中小企業の法律相談

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名ばかり「管理職」にご注意を!

マクドナルド店長残業代請求事件

2008年1月、マクドナルド直営店の現役店長が、いわゆる「管理職」として残業代を支払わないのは違法だとして、未払いの残業代や慰謝料等を求めて会社を訴えた事件の判決がありました。

この事件の争点は、店長の管理監督者性でした。つまり、直営店の店長は、経営者と一体的な立場にあって残業代を支払われる必要のない管理監督者なのか、それとも残業代を支払われる必要があるのかが争われたのです。

東京地裁は、店長の残業代として約500万円、付加金として約250万円の支払いを会社に命じました(会社は控訴)。

また、この判決後、厚生労働省は、全国の労働局長に対し、管理監督者の取扱いについて適切な監督指導を求める通達を発しました(「管理監督者の範囲の適正化について」平20.4.1基発0401001号)。

著名な企業の労務管理が問われた事件だったために、マスコミでセンセーショナルに取り上げられましたが、実はけっして新しい問題ではありません。

名ばかり「管理職」にご注意を!

「管理職」イコール「管理監督者」ではない

係長や課長、店長等のいわゆる「管理職」に対しては、定額の役付手当を支払うのと引き換えに、残業代を支払わないという取扱いをする企業が目立ちます。役付手当の額が少ないため、「管理職」に昇進すると、「ヒラ社員」であったときに比べ労働時間に変動がなく、あるいは労働時間が増えたにもかかわらず、収入が減少するという逆転現象が起こることも珍しくありません。「管理職には残業代がつかない」と思い込んでいる企業が多いようです。

たしかに、労基法上の「管理監督者」には、労基法の労働時間に関する規定の適用はなく、時間外労働に対する残業代の支払いは必要ありません。このため、企業は「管理監督者」の範囲を広く考えたがる傾向にありますが、実際には、「管理職」だからといって、労基法上の「管理監督者」に該当するとは限らないのです。

労基法上の「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」をいうとされています。労働時間や休日・休憩に関する労基法の規制の枠を超えた事業活動を要請されてもやむを得ないような重要な職務・権限を与えられ、その地位にふさわしく、現実の勤務態様や賃金等の待遇が一般労働者に比べ優遇されているような場合には、残業代を支払われなくても、特に労働者に不利益とならないという考えかたによるものです。したがって、労基法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、「管理職」「課長」「店長」というような名称にとらわれず、実態に即して判断することになります。

これまでの裁判例では、概ね、以下の三つの要素を考慮して、総合的に管理監督者性を判断するものとされており、前述の東京地裁判決も、ほぼ同様の判断基準を示しています。

  1. 重要な職務と権限
    経営者と一体的な立場にあるといえるような重要な職務や権限を与えられているか
  2. 労働時間決定の裁量性
    自分の労働時間・スケジュールを決定する権限を有し、現実にこれを行使できるか
  3. その地位にふさわしい処遇
    本給や役付手当、ボーナス等が一般労働者に比べ優遇されているなど、その責任と権限にふさわしい待遇を現実に受けているか

このように見ると、労基法が想定する「管理監督者」の範囲は相当に狭いものであることがわかります。管理監督者の範囲を、会社の都合のいいように広く解釈してはいけません。

就業規則や個別合意の効力

就業規則や賃金規定で、「管理職」には役付手当を支払うかわりに残業代を支払わないと定めたり、採用時にそのような合意をさせたりする企業もあるようです。

しかし、そのような就業規則や賃金規定、個別合意があるからといって、いわゆる「管理職」がただちに労基法上の管理監督者になるわけではありません。労基法の労働時間や時間外手当に関する規定は、強行法規といって、これと異なる合意をしても変更できない規定なのです。

したがって、このような場合も、先ほどの3つの要素から、管理監督者にあたるかを総合的に判断することになります。

役付手当を残業手当と見ることができるか

管理職が管理監督者に該当しないとしても、役付手当を支払っているので、定額の残業手当を支払っているのと同じだと安心していませんか。

残業代を固定額で支払うこと自体は、違法ではありません。しかし、定額の残業手当が、時間外労働の対価であることをはっきりさせておく必要があります。

このため、名ばかりの管理職に対し「役付手当」が支払われていても、時間外労働の対価として払われていることがはっきりしていないと、あくまで職務や職責に対する対価と判断され、別途残業代を支払わなくてはならないことになってしまいます。

したがって、役付手当を支払っているからといって、必ずしも定額の残業手当とはみなされないということに注意してください。

また、定額の残業手当の額は、実際の労働時間に応じて支払うべき労基法上の割増賃金の額を上回る必要があります。下回った場合は、労基法上の割増賃金額に達するまでの差額を支払わなければなりません。したがって、残業手当が固定額であるからといって、労働時間の把握をしなくていいということにはなりませんので、この点にも注意が必要です。

名ばかり「管理職」にご注意を

名ばかりの「管理職」として、残業代も支払われないまま過重労働を強いられ、健康を害する例も見られるようです。社会的関心が高まっている今、「管理職」の職務や待遇を見直すべきときに来ているといえます。

H20.06掲載