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監事の賠償責任

はじめに

今回は、業務執行監査に任務懈怠があったことを理由として、監事に賠償義務を認めた初の最高裁判決(最判平成21年11月27日)についてお話しします。

監事の賠償責任

1 監事について

Q.「監事」という名称は、マンションの管理組合などでも、「理事」と並んで耳にします。そもそも「監事」とは何ですか。

株式会社でいえば監査役のことで、「監事」は、より一般的な呼称です。株式会社の監査役については「会社法」、一般社団法人や一般財団法人については「一般法人法」、その他の団体については各特別法(例えば農協法)において、定められています。前記の最高裁の事案は、農業協同組合に関するものですが、その考え方は、会社の「監査役」にも当てはまるもので、会社関係者にも参考となります。

Q.監事の職務は何ですか。

一般法人法や会社法などで定めがありますが、基本的には、会計監査を含む、理事(会社では取締役)の職務執行の監査です。

Q.監事は、いかなる観点から「理事の職務執行を監査」するのですか。

理事の職務執行が、法令や定款に反していないか、すなわち「適法性」の観点から監査します。理事の職務執行が妥当であったか否かという点、すなわち、「妥当性」の監査はしません。もっとも、理事の職務執行行為が、「妥当性」があるとは到底言えない場合は、理事の善管注意義務違反の問題が生じてきて、「適法性」の問題となり、その限りで監事の監査は及ぶこととなります。

Q.監事が、「理事の職務執行を監査する」ことに任務懈怠をすれば、賠償問題が生じるのですか。

そうです。最高裁判決の事案も、まさにその点が争われたものでした。

Q.監事は、一般に閑職とされ、依頼する側も「理事会の出席は必須ではないから」とか「年1回の監査をしてもらうだけで済むから」といった形で就任をお願いし、就任を受ける側も、やむを得ず引き受ける場合が多いのでは。

現実的にはそのような場合が多いでしょうね。しかし、「理事会への出席は必須ではない」というのは、誤った認識です。法律上、「必要があると認めるときは、理事会で意見を述べ」また、「理事会の招集」を請求することができるとされている場合には、監事の理事会への出席義務があると解されます。

本件の最高裁の判決は、甘い考えで監事に就任することに警鐘を鳴らしました。実は、高裁の判決では、監事の責任は否定されていたのです。

そこで次に、最高裁が逆転判決を下した本件事案をみていきましょう。

2 事案の概要

原告は農業協同組合で、代表理事兼組合長のAが唯一の常勤役員、理事の定数は18名、監事の定数は6名で、被告は監事の一人でした。Aは、理事会において、「公的な補助金を受けることにより、原告に資金的負担のない形で堆肥センターを作りたい」として、理事会の承認を受けました。Aは、その後の理事会で、「建築費等で5億5000万円かかる」、「少しでも原告に負担がかかれば実施しない」「堆肥センターは補助金がはいらない限り着手しない」と発言していました。しかし、実際は、Aは、補助金申請をしていませんでした。さらに、Aは、「補助金が出るまでの立替えとして用地取得費用として、原告に1500万円を限度に資金を拠出することの承認を願いたい」と提案し、理事会の承認を得ました。しかし、実際は承認を超える金額で土地を購入し、理事会では、限度内でほぼ購入が完了した、などと虚偽の報告をしていました。

このようなAの逸脱した行為に関し、被告は、補助金申請の内容、補助金の受領見込み額、受領時期等について、質問をしたり資料提出を求めたりしたことはありませんでした。このことは他の監事についても同様でした。

原告はその後、県知事が選任した管理人の管理下に入り、Aの所業が明らかになりました。被告は監事を辞任しAは解任されました。原告が被った損害は5600万円を超え、被告以外の監事は受領済みの役員報酬を返還しましたが、被告は拒否。そのため裁判となりました。

3 高裁の判断

Q.高裁の判断はどのようなものでしたか。

高裁は、常勤の役員はAのみで、原告においては、代表理事兼組合長が自ら責任を負担することを前提として理事会の一任を取った上、様々な事項を処理判断するという慣行があり、その慣行に基づき理事会が運営されてきたもので、Aの一連の言動について特に不審を抱かせるような状況もなかったと言えるから、このような状況下でAの発言を裏付ける資料の提出を求めなければならないという義務を監事に課することは酷だとして、被告の責任を否定しました(広島高裁岡山支部平成19年6月14日判決)。

4 最高裁の判断

Q.心情的には賠償義務を認めることは被告に気の毒とも思えますね。しかし、最高裁はそのような考えは間違っている、としたのですね。

はい。まず最高裁は、本件における監事は、法律上、[1]理事の業務執行が適法に行われているか否かを善良な管理者の注意義務をもって監査すべきとされ、[2]理事の行為により組合に著しい損害が生じる恐れのある場合には差止請求をすることができ、[3]その職責を果たすため、理事会への出席権、意見陳述権があり、[4]業務及び財産調査権があること、を指摘し、組合のため忠実にその職務を遂行しなければならず、その任務を怠ったときには、組合に対し損害賠償義務を負うものとされていることを指摘しました。

その上で、たとえ理事会で代表理事に一任する決議があり、また業務執行の監査を逐一行なわないという慣行があったとしても、そのような慣行自体、適正なものとは言えないとして、そのことをもって監事の職責を軽減する事由とすることは許されない、と判断しました。

結論として、本件において、被告は、監事として理事会に出席し、Aの説明には疑義があるとして補助金の交付申請内容や受領見込みの資料の提出や、建設資金の調達方法について調査、確認する義務があったというべきで、これを放置した被告は損害賠償責任を負うとして、最高裁は原告の請求を全部認め、被告に1000万円の賠償義務を認めました。

5 教訓

最高裁の判断は、監事の実情からは酷のようにも思えますが、法の遵守を求めた当然の判断であると言われています。

この判断は会社における監査役にも当てはまりますので、監査役は、その職責の重さを十分認識し、その職務にあたることが求められます。

H26.10掲載