中小企業の法律相談

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会社不祥事の内部告発

【1】はじめに

コンプライアンス(法令遵守)の観点から、会社内の違法行為について社員が内部告発をする行為を、法的に守ろうとする立法が議論されています。

近時、不正行為にかかわった副理事長が、内部告発をした従業員を懲戒解雇したところ、これを無効とし、さらに損害賠償を命じた判決がでました(大阪地裁堺支部労働判例855号)。これを素材にして、皆で考えてみましょう。

会社不祥事の内部告発

【2】従業員Aの調査

(1) 〇〇生協の職員Aは、副理事長のBが〇〇生協を私物化している現状に義憤の念にかられていました。Aが調査したところによれば、Bの専横行為は次のとおりでした。

  1. Bはローンを利用して土地を購入し、この土地を〇〇生協に賃貸している。しかし、その地代は、Bのローン及び固定資産税等の合計額を上回る高額な地代であった。もし、その土地が〇〇生協に必要なものであれば、直接〇〇生協が購入すればよいではないか。結局B自身が〇〇生協の地代によって土地を取得したということだ。
  2. しかもその土地上に建てた建物(「△御殿」と呼ばれている)は、表向き研修寮とされているが、実際はBが私邸として使用している。研修として利用されたことはないようである。
  3. 〇〇生協はゴルフ会員権を6件取得し、その取得費用は1億円を越えている。しかもこれらのゴルフ場はBのみしか利用できず、プレイ費用等は全て〇〇生協で支払われている。さらに〇〇生協はハワイの別荘を1億数千万円で2棟購入し、内1棟はBの個人用である。年間管理費用は400万円を越えている。
  4. 本部にはBの発案で建築されたレストランがあり、Bは費用に2億円かかったとよく自慢していた。レストラン内にはBの個人用のVIPルームがある。赤字だがこれを組合員に公表したことがない。また執務室奥にはB専用のシャワー付きベッドルームがある。
  5. Bは〇〇生協の経費で洋服、ゴルフ道具等を購入し女性などにもプレゼントをしている。女性秘書には△御殿に泊り込ませ、身の回りの世話をしてもらっている。
  6. 〇〇生協が推進している国際交流活動も本当のところは、英雄になりたいというBの個人的願望にすぎない・・・

(2) しかし、Aは、〇〇生協の建物内で証拠となる各種文書を無断で持ち出しコピーをとったり、他の従業員のカバンの中を無断で調べるなどしており、これが後に懲戒解雇の理由とされることとなります。

【3】Aのとった行動

Aは、上記2の内容で文書を作成し、生協の最高議決機関である総代会開催日(5月20日)の直前である5月15日に、総代の大半である530名の総代や、理事、監事、弁護士、公認会計士などに、「〇〇生協は何のため、誰のための組織?その組合員への背信行為の実態」と題して、匿名で送付しました。当然反響は大きなものがありました。

【4】〇〇生協の対応

事態に慌てたBをはじめとする〇〇生協の幹部は、直ちに犯人探しを始めました。

他方、総代らに対し「文書は、事実を捏造し、歪曲したものであり、総代会の混乱と生協に対する攻撃を目的としたものである」「生協の業務執行並びに資産管理は法律に基づき適正に行なわれている」「この匿名文書は虚偽の事実を並べ立てる卑劣な文書である」という内容の文書を理事及び監事の連名で送付しました。どれだけの信憑性のあるものか甚だ疑問ですが、緊急に防衛策を講じなければならない、と判断したのでしょう。

【5】以後の双方の応酬

(1) さて、Aはその後どのような行為をとったのでしょうか。5月21日、Aは検察庁に対しBを業務上横領で告訴しました。告訴をするというのは、断固闘う、という強い意思がなければできません。ひとつ間違えば、逆に誣告罪を犯すことになるからです。告訴手続きには証拠を整理するなどの準備が必要ですので、予め想定したスケジュールに沿った行動と思われます。

(2) これに対し、生協は、5月27日、Aを「生協は必要があると認めたときは、従業員を出勤停止とすることができる」という就業規則を根拠に出勤停止としました。

(3) さらに、生協はAに関する調査を徹底的に行ないました。その結果、Aは生協の様々な資料を大量にコピーしていることが疑われました。また多数回のゴルフ接待をうけていることや高額な釣り道具を業者から贈与を受けている事実もつかみました。これらは就業規則に違反するものです。

