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マタニティハラスメント

マタニティハラスメントに関する最近の動向

最近、「マタハラ」という言葉をよく耳にするようになりましたが、いわゆるマタニティハラスメント、すなわち妊娠・出産・育児休業などを理由として解雇・雇止め・降格などの不利益な取扱いを行うことは違法です。

昨年話題になったマタハラ訴訟の最高裁判決(最一小判平26.10.23)は、妊娠中の簡易業務への転換を契機として行った降格措置(管理職から非管理職)について、一定の例外に当たらない限り、男女雇用機会均等法(以下、「均等法」といいます)の禁止する不利益取扱いに当たる旨判示し、この判決を踏まえ、今年1月、均等法及び育児介護休業法(以下、「育介法」といいます)の解釈通達が改正されました(後述2(2))。

その後も、マタハラを理由とした提訴はマスコミにより報道されているところですし、先月、厚生労働省は、妊娠を理由に女性労働者を解雇し厚生労働大臣の勧告にもかかわらず解雇を撤回しなかった茨城県のクリニックについて、均等法に基づく実名公表を初めて行いました。

マタニティハラスメント

妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止

  1. 妊娠・出産・育児休業等の事由を理由として解雇などの不利益取扱いを行うことは均等法及び育介法において禁止されています。具体的には、以下の1.のような事由に基づいて、2.のような不利益取扱いを行うことが違法となります。
    1. 事由の例
      妊娠、出産、産前休業を請求したこと又は休業したこと、産後に就業できないこと又は産後休業したこと、簡易業務への転換を請求しまたは転換したこと、就業しないことを請求し又は時間外等に就業しなかったこと、妊娠または出産に起因する症状(つわりや切迫流産など)により労働できないこと、育児休業の申出をしたこと又は休業したこと、子の看護休暇の申出をしたこと又は取得したこと、短時間勤務等の措置の申出をしたこと又はこれを利用したことなど。
    2. 不利益取扱いの例
      解雇、雇止め、契約更新回数の引き下げ、退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、不利益な自宅待機命令、昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う、仕事をさせないなど。
  2. 妊娠・出産・育児休業等を「理由として」不利益取扱いをすることが均等法及び育介法に違反するとされていますが、妊娠・出産・育児休業等を「契機として」不利益取扱いが行われた場合は、原則として「理由として」いると解されます(原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断されます)。もっとも、上記最高裁判決を踏まえ、以下の1.2.の場合は、例外的に、均等法及び育介法違反には当たらないとされています(平成27年1月改正の均等法及び育介法の解釈通達)。
    1. 例外1
      ・業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、
      ・その業務上の必要性の内容や程度が、法の規定の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在するとき
    2. 例外2
      ・契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、
      ・有利な影響の内容や程度が当該取扱いによる不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき
  3. また、妊娠中又は産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠、出産等を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効とされています。

不利益取扱いを行った場合どうなるか

  1. 行政指導、事業主名の公表
    厚生労働大臣は、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導、若しくは勧告をすることができ、この勧告にも従わなかったときは、その旨を公表することができます。このような社会的な制裁措置により、不利益取扱い禁止の実効性を確保しているといえます。上記クリニックの事案でも、助言、指導、勧告が行われた後、実名公表に至っています。
  2. 損害賠償請求等
    労働者からは損害賠償等の請求がなされる可能性があります。前述の最高裁判決では、降格措置が均等法に違反し無効であるとして管理職手当の支払い及び損害賠償請求がなされました。また、育休からの復帰に際しての担務変更について争われたケース(東京地判平23.3.17)や、賞与支給の要件である出勤率の算定にあたって産前産後休業日数等を欠勤日数として取り扱う定めが無効であるとして争われたケース(最判平15.12.4)などもあります。

働きやすい職場環境作りを

前述のとおり、妊娠・出産・育児休業等を契機としてなされた不利益取扱いは、上記2(2)の一定の例外に該当しない限り、違法と判断されます。また、例外についても、その要件である業務上の必要性や労働者の同意等について、個々のケースに応じて、詳細な状況を確認したうえで判断されることになるため、容易に認められるものでもないと思われます。したがって、妊娠・出産・育児休業等をした労働者に対して、雇用管理上の措置を行う場合には、不利益取扱いに当たらないかを、慎重に検討する必要があります。

妊娠、出産後も働き続ける女性が多い現代社会において、「マタハラ」を防ぐためには、事業主がコンプライアンス意識を持つとともに、なにより、妊娠、出産等について正しく理解し、女性が働きながら妊娠、出産、育児ができる職場環境を整えることが重要でしょう。

なお、近年では育児に協力的な男性も増えていますが、育児のために休暇や時短を申し出る男性に対する妨害や不利益取扱い、いわゆるパタニティハラスメント(パタハラ)についても同様に注意が必要です(男性看護師による3カ月間の育児休業取得を理由に職能給を昇給させず、そのため昇格試験を受験する機会も与えなかったことが、不法行為に当たると判断されたケース(大阪高判平26.7.18)もあります)。

H27.10掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。