどんどん裁判のIT化が進み、欧米のほかアジア諸国においても、訴状の電子提出やe法廷が次々に実現していたのです。日本だけが立ち遅れている状況で、「失われた15年」とも指摘されています。

そうした中、2017年6月の閣議決定により、ようやく裁判手続のIT化を推進する方向性が打ち出され、2018年3月には「裁判手続等のIT化検討会」が報告書を取りまとめるに至りました。

その報告書の提言のうち、法改正せずに実施可能な「Web会議等の運用」が先行して開始されることとなり、2020年2月からは、東京地裁や福岡地裁など、一部の地裁で先行して運用が開始しました。当初、弁護士の間では新しい取り組みへの抵抗感がありましたが、ちょうど新型コロナ感染症拡大と重なったこともあって、Web会議は急速に受け入れられ、同年12月にはすべての地裁本庁で運用開始しました。

そして、本年5月、いよいよ改正民事訴訟法が成立し、民事司法への本格的なIT導入に向けた基盤が整備されました。

民事裁判IT化によって、裁判所への出頭に必要な時間的・経済的負担軽減、書類のやり取り・保管のためのコスト軽減、記録へのアクセス容易化などが実現し、より迅速かつ充実した審理を可能とすることが期待されています。

現在のIT導入状況

まずは現在の民事訴訟におけるIT導入状況についてみてみたいと思います。

民事訴訟においては、口頭弁論、つまり裁判官の面前において口頭で主張を行うことが手続の基本です。現行の民事訴訟法では、「当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない」と定めており、裁判所への出頭が必須となっています。

このため、現時点では、Web会議を利用できるのは、争点整理手続のみです。現行法上当事者の一方の出頭が必要とされている弁論準備手続の場合は、一方当事者が裁判所に出頭して、他方当事者がWebで期日に参加します。双方当事者ともWeb参加の場合には、書面による準備手続という手続を利用する形でWeb会議による争点整理が実施されています。

Web会議のツールは、Microsoft Teamsが用いられており、法廷に大型モニター、マイクスピーカー、広角カメラ等の機材を設置して利用しています。現場写真や図面を画面上で共有表示しながら争点整理することもあります。

争点整理にしかWeb会議が活用されていないというと、ごくわずかな部分だけと思われるかもしれませんが、実際の裁判では争点整理に一番時間がかかっています。1年以上ずっと争点整理という事件も珍しくありません。弁護士が遠方の裁判所まで出頭しないで済むので、期日の日程調整がしやすくなり、争点整理期間の短縮が期待されます。

書面の提出にも、徐々にITが導入されてきています。東京地裁等の一部の民事部では、従来からファックスでの提出が許容されてきた準備書面等について、民事裁判書類電子提出システム(通称mints)を通じてオンライン提出することが可能となりました。2023年1月からは、福岡地裁でも導入が予定されています。

改正民事訴訟法で何が変わるか

では、改正民訴法の施行によって、手続はどう変わるのでしょうか。

まず、口頭弁論期日もWeb会議等による出席が可能となります。裁判所が当事者の意見を聴いて相当と認める場合には、口頭弁論期日にWebで出席するという選択肢が加わることになります。弁論準備手続期日も、双方当事者ともWeb会議で参加することが可能となります。

これまで書面のみだった訴え提起もオンラインで出来ることになりました。原告が裁判所の事件管理システムに利用登録することにより、システムにオンラインでアクセスし、訴状に記載すべき事項を入力する方法で訴え提起することが可能となります。弁護士が訴え提起する場合には、オンライン申立てが義務付けられ、書面による訴え提起は基本的に許されません。

訴え提起時に必要な手数料納付については、従来は収入印紙を訴状に貼付しての納付でしたが、原則として電子納付となります。

送達については、従来の書面による送達に加えて、いわゆるシステム送達が導入され、送達を受ける者がシステムにアクセスして閲覧・ダウンロードすること等により送達の効力が生じることになりました。もっとも、訴状送達の場面では、被告は自分が訴えられたことすら知らないことが多く、自らシステムにアクセスすることは期待できません。オンライン提出された訴状を裁判所が出力して書面化し、それを郵便で送達することになると思われます。

判決については、従来の紙媒体の判決書や調書判決に代えて、電子判決書及び電子調書判決が導入されました。

他にも、書証の写しのオンライン提出や、証人尋問等におけるWeb会議の利用、訴訟記録の電子保存、端末を用いた裁判記録閲覧など、改正法には様々なIT導入が盛り込まれています。

より使いやすい民事訴訟を目指して

改正法は成立しましたが、本格的なIT化が実現するまでには、関連する裁判所規則の整備やシステム構築などの課題が山積しています。さらに、現在は民事執行手続や破産手続等のIT化も検討されています。弁護士も旧来のやり方にこだわりすぎることなく、柔軟に時代の変化を受け容れ、ITを活用し、より利用しやすい民事訴訟を実現することが求められています。

R04.12.01合併号掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。