そこで、生協はAに対し、6月9日、事情聴取を行ないました。質問の概要は、

  1. 内部告発について関与したか
  2. 生協から資料の持ち出しを行なった事実があるか
  3. 取引先に自宅マンションの改装費用を負担させたり、ゴルフの接待を要求し享受した事実がないか
  4. 出勤停止を命じた期間、報告なくして外出したり、組合員に対し説明会を開催したりした事実がないか
  5. Aは懲戒に値するとの判断についての意見はどうか

というものでした。

これに対しAは、Bによる生協の私物化は明らかである、然るに、内部告発者に対するこのような生協の対応は背任であり、質問をする資格はない、といって、回答を突っぱねました。

同日、生協は、Aを就業規則46条に定める「素行不良で生協の風紀秩序を乱した」「許可なく生協の物品を持ち出した」「生協の名誉・信用を傷つけた」という事由があることを理由にして、懲戒解雇処分としました。

【6】Aのとった法的手段

Aは裁判所に対し次の法的措置をとりました。

  1. 〇〇生協の行なった懲戒解雇は無効であり、Aは従業員であるとの地位保全の仮処分の申立て
  2. 解雇無効の本訴と〇〇生協及びB個人に対する損害賠償請求訴訟の提起

aは、緊急かつ取りあえずの判断として、解雇は無効であり、したがってAは依然従業員であるから、生協はAに給料を支払え、という裁判所の判断を求めるもので、最終決着はbの本裁判で行なうものです。

【7】裁判所の判断(その1)

まず、裁判所は?の保全処分は理由があるとして認めました。つまり、Aに対する懲戒解雇は本件内部告発に対する報復を主たる目的とするものであり、権利の濫用であって無効であると判断したのです。

もっとも、これは暫定的な判断にすぎず、本番の裁判で逆の判断も出ることは珍しくありませんので、問題はbの裁判で裁判所がどのような判断をするかが、注目されました。

【8】〇〇生協による謝罪

判決前に〇〇生協はAに対し、謝罪し、内部告発に関し不利益な取り扱いをしないことなどを約束し、和解が成立しました。そのため、Aは訴えを取下げました。判決では〇〇生協に不利な判断が出ることが予想されたことが、和解の理由のひとつであることは否めないでしょう。

そこで、焦点はB個人に対する損害賠償の成否のみとなりましたが、依然争点は解雇の有効性であり、判決が注目されることに変わりはありませんでした。

【9】裁判所の判断(その2)

(1) 裁判所は、Aが各種文書を無断でコピーし、また他人のカバンの中を漁った事実、多数回のゴルフの接待を受けた事実、高額な釣り道具の贈与を受けた事実等を認定し、〇〇生協が定める就業規則の懲戒事由があることを認めました。

しかしながら、懲戒解雇は無効だと判断したのです。

(2) その理由はこうです。

資料のコピーは内部告発に不可欠な手段であり、本件内部告発自体、〇〇生協にとって極めて有益なものである。そうすると、懲戒解雇にまで値するものではない、と言うべきである、というものです。

また、接待や贈与の点については、本件内部告発と無関係であるが、回数の多い、少ないはあれ、他の理事たちもゴルフ接待を受けているし、ゴルフ接待を受けたことから〇〇生協に損害を与えてはいない、釣り道具の贈与の事実があってもこのことから直ちに懲戒解雇は重すぎる処分だ、としました。

極めて正当な判断だと思われます。

さらに、本件懲戒解雇は内部告発に対する報復目的によるものであると認めました。

そして、内部告発の内容の根幹部分が真実ないし告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、告発の目的が公共性を有するか、告発内容自体の組織体にとっての重要性、告発の手段・方法の相当性等を考慮して当該告発が正当と認められる場合には、組織体は、当該告発により仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由に内部告発者を懲戒解雇することは許されない、というルールをたてました。

こうして、裁判所はAの指摘したBに関する事実は真実か、真実だと信じるに相当の理由があったなどと認定して、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用であって許されず、無効であり、Aの雇用契約上の権利及び職業生活上の利益を侵害するものであって、違法であると判断したのです。

(3) ついで、裁判所は、Aは自宅待機命令及びこれに引き続き受けた懲戒解雇処分により、職業生活を奪われて精神的苦痛は非常に大きかったことが認められるので、Aを懲戒解雇した中心人物であったBは、Aに対し150万円の損害賠償をしなければならない義務がある、と判断したのです。

【10】まとめ

本判決は、組織上層部の不正行為に対する告発について、情報収集に就業規則違反があり、また内部告発に伴なって生じる名誉毀損、信用毀損の事実があってもなお、一定の場合には正当性があることを認め、告発者に対して行なった懲戒解雇を無効とし、損害賠償責任を認めた初の司法判断です。非常に重要な論点を含むものであり、会社実務上、大いに参考となると思います。

H15.12掲載