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介護休業制度が大幅拡充されます!

介護離職が社会問題化しています。総務省によれば、年間およそ10万人が家族の介護や看護のため仕事を辞めているとのことです。特に介護が必要な親を抱える40代、50代は、働き盛りのうえ、管理職など重要なポストについている人が多く、急な離職は、会社にとっても社会にとっても大きな損失となっています。

介護や育児と仕事の両立を支援する育児介護休業法がありますが、平成28年(2016年)3月に大きな法改正がなされ、制度が大幅に拡充することになりました。改正法施行は平成29年(2017年)1月1日です。

会社の労務管理に大きな影響がありますので、しっかり準備しましょう。

介護休業制度が大幅拡充されます!

制度の概要

  1. 介護休業
    介護休業とは、労働者が、要介護状態の対象家族を介護するために長期休業する場合に、一定の給付を受けることができるという公的な制度です。労働者は、会社に申し出ることにより、最長93日間の介護休業を取得することができ、介護休業終了後にハローワークで手続すれば、休業期間に対応する介護休業給付金を受け取ることができます。
    会社は、労働者から介護休業の申出を受けた場合、対象家族が要介護状態にあるかどうかを検討し、要介護状態にあると判断した場合は休業を認めなくてはなりません。
  2. 介護休暇
    介護休業に似た制度として、介護休暇があります。これは、要介護状態にある対象家族の介護その他の世話を行う労働者が、1年に5日まで(要介護者が2名以上の場合は年に10日まで)、介護その他の世話を行うための休暇をとることができるというものです。こちらは、介護休業と異なり、公的給付はありません。
    介護休暇を有給にしなければならないということはなく、この点は、各会社の就業規則にゆだねられています。
  3. 介護のための選択的措置義務
    要介護状態にある対象家族の介護をする労働者に対して、会社は、以下のうちいずれかの措置を選択して講じなければなりません。
    1. 所定労働時間の短縮(短時間勤務)
    2. フレックスタイム制度
    3. 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
    4. 介護サービス費用の助成など
  4. 介護のための残業免除(新設)
    法改正により介護のための残業免除制度が新設されました(後述します)。

要介護状態の判断

要介護状態とは、負傷、疾病、身体上・精神上の障害によって、歩行・排泄・食事・入浴等の日常生活に手助けが必要な状態が2週間以上続くことを言います。介護保険制度上の「要介護状態」とイコールではないので、要介護認定を受けていなくても、介護休業を認めなくてはならない場合があり得ます。

要介護状態の判断基準については、厚労省が詳細なガイドラインを策定しておりますのでそちらをご確認ください。

会社は、労働者から介護休業の申出を受けた場合、対象家族が要介護状態にあることを証明する書類の提出を求めることができます。

制度拡充のポイント

  1. 介護休業の分割取得
    対象家族1人につき最長93日の休業を取得できますが、現行では原則1回のみの取得に限られています。そのため、将来、状態が悪化したときのためにとっておこうと考えて、休業取得を控えている労働者が多く、問題となっていました。今回の法改正により、対象家族1人につき通算93日まで、3回までは分割取得を認めなければならないことになりました。
  2. 介護休暇の取得単位の柔軟化
    介護休暇について、現行では1日単位で取得することになっていますが、法改正により、半日(所定労働時間の2分の1)単位で取得できるようにしなくてはならないことになりました。
  3. 選択的措置の義務付けられる期間の変更
    会社による選択的措置が義務付けられる期間について、現行では、介護休業と通算して93日間とされています。しかし、法改正により、制度の利用開始から連続する3年間以上の期間にわたり義務を講じなければならないとされました。また、例えば、最初5か月間は短時間勤務制度を利用し、その後介護休業に切り替え、2か月後に再び短時間勤務制度を利用するということが可能になるよう、3年間に2回以上の利用を認めなくてはならないことになりました。
  4. 介護のための残業免除(新設)
    法改正により、労働者の請求に基づき、対象家族1人につき、介護の必要がなくなるまで、残業を免除する制度が新設されました。
    ただし、雇用から1年未満の労働者は、労使協定により除外ができます。
    また、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、残業免除の請求を拒否することができます。
    厚労省は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かは、当該労働者の所属する事業所を基準として、当該労働者の担当する作業の内容、作業の繁閑、代行者の配置の難易等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきとし、単に所定外労働が事業の運営上必要であるとの理由だけでは拒むことは許されないとしています。
    例えば、代行者を容易に配置して事業を運営できるような場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないものと考えられます。他方、所定外労働をさせざるを得ない繁忙期において、同一時期に多数の専門性の高い職種の労働者が請求した場合であって、通常考えられる相当の努力をしたとしてもなお事業運営に必要な業務体制を維持することが難しい場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当すると考えられます。
  5. 介護休業給付金の引き上げ
    従前は、休業開始時の賃金日額の40%が給付されていましたが、介護休業開始が平成28年(2016年)8月以降の場合は、67%に引き上げられます。この制度は既にスタートしています。
  6. 対象家族の範囲の拡大(予定)
    現行の施行規則では、対象家族は、配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫とされていますが、今後は範囲を拡大する方向で見直し予定です。

不利益取扱いの禁止

介護休業制度の利用を申し出た労働者に対して、そのことを理由に会社が不利益取扱いをすることは、現行法においても明文で禁止されています。解雇や雇止めはもちろん、人事考課で不利な評価をすることや雑務しかさせないことも不利益取扱いに含まれます。

さらに法改正により、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を会社に義務付けることになりました。具体的には、ハラスメントを禁止するマニュアル策定、ハラスメントの背景となる不寛容な職場風土の改善のための研修実施、相談窓口の整備などが挙げられます。

介護と仕事の両立に悩む人の中には、職場に迷惑をかけたくないという思いから、本当の理由を明かさずに仕事を辞める方もいると思われます。会社としては、就業規則などを整備するだけではなく、介護休業制度を気軽に利用できるような職場の雰囲気作りも重要な課題です。

H28.8掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。