中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

社員がYouTuberに!?そのとき会社はどうする!?

はじめに

今や、小学生が将来なりたい職業ランキングの上位を占めるようになったYouTuber。
自分の作品を手軽に投稿して世界中の人に評価してもらえるというツールは魅力的です。さらに視聴回数が増えれば、多額のアドセンス収益も夢ではない。そうした理由から、YouTubeの動画制作や投稿にチャレンジする人も増えているようです。

一方で、YouTubeはもっぱら視聴する側という方も多いのではないでしょうか。

社員がYouTuberに!?そのとき会社はどうする!?

そんなあなたがいつものようにYouTubeを何気なく観ていると、お薦め動画の中に、あなたの会社の従業員が作った動画が出てきたら・・・、しかもその動画の内容があなたの会社に関連するものだったら・・・、果たして純粋に視聴者として楽しめるでしょうか?

「最近仕事中に居眠りばかりしていると思ったら・・・」「そんな曝露話をしてもらっちゃ困る!」なんてこともあるかもしれません。

そこで、今回は、あなたの会社の社員がYouTube等のSNSを利用して収入を得ていることがわかった場合に、会社がとるべき対応についてお話したいと思います。

YouTuberは「副業」にあたるか

YouTubeは動画の視聴回数に応じて報酬を得ることが出来ます。そこで、本業以外で収入を得るYouTuberとしての活動が副業に当たらないかが問題となります。

この点、何が副業に当たるかを定めた法律はありませんが、一般的には、本業以外で収入を得るために仕事をすることを副業と言いますから、収入を得る目的で継続的に動画を制作・投稿し、実際に収入を得ていれば、副業に当たる場合もあると考えられます。その場合は、会社として何らかの措置を講じる必要が出てきます。

就業規則で「副業」を禁止・制限している場合、ただちに禁止・制限できるか

では、就業規則で一律に副業を禁止している場合や、許可制をとる等、一定の制限を課している場合に、社員のYouTuberとしての活動を禁止・制限することはできるでしょうか。

本来、社員が就業時間外の時間をどう使うかは社員の判断に委ねられていますから、YouTube等のSNSを利用した活動を禁止・制限できないのが原則です。ただし、本来業務に支障が生じるような場合には、例外的に一定の制限を加えることも可能と考えられます。

この点、厚生労働省が定めるモデル就業規則も、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」(第68条第1項)としつつも、「会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。」(第68条第2項柱書)として、「①労務提供上の支障がある場合」、「②企業秘密が漏えいする場合」、「③会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合」、「④競業により会社の利益を害する場合」には、例外的に副業を禁止・制限できるとしています(厚生労働省ホームページ、掲載の「モデル就業規則」 )。

したがって、あなたの会社が、副業に関して、上記モデル就業規則に準じた定め方をしている場合、投稿されている動画の内容を確認し、その内容が上記①~④に該当していないかを吟味して、YouTuberとしての副業の禁止ないし制限を検討することになります。

具体的には、①社員が頻繁に遅刻や就業時間中の居眠りをしており、YouTuberとしての活動以外の原因となる事情が見当たらない場合、②会社で開発中の新商品に関する情報を投稿している場合、③会社を誹謗中傷するような内容を投稿している場合、あるいは④YouTubeで競合他社の商品を紹介している場合等には、副業を禁止・制限することを検討すべきでしょう。

投稿を削除させることが出来るか

副業に当たるか否かにかかわらず、YouTube等のSNSに投稿した動画が上記②~④に該当するような場合、社員に動画の削除を求めることが出来ると考えられますが、社員が削除に応じないことも考えられます。

その場合、投稿内容が当該SNSのポリシーやガイドラインに反していれば、そのプラットフォーマーに対して違反報告フォーム等を通じて削除依頼することができます。

そして、削除依頼にプラットフォーマーが応じない場合、裁判上の手続をとることになります。具体的には、②の場合には秘密保持義務違反、③の場合には名誉棄損、④の場合には競業避止義務違反を理由に、投稿の差し止めや削除請求をすることが考えられます。

トラブルを未然に防ぐために

できれば社員との紛争は避けたいものです。また、一旦、②~④のような内容が投稿されれば、あっという間にネットニュース等で取り上げられる等して、情報が世界中に拡散し、取り返しのつかない事態になる可能性があります。

そうしたトラブルを防ぐために、会社としては事前に予防策を講じておきたいところです。

具体的な方策としては、SNSに関する社員研修を実施したり、社員が動画をYouTubeに投稿することを想定したソーシャルメディアポリシーを社内で策定することが考えられます。

後者の例として、ソーシャルメディアポリシーの中で、勤務時間内に動画撮影や投稿を行うことを禁止し、動画の制作・投稿によって労務提供上支障がないようにしたり、自社の新商品や経営戦略、取引先の情報等の企業秘密に関わるコンテンツを含む動画や、炎上の原因となり得るような社会的倫理に反する動画、さらには競業他社の商品やサービスに関するコンテンツを含む動画を投稿しないこと等を義務付けることが考えられます。

そして、ソーシャルメディアポリシーに実効性を持たせるべく、就業規則を改定して、不当な投稿については懲戒処分の対象となることを明記することも検討すべきでしょう。

最後に

YouTubeの気軽さがあだとなって、投稿者や会社に多大な損害を与える結果となったケースも少なくありません。

そうした悲劇から社員を守り、会社を守るために、まずは、社内規定の見直しや整備に着手する時期に来ていると言えるでしょう。

R04.07掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。