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債権回収と民事執行法改正(令和元年5月)

はじめに

民事執行法は、勝訴判決などを得た債権者が、その権利の実現を求めるための裁判手続を定める法律です。令和元年5月10日、この民事執行法の一部が改正され(以下、「改正法」といい、現行の民事執行法を「現行法」といいます)、同月17日に公布されました。

今回の改正では、(1)債務者の財産状況の調査に関する制度の実効性を向上させ、(2)不動産競売における暴力団員の買受けを防止し、(3)子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化を図るなどの改正が行われていますが、(1)債務者の財産状況の調査に関する制度の改正は、債権回収という観点から、従前より一歩進んだ改正となっていますので、確認しておきたいと思います。

内容証明

ケース

AはBに300万円を貸し付けていましたが、Bは返済期限に返済しませんでした。そのため、AはBに対し、内容証明郵便を送付するなどして再三請求しましたが、やはり返済してくれません。そこで、AはBに対して、300万円の貸金返還請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ました。

Aが勝訴判決を得れば、Aのもとに当然に300万円が返ってくるのでしょうか。そんなことはありません。勝訴判決に基づいて、観念したBが任意に返済してくれるならよいですが、依然として返済しない場合には、AはBの財産に対して強制執行の申立てをし、差し押さえたBの財産の中から回収することを考えなくてはなりません。

ところが、この強制執行を行うためには、A自身が執行の対象となるBの財産(たとえば、不動産、給与、預貯金等)を特定する必要があります。しかし、Bが不動産を所有しているのか、どこに勤務しているのか、どの金融機関に預貯金口座を開設しているのか等Bの財産に関する情報をAが持っていない場合には、Bの財産を特定することができずに強制執行の申立てをすることができません。Aは、せっかく頑張って勝訴判決を得たのに権利を実現することができず、勝訴判決もただの紙切れとなってしまいます。

改正法の内容

上記ケースのように、債務者の財産を把握できない場合には、権利の実現が困難になってしまいます。そこで、改正法においては、権利の実現を図ることができるように、債務者財産の開示に関して、①現行法上の「財産開示手続」の見直しを行い、②債務者以外の「第三者からの情報取得手続」の制度を新設しました。

①現行法上の「財産開示手続」の見直し

 債務者の財産状況を調査する方法として、現行法上、「財産開示手続」という制度が設けられています。財産開示手続は、一定の要件を満たした場合に、執行力ある債務名義の正本(勝訴判決等)を有する金銭債権の債権者の申立てにより、執行裁判所が債務者を呼び出し、その保有する財産を開示(陳述)させる制度で、平成15年の執行法の改正の際に導入されたものです。しかし、債務者が出頭しなかったり、虚偽陳述をしたりした場合であっても30万円以下の過料に処せられるに過ぎないということもあり、実効性に乏しく、利用実績も年間1000件前後と低調でした。
 このような現状を踏まえ、改正法では、不出頭等には刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)による制裁を科すこととし、手続の実効性を向上させました(改正法213条)。また、あわせて、申立権者を拡大し、これまで認められていなかった仮執行宣言付判決を得た者や、公正証書により金銭の支払を取り決めた者等も利用することが可能となりました(改正法197条)。
 上記ケースでAが財産開示手続の申立てをした場合、執行裁判所はBを呼び出してその財産を開示(陳述)させることができ、Bが裁判所の呼び出しに応じない場合には、Bには刑事罰が科されうることになります。

②「第三者からの情報取得手続」の新設

 財産開示手続は、債務者自身からその財産状況を取得するものですが、より確実に債務者の財産状況を調査できるようにするために、改正法では債務者以外の「第三者からの情報取得手続」が新設されました。一定の要件を満たした場合に、執行裁判所を通じて、以下の情報が取得できることになります。

  1. 不動産に関する情報(改正法205条)
    登記所から、不動産に関する情報を取得することができます。
    これにより、Bが2000万円の価値あるマンションを有していることが判明すれば、Aは、この不動産に対して強制執行をし、300万円の回収を図ることができます。
  2. 給与債権(勤務先)に関する情報(改正法206条)
     市町村、日本年金機構等から、給与債権(勤務先)に関する情報を取得することができます。
    もっとも、この給与債権(勤務先)に関する情報取得手続は、申立権者が「養育費等の債権」や「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」を有する債権者に限定されていますので、上記ケースのAのような貸金債権の債権者の場合には取得することができません。
  3. 預貯金債権、上場株式、国債等に関する情報(改正法207条)
     金融機関(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等)から、預貯金債権や、上場株式、国債等に関する情報が取得できます。
     これにより、Bが○○銀行に400万円の預貯金債権を有していることが判明すれば、Aはこの預貯金債権に対して強制執行をし、300万円の回収を図ることができます。

施行時期

改正法は、原則として、公布の日(令和元年5月17日)から1年以内の政令で定める日から施行されることが予定されています(上記-1.の不動産に関する情報取得手続については、公布の日から2年以内の政令で定める日)。

現時点では、まだ具体的な施行日や、運用について確定していない点もありますが、債権回収に携わるご担当の方々は、今回の改正について、頭の片隅に入れておかれるとよいかと思われます。

R01.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。