中小企業の法律相談

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継続的取引と契約書の作成

はじめに

商品の仕入れのように、契約当事者間において、継続的に売買が行われる場合、個々の取引については、ファックスや電話でのやり取りですまされている場合が多い。実際、一つ一つの取引について、詳細な契約書を作成することは、不経済であるし、事実上も不可能である。そこで、このような契約の場合には、後日紛争になった場合に備えて、少なくとも継続的取引に関する基本契約書を作成することが必要となるのである。

多くの会社が何らかの形で、このような継続的取引を行っているであろうから、ここではその基本契約書について、基本的なチェック項目を検討する。

継続的取引と契約書の作成

契約の成立

まず、継続的取引に関する契約書であるから、一定の種類の一定品質を有する商品を継続的に売り渡す旨の合意を示しておくことが最低限必要となる。

また、個々の取引については、契約書を作成することができないとしても、何らかの形で個別取引についての立証ができる証拠を残しておくべきである。そこで、基本契約書において、注文の仕方について定めておき(たとえば発注書・請書のやりとりによるなど)、実際に個々の取引を行う際にも、基本契約書で定めた手続きを守り、発注書・請書等を証拠として残しておくようにしなければならない。電話などで簡単に注文の変更等を伝えてしまうと後日、言った言わないの水掛け論になってしまうおそれがあるので注意が必要である。

取引限度額・債権担保

継続的取引の基本契約においては、取引限度額を定めておくことが望ましい。買主が売主に負担する売り掛け債務があまりに大きくなりすぎると、信用不安の場合の売主のリスクが大きくなるからである。

また、売主のリスクを軽減するため、取引先の代表者に会社の債務につき個人保証をしてもらったり、営業保証金を差し入れさせたり、不動産に根抵当権を設定したりすることもよく行われている。

代金の決済方法など

商品代金の支払いについては、毎月の締日や、支払いの時期などについて、定めておく必要がある(たとえば、毎月末日締め、翌月末払いなど)。

検品等

継続的取引においては、迅速・大量な取引が行われるのが通常であるから、個々の商品のトラブルについては、その都度解決していき、後日に紛争を残さないようにすべきである。そこで、納品時における検品の方法等について、定めをおき、瑕疵についての早期発見・解決を図るべきである。

契約期間

通常は、一定の契約期間を定めて、双方に異議がなければ同一の期間で更新される場合が多い。従って、相手方が契約期間満了後の取引を望まない場合には、契約を打ち切られる場合があることは認識しておくべきである。

ただ、特定の相手方に対して特定の商品を製造・販売するために新たな設備投資をするような場合には、投資を回収するために一定期間の取引が必要となることも十分にあろう。このような場合にまで、契約期間が満了したので更新しないといわれては、会社に損害が生じることになりかねない。そこで、このように新たな設備投資が必要とされるような場合には、別途合意書等を結び、契約期間を延長して損失を被らないようにする必要があるといえる。

解除

継続的取引においても、契約の相手方が義務を履行しない場合に解除権を行使できるのは当然であるが、同程度の債務不履行があった場合に解除しうるのかは予め定めておいたほうがよいであろう。ただ、解除をした場合でもすでに履行の終わった個々の取引については影響を及ぼすことはない。

また、継続的取引においては、相手方について、手形不渡等の信用不安が生じた場合には、これを理由として解除をなしうるよう定めておく必要が特に高いといえる。信用不安を生じた相手に、商品を供給しなければならないとすれば、みすみす回収困難な売掛金を増やすことになってしまうからである。加えて、信用不安が生じた場合には、未払い金について、支払日が到来しなくても、全額一括して請求できるとの条項を加えておくことも有用であろう。

契約条件の変更

なお、継続的な契約が長くなってくると、売買の条件が事実上変更になっているにもかかわらず、書面によりそれが取り決められていないことも少なくない。しかし、それでは、後日紛争となったときに無用な立証の負担をおわされることにもなりかねない。そこで、基本的な契約条件の変更については、紛争が起こる前に合意書を交わすなどしておくべきである。

H17.04掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。