中小企業の法律相談

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令和元年改正会社法施行に伴う社外取締役の設置について

はじめに

「飛翔」平成27年3月号において、平成26年会社法改正に伴う社外取締役の設置について取り上げました。以降、コーポレートガバナンス強化の観点から社外取締役の設置は更に求められ、実際に多くの企業において社外取締役が設置されています。そのような中、今年3月に施行された令和元年改正会社法(以下、「改正法」「法」といいます)では取締役等に関する規律の見直しが行われ、社外取締役の活用等についても新たな規定が設けられました。関連して、上場会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード(平成27年6月施行、平成30年6月改訂。以下、「CGコード」といいます。)も今年6月に改訂され、社外取締役の活用について言及されています。そこで、今回は、社外取締役に関する改正点等を確認したいと思います。

令和元年改正会社法施行に伴う社外取締役の設置について

社外取締役の設置の義務づけ

改正法により、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならないと規定されました。平成26年の改正では社外取締役の設置の義務づけは見送られていましたが(上記のような会社が社外取締役を置いていない場合には、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないという規律となっていました。)、今回の改正により、社外取締役の設置が会社法上義務づけられることなりました(違反した場合には100万円以下の過料。)。

CGコードにおいては、上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされていましたので、すでに多くの上場会社で社外取締役を設置していると思われますが、そうでない場合には会社法上の義務として社外取締役の設置が求められることとなりました。

また、令和4年4月より東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となりますが、今年改訂されたCGコードでは、我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場であるプライム市場の上場会社においては独立社外取締役を少なくとも3分1以上選任すべきであると規定されました(原則4-8。その他の市場の上場会社においては従前どおり2名。)。

なお、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社においては、従前より、会社法上、社外取締役の設置が義務付けられています(法400条3項、法331条6項)。

業務執行の社外取締役への委託

社外取締役は、取締役会における議決権行使等を通じて、独立した立場から、業務執行者の業務執行を中立的かつ実効的に監督することが期待されています。このような社外取締役の独立性確保の観点から、社外取締役の資格要件は厳格化されているところ、業務執行取締役は、社外取締役になれないとされていることから(法2条15号イ)、社外取締役が業務執行をすることはできません。

この社外取締役が行うことのできない業務執行が何かという点は実務上解釈に委ねられており明確になっているとはいえません。しかしながら、マネジメント・バイアウトや親子会社間の取引において社外取締役が業務執行者から独立した立場で交渉等を行うことがあり、かつ、社外取締役による業務執行が期待される場面ともいえます。そのため、当該行為が業務執行に該当し当該行為をした社外取締役が社外取締役としての要件を満たさなくなってしまったり、あるいは、業務執行に該当することをおそれて社外取締役が業務執行者から独立した立場で交渉等を行うことに消極的になってしまったりしては、社外取締役がその役割を十分に果たせなくなります。

そこで、改正法では、株式会社と取締役の利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができることとし、委託された業務を執行しても社外取締役の資格を失わないという規律が設けられました(法348条の2)。もっとも、この規律はセーフ・ハーバー・ルール※であり、これまでの解釈で業務執行にあたらないと解釈されていた社外取締役の行為が新たに業務執行に該当するものとすることを意図するわけではないとされています。

※文字通り「安全港の規定」であり、一定の条件などの基準を満たしている場合には、法令違反を問われないことを明確化したルール

社外取締役として誰を選任するか

社外取締役には、経営者又は経営者OB、弁護士、公認会計士、その他有識者等を選任することが考えられますが、誰を社外取締役として迎え入れるかは、社外取締役に何を求めるかという各会社の判断になります。

CGコードでは、従前より、取締役会における多様性の確保が謳われていましたが、今回の改訂では、「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。」(原則4-11)と規定し、「職歴」、「年齢」も新たに多様性の例として明示されました。社外取締役の選任にあたっては、このような多様性確保の観点からも、検討されるとよいと思います。

おわりに

上場していない中小企業であっても、コーポレートガバナンスを強化という観点からは社外取締役の選任について積極的に検討してみる価値はあります。また、すでに社外取締役を設置している場合には選任して満足するのではなく、社外取締役のより有効に活用していくことを検討されるとよいでしょう。取締役会における多様性確保という観点からは、従前より増えてきたとはいえ未だ十分ではないと思われる女性の採用を検討される会社もあると思います。以前にもご紹介しましたが、福岡県弁護士会では「女性社外役員候補者名簿」を作成し、企業に提供する制度がございますので、社外取締役候補者をお探しの企業は、ご活用ください(詳細は福岡県弁護士会までお問い合わせください)。 

R03.09掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。