中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

内部通報制度の導入と見直しを

内部通報制度の導入状況

公益通報者保護法の施行から10年以上が経過しました。消費者庁の平成28年度実態調査によれば、内部通報制度を導入しているのは、大企業が99%であるのに対し、中小企業は40%にとどまり、まだ制度の導入が進んでいないようです。

実効性のある内部通報制度が整備・運用されている企業では、不正につながる事実を早期に把握し、自浄作用を働かせることによって、不正の未然防止や早期発見につなげることができます。そして、このような企業は、安心・安全な製品やサービスを提供する企業として社会的にも評価されるはずです。

内部通報制度の導入と見直しを

社内窓口と社外窓口

従業員が内部通報を行う通報先として、まずは通報窓口を設けることになります。社内の部門に窓口を置く(社内窓口)が多いようですが、外部に窓口を委託する場合(社外窓口)や、社内と社外の双方を設置する場合もあります。

従業員の立場から見ると、社内窓口だけでは、きちんと対応してもらえるのか、すぐ上司に伝わってしまい不利益を被るのではないかと不安になり、結局、通報しないで終わってしまうことが考えられます。法律事務所や民間の専門会社に通報窓口業務を委託し、従業員には社外窓口に通報するよう案内することが、制度の実効性からみて望ましいといえます。

もっとも、中小企業では、外部委託は負担が大きく、社内窓口のみとすることもやむを得ないでしょう。企業の業種や従業員数に応じて、柔軟に制度を設計することが重要です。

社内窓口は、総務部や人事部、コンプライアンス部門などにおかれることが一般的です。経営トップ(社長)自身が窓口を直轄する体制も考えられます。その場合は、経営トップがコンプライアンスを自ら積極的に推進し、トップに通報しても不利益を課されることがないという安心感を社内に醸成することが肝要です。

窓口への通報対象事実の定め方

通報窓口で受け付ける対象事実をどのように定めるのが良いのでしょうか。公益通報者保護法では、通報対象事実を刑罰が設けられた特定の法令における一定の違反行為に限定していますが、内部通報制度の目的からすれば、通報窓口で受け付ける不正行為は、同法よりも広く定めるのが良いでしょう。「法令違反行為一般及び社内規程違反行為が生じまたは生じるおそれがあると思料した場合」に通報すると定める例が多いようです。

社内規程の整備

通報した後どうなるのかがわからなければ、安心して通報することができません。

そこで、通報窓口での受付方法、通報対応の仕組み、調査においてどのような配慮をするのか、調査結果をどのようにフィードバックするのかなどについて、わかりやすく社内規程に盛り込む必要があります。特に、通報者への不利益取扱いを禁止すること、通報者の匿名性の確保については、十分に明記することが重要です。

通報の義務化を考える

日本の企業においては、内部通報は密告、チクリだという誤った認識があり、後ろめたい行為であるかのように捉えられがちです。このような企業風土を変え、内部通報を促進するためには、相当思い切った制度設計をする必要があります。それに、従業員自身が被害者となるハラスメント事案ならともかく、他人事ともいえる企業内の不正行為を内部通報する動機として、従業員の純粋な正義感だけに期待することは現実的でありません。

そこで、例えば、通報窓口や利用方法を従業員に案内するだけではなく、通報は従業員の義務である、と社内規程に定めることが考えられます。こうすることによって、義務を果たした通報者への不利益取扱いをしないという企業姿勢を強く従業員に示すことができます。義務を果たすのだと思えば、内部通報への抵抗感も少なくなるでしょう。

もっとも、内部通報を義務化するといっても、それはあくまで積極的な内部通報を促すためなのですから、無断欠勤などの禁止行為と同様に厳格な義務とし、違反に対して直ちに懲戒処分を課すことは考えものです。処分を恐れて無用な通報が多発する可能性もあります。

したがって、内部通報を“努力義務”として規定することがまず考えられるでしょう。さらに進んで、製品の安全性や反社会的勢力との関係など、当該企業の事業の根幹に関わる事項に限定し、また一定の職階・職責の者に限って、違反に処分を伴う厳格な義務とすることも検討すべきでしょう。

内部通報制度の周知

内部通報制度導入時に社内広報を行っただけで、その後はあまり積極的に周知をしていない企業が多いのではないでしょうか。

内部通報制度を実効的なものとするためには、継続的な周知・研修により、従業員に制度の存在を日常的に認識させることが必要です。通報先を記載したカードを従業員に携帯させたり、給与明細に通報先を掲載するといった工夫をしている企業もあります。

また、単に社内規程をアナウンスするだけではなく、経営トップが、自らの言葉で内部通報制度の意義を従業員に伝え、その本気度を示すことが重要です。

内部通報制度の導入・見直しを

先日、中国の通信会社Huawei(ファーウェイ)が、内部通報した従業員を昇進させ、そのことを創始者が全社従業員宛のメールで発表しました。内部通報は推奨される行為だというメッセージを、このくらい強く打ち出す必要があるということでしょう。

消費者庁も民間事業者向けガイドラインを整備しました。内部通報制度を導入していない企業は、これを機に導入を検討してみてください。

既に導入済みの企業は、通報件数をチェックしてみましょう。通報件数が伸び悩んでいたら、それは通報しにくい環境だということです。せっかく導入した内部通報制度が実効的なものとなるよう、制度の内容や周知方法を見直し、さらに工夫を凝らすことが重要です。

H30.02掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。