中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

債権回収上手は情報収集上手

【1】永遠のテーマ

企業にとって、債権回収を確実にすることは永遠のテーマといってもよいでしょう。

昨今の不景気を反映して、貸倒れとなるケースも非常に多くなっているのではないでしょうか。

しかし、「こういう時代だから仕方ない」では済まされません。極端な言い方をすれば、そのような発想の企業は、この時代を生き抜いていくことはできないでしょう。

債権回収を確実にする、あるいは貸倒れを最小限に食い止めるために、中小企業は積極的に取り組まなくてはいけません。

債権回収上手は情報収集上手

【2】担保、保証の難しさ

債権回収を確実にするために、よく言われるのは、「将来に備えて、担保を取っておけ。」、「保証人をつけろ。」ということです。

確かに、そのような保全が取れていれば、相手先が倒産したときでも、債権回収を図ることはできます(担保の内容や、保証人の資力によっては、常に債権回収が確実にできるということではありませんが)。

しかし、現実は、そう簡単なことではありません。大企業ならいざ知らず、中小企業が担保や保証人を要求するというのは、非常に難しいものです。相互の力関係みたいなものが作用するものなのです。

もちろん、だからといって、担保や保証人をつけることを鼻から諦めるべきではありません。例えば、支払の繰り延べの申し入れがあったときなどは、頼む方と頼まれる方ということで、ある意味の「力関係」が生まれる訳ですから、担保や保証を求めるチャンスでもあります。

しかし、ここでは、なかなか担保、保証が取れない現実を受け入れ、対策を考えていこうと思います

【3】危険信号を見逃すな

「自己破産をする通知が届いたが、どうしたらよいか。」

こんな相談を受けることが少なくありません。

しかし、動産売買の先取特権を用いるなどという特別な場合を除いて、残念ながら有効な手立てはありません。倒産手続における債権者平等の原則によって、「抜け駆け」は許されなくなってしまうからです。つまり、倒産をする旨の通知を受けてから、債権回収を図ろうというのは、もはや手遅れなのです。もっと早く手を打たなくてはならないのです。

倒産には、必ず何らかの兆候があるものです。商売をしている人は、企業であれ、個人であれ、当然、できるだけ倒産はしたくないと考えています。ある意味、日本的といえるかもしれませんが、ギリギリまで粘って、ついに倒産ということが多いのです。つまり、倒産に至るまでには、経営が不安定な期間が相当あるのです。

「支払が遅れがち」、「注文ロットが急に増えた」、「在庫が急に増えている」「社長が不在のときが多い」、「従業員が不満を言っている」、「大口の取引先が倒産した」、「手形のジャンプを依頼された」など、危険信号はいろいろあるものです。

これらの情報の中には、足を使わなければわからないものもあります。インターネットやFAXなど通信手段の発達により、取引先と面談することが少なくなってきておりますが、訪問、面談は非常に重要です。ふとした雑談から、危険情報を入手することもあります。まさか「おたくは大丈夫ですか」と聞くわけにはいきませんので、むしろ雑談こそ、情報入手の大きなチャンスといってもいいでしょう。人は油断したときにこそ、重要な情報を口にしてしまうものです。

当たり前のことですが、情報は積極的に入手しようとしなければ入ってくるものではありません。情報入手の努力は惜しむべきではありません。

債権回収が上手な企業は、この危険信号をいち早く感知しています。そして、倒産に至る前に、他に先駆けて債権回収のための手段を講じ、あるいは貸倒れが発生しないよう取引中止、あるいは制限といった手段を講じているのです。

【4】相手の財産情報をつかめ

倒産による「債権者平等原則」が適用される前は、いわば早いもの勝ちの世界です。危険信号を感知したら、法的手続による強制回収も当然検討すべきでしょう。

法的手続というと「裁判」を思い浮かべがちですが、裁判をして、判決をもらったからといって、回収ができるわけではありません。現実に回収するには、相手の財産を差し押さえなくてはなりません。その財産が見当たらないのであれば、判決はまさに「絵にかいた餅」にすぎないのです。

そして、その差し押さえる財産は裁判所が見つけてくれるのではありません。回収する側が見つけて、これを特定しなくてはならないのです。

相手の財産が散逸しそうなときは、保証金が必要ですが(後に裁判で勝訴すれば戻ってきます)、裁判をする前に、財産を仮に差し押さえることも可能です。しかし、その場合も、仮差押する財産は、回収する側で見つけておかなくてはなりません。

差押、あるいは仮差押の対象となる財産は、不動産、ゴルフ会員権、株券、預金、売掛金等たくさんあります。ただ、これを特定しなくてはならないのです。

とすると、ここでも、相手の財産に関する情報を掴んでおく必要があります。そして、この情報の入手は、危険信号が発せられてからでは遅いと思います。危機的状況に陥った経営者は財産について口をつぐむのが通常だからです。まだ危機的な状況に至る前に、聞き出しておかなくてはなりません。ここでも有効なのは、訪問であり、面談であり、雑談といえるでしょう。平常時の雑談で、主要取引先、取引銀行等を聞き出すのは、さほど難しくないはずです。

もちろん、債権回収においては、強制回収を図るより、交渉して任意に支払ってもらった方がいいに決まっています。しかし、とにかく「払え、払え」では、なかなかうまくいくものではありません。「この買掛先は、支払をしなかったら、すぐに法的手続を取るであろう。そうなったら他へも波及して大変なことになる。」と思わせなくてはいけません。その意味で、交渉と法的手続による強制回収は連動しているといえます。迫力ある交渉を展開するためにも、相手の財産について情報を得ておくことはやはり肝心なことなのです。

H15.09掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。