中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

債権譲渡による債権回収

【1】「とにかく払え」は古い

できればないに越したことはありませんが、売掛金の回収がままならないことは、事業をしている以上、避けては通れないところでしょう。

弁済期に支払がない場合、当然、電話したり、書面を出したり、訪問したりして、督促をするのは、どこでもやっていることでしょう。

しかし、その督促は、「とにかく払ってくれ」というのに終止していませんか。督促ですから、それはそれでいいのですが、果たしてそれは効果的でしょうか。「来月になれば・・・」などと言われて、来月も同じようなやりとりをして、結局支払ってもらえなかったなどということはないでしょうか。

伝統的な督促である「とにかく払え」は、効果という面からはもう古いと考えるべきではないでしょうか。

債権譲渡による債権回収

【2】「来月まで待ってくれ」とは?

「今月は厳しいので、来月には・・・」などと言われた場合は、どうしたらよいのでしょうか。「本当に来月は大丈夫でしょうね。」「大丈夫です。」「来月は必ず払ってくださいね。」「わかりました。」というような形で終わっていないでしょうか。

ここで、大切なのは、来月の支払の約束をすることではなく、「なぜ来月になれば、支払えるのか」ということです。これを聞き出さなくてはなりません。

企業は、キャッシュフローをその生命線とします。とりわけ近年そのことを重視する傾向が強くなったように思います。支払うということは「出」であり、そのためには「入」が必要であることはいうまでもありません。

とすると、来月の「入」を聞き出さなくてはなりません。しかも、具体的な内容を聞きましょう。「来月になれば、売上も伸びるから」などというのは、よほどの説得力ある事情がない限りは、意味を持ちません。

「来月○日には、○○商事から売掛金の回収ができる予定だから」と、ここまでを聞き出さなくてはなりません。

もちろん、このような場面で聞き出さなくても、日頃の情報収集で、「そのようなことは先刻承知」というのが理想ではあります。しかし、なかなかそうもいかないこともあるでしょうから、せめて先方が負い目を感じている場面では、きっちりと聞き出したいものです。

【3】「入」を聞き出してからが本番

さて、何とか取引先の××工業から「入」を聞き出すことができましたが、これで安心して良いのでしょうか。

「売掛金の入金はあったらしいが、一ヶ月待っても支払ってもらえない」ということでは、せっかくの情報も台無しです。その入金で別の債権者に支払ってしまったということであれば、最悪です。

そのようなことにならないように、情報を聞き出した段階で、検討していただきたいのが、債権譲渡です。

債権譲渡とは、先ほどの例でいえば、皆さんの取引先である××工業の売掛先である○○商事に対する売掛金請求権を、皆さんに移転させてしまうことです。債権が移転するということは、要するに、皆さん方が○○商事に対する債権者になることであり、○○商事から直接取り立てることができるのです。こうなれば、××工業が売掛金を回収したのに、別のことに使われてしまったというようなことはなくなります。

○○商事が支払能力のあるところであれば、これは強力で、かなり効果的な債権回収となることでしょう。

もちろん、××工業が債権譲渡を承諾しなくては、債権譲渡はできません。承諾をさせるのは、交渉力となる訳ですが、それまでの交渉のいきさつから、先方は「○○商事から売掛金の入金があるから支払える」と言っている訳ですから、「では、ウチがその債権を直接回収できるようにしても同じではないですか」と粘り強く交渉してみるといいでしょう。

【4】一気に形式を整える

債権譲渡というと、難しく考えてしまいがちで、確かに、何もかもきちんとしようとすると、結構大変です。

しかし、勝負は一気につけなくてはなりません。一旦、会社に戻ってから、契約書の文案を考え、これをFAXで送って検討してもらって・・・などというのはいけません。まず、先方の気が変わってしまうでしょう。

では、最低限整えなくてはならない形式は何でしょうか。無駄は極力省きましょう。何せ、訪問時に一気に片付けなくてはならないのですから。

まず債権譲渡の契約書ですが、やや言い過ぎかもしれませんが、後述する通知がきちんとしているのであれば、「不要」といってもいいです。どうしても契約書に拘るのであれば、双方が捺印となると、一旦持ち帰らなくてはなりませんから、先方の記名捺印で、皆さんの会社を名宛人とする「差入型」にしましょう。

むしろ肝心なのは、先方から○○商事に対して、売掛債権を皆さんに譲渡したことを知らせる「通知」です。これは絶対に必要です。○○商事は、この通知が届いて、「ウチの××工業に対する買掛金は、この通知に書いてある譲受人(皆さんのことです)に支払えばいいのだな」と初めて知るのです。しかも、この通知は確定日付といって公的に通知の日付が証明できる形ですることが要求されております(内容証明郵便を使うのが一般的です)。同じ売掛金をいろいろな人に譲渡してしまった場合の優劣を日付の早い者順で決めなくてはならないからです。

この通知を一気に先方に作成してもらいましょう(作成はあくまでも債権を譲渡する側がしなくてはいけません)。

「内容証明郵便で作って、出しておいてくださいね」などと呑気なことは言っておられません。内容証明郵便用の用紙を予め持参しておき、その場で記載して、捺印してもらうのです。内容は、「本通知の送達日以降に弁済期の到来する貴社に対する□□等の売掛金のうち、○○円の部分を下記会社に譲渡します。記・・・」でいいでしょう。

そして、これを「では私の方で出しておきますね」と言って、郵便局に走ればいいのです。

【4】あとはゆっくり回収

ここまでのことを一気に仕上げて、通知が○○商事に送達されれば、皆さんはそのときから○○商事の債権者です。

「××工業から譲渡通知が届いていると思いますが・・・」と○○商事に連絡をして、ゆっくり回収をすればいいのです。

H16.03掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。