中小企業の法律相談

福岡の弁護士、近江法律事務所が提供している法律コラムです。

民事再生法における取締役の地位

民事再生法の施行

平成一二年四月一日、民事再生法が施行されました。この法律は、主として中小企業が再建するために利用されることが期待されているものです。

破綻した中小企業が再建するための倒産処理手続には、従来和議という方法がありましたが、やはり大規模な株式会社の再建型倒産処理手続である会社更生法の条文と比較すれば明らかなように、和議法はわずかに七〇の条文しかなく、規定面でも不十分でしたし、またその内容も必ずしも中小企業の再建に利用しやすいものではありませんでした。

そこで、和議法の欠点を克服すべく、民事再生法が成立したのです。これにより和議法は廃止されることとなります。

民事再生法における取締役の地位

二 民事再生法における再建方法

さて、再建型の倒産処理手続には、前述した会社更生法もあれば、今回の民事再生法もあります。会社更生法は大規模株式会社の再建を想定しているのに対し、民事再生法は中小企業の再建を想定しているのですが、再建の方法についても明らかな違いがあります。

会社更生法では、従来の株式会社の経営者つまり取締役は、その地位を奪われ、会社は裁判所に選任された更生管財人の手によって再建の道を歩むことになります。これまでの事例では、更生管財人がスポンサーを見つけて、更生計画を立案し、債権者の了解を得て、スポンサー出身の経営陣により再建していくというのが一般的です。

これに対し、民事再生法は、和議と同様に、従来の経営者の経営権に何らの変動もありません。取締役はそのままの地位を存続するというのが通常ということになります。

民事再生規則の第一条三項でも、「再生手続においては、その円滑な進行に努める再生債務者の活動は、できる限り、尊重されなければならない。」とされています。

このように企業等に経営権を維持させたまま再建する倒産処理手続をDIP(Debtor In Possesion)型と呼んでいます。これは、アメリカの倒産法での呼称に従ったもので、占有債務者という意味ですが、要するに債務者(現経営者)が経営を継続するということです。

三 監督委員による監督

もっとも、従来の経営陣に経営権があるとはいえ、それまでと全く同様に何の制約もなく自由に経営をしていたのでは、ある意味で経営に失敗しているわけですから再建も困難な場合もありますし、不利益を受ける債権者の理解を得るもの難しいでしょう。

そこで、民事再生法においては、監督委員と呼ばれる監督者を裁判所が選任して、一定の行為については監督委員の同意がなければできないという制約を与えられるようにしています(民事再生法五四条)。

当面は監督委員が全件選任されることになると予測されており、その意味では純然たるDIP型というより、運用は監督型の倒産処理手続になるといえるでしょう。

といっても、裁判所は監督委員を選任できるというだけで、監督委員が常に選任されるという仕組みになっている訳ではありません。将来的には、監督委員が選任されず、経営者が自ら再建をしていくということもあると思われます。また、そのような再建こそが民事再生法の真のねらいであるとも言えるのではないでしょうか。債権者の信頼に耐えうる誠実な経営者の再建を可能にするのが民事再生法であると思います。

四 管理命令による経営権剥奪

このように見てみると、民事再生法は随分と債務者つまり経営者に甘い再建処理手続であると思われるかもしれません。

しかし、前述したとおり、その恩恵を本当の意味で受けられるのは、誠実な経営者のみです。債権者の信頼を全く得られず、監督委員による監督でもその効果が期待できないような経営者の場合は、経営権を剥奪されることもあります。

民事再生法では、右のような場合、債権者等の利害関係人の申立により管財人を選任し、経営者から経営権を奪い、管財人による再建をさせるという方法を準備しているのです(民事再生法六四条)。

これを管理命令と呼んでいますが、この管理命令が出されると経営者はもはや財産の管理処分権がなくなってしまいます。

五 損害賠償査定制度

取締役がその故意または過失により会社に損害を与えた場合は、会社に損害賠償義務を負うこととなっています(商法第二六六条)。

民事再生手続を利用するというのは、会社が経営破綻している場合ですから、経営判断に誤りがあったということもあるでしょう。そしてそれが経営判断の裁量内とは考えられないといった場合は、取締役は会社に対して損害賠償義務を負うということもありうるでしょう。

取締役に対する損害賠償請求は、通常は株主代表訴訟等でなされるものです。この点、民事再生法では、無責任な取締役等の責任追及を簡易迅速にできるように、損害賠償の査定制度を設けました(民事再生法一四三条一項)。再生手続が開始した後に、取締役に会社に対する損害賠償義務が認められるような場合は、債権者の申立により訴訟を経ずに取締役等の会社に対する損害賠償の査定ができるようにしたのです。

これは経営者のモラルハザードを防ぐためのものといえます。「明らかな判断ミスで経営に失敗したとしても、民事再生手続があるさ」という態度は許されないということでしょう。

これまで述べたことでお分かりの通り、民事再生法は、誠実な経営者には利用しやすく、そうではない無責任な経営者には厳しい制度ということができます。

H12.05掲